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バイデン大統領を待ち受ける中間選挙へのいばらの道~転換期の米国内情勢

パンデミックの次は経済とウクライナ危機のジレンマ。トランプ氏の求心力に陰りも

佐藤由香里 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 研究員

拡大米連邦議会で一般教書演説をするバイデン米大統領(左)=2022年3月1日、ホワイトハウスの中継動画から

中間選挙で「バイデン惨敗」の可能性は?

 それではバイデン政権はどのように2022年中間選挙を見通しているのだろうか。戦後、中間選挙では、G.W.ブッシュ(2002年)とビル・クリントン(1998年)を除いた全ての大統領が野党に下院奪還を許している。

 バイデン大統領は下院で5議席、上院で1議席を失うだけで、多数党の座から転落することなるが、歴代の大統領と同様に、少なくとも下院で多数派でなくなることはほぼ必至だろう。つまり問うべきはどの程度の議席減か、であるが、これを予測する分析モデルについて紹介したい。

可処分所得と支持率次第で「下院50議席以上ロス」の予測

 本モデル(図表参照)を考案した米デンバー大学のセス・マスケット教授(@smotus)は、「バイデン大統領の支持率と国内経済の回復次第では、中間選挙で民主党が下院における議席ロスを健全なレベルに抑えることが可能」と解説する。

 その一方、この2つの指標[一人あたりの可処分所得(RDI)成長率×大統領支持率]が、本選挙目前(9月)まで継続・あるいは下降した場合は(例:RDI成長率0%≧、支持率43%≧)、民主党は下院で「50議席以上ロス」という「惨敗」が予想出来る。

拡大3つの変数を戦後のデータベースを基に回帰分析している。【変数①】中間選挙における大統領支持率(3パターン)【変数②】X:一人あたりの可処分所得(RDI)の成長率【変数③】Y:大統領所属政党が失う下院議席数。  ※実質GDPとRDIの成長率は類似した変動を描くと言われているが、過去数か月のRDIは横ばい状態が続いている。マスケット教授によればRDIを変数として使用した方がGDPよりも高い精度が期待できるという。

共和党の両院奪還は「間違いない」との説も

 では上院はどうか。共和党系ロビイストのコリー・ブリス氏によれば「共和党による上下両院の奪還(レッド・ウェーブ)は間違いない」と述べる。

 上院は民主・共和両党議席が50対50(カマラ・ハリス副大統領=上院議長の1票を除く)で拮抗しており、1議席でも双方にとって命取りだ。100議席中3分の1が対象に過ぎなくとも、かなり厳しい戦いは免れないというのが大方の見解である。

ウクライナ情勢への米世論の動きは?

 米国民はロシアによるウクライナ侵攻をどう見ているか。また本問題はどのように世論を動かし、更には中間選挙に影響しうるか。一般的に外交問題に対する国民の関心が低い米国とっても(大体どの国でも同じことが言えるが)、ウクライナ危機は世論を席巻する重大課題だ。

ロシア産エネルギー輸入禁止、ガソリン価格上昇

 バイデン大統領は3月8日朝(現地時間)、原油やガソリン、ジェット燃料などを含むエネルギー関連製品のロシアからの輸入を即時禁止することを発表した。3月1日の一般教書演説で同大統領はロシアを厳しく非難したが、国内の更なるインフレリスクを懸念し、慎重な姿勢を保っていた。

 米国は原油・天然ガス輸入量を8%(1日あたり約637,000バレル)ロシアに依存しているために、輸入禁止に踏み切った場合、ガソリン価格をはじめ更なる物価高騰のリスクに直結するだけでなく、なお新型コロナウイルス禍から回復途上にある経済状況を脅かすことになる。ウクライナ危機の煽りをうけたこの2週間のガソリン価格の全米平均は1ガロンあたり4ドルを突破し、14年振りに最高値を記録した(3月8日時点)。

拡大カリフォルニアではガソリン価格が1ガロン=5ドルを超えた=2022年3月8日、カリフォルニア州パロアルト

ウクライナの惨状に、派兵せぬかわりに「痛み」許容の姿勢強まる

 クイニピアック大学による世論調査(3月4-6日実施)によれば「(ガソリン価格が上昇しても)ロシアに対する原油輸入禁止措置を支持する」と回答者の7割が答えている。米国民はロシアへの制裁に超党派で同調する姿勢が強まっている反面、バイデン大統領への支持率に変化は殆ど起きていない。

 これまで国内のインフレ・物価高に更なる拍車がかかることや、日常の経済活動に被害が及ぶリスクを回避したい姿勢が強かった米国人も、日々のウクライナの惨状を目の当たりにするにつれて、現地に米兵を派遣しない代わりに伴う「痛み」であれば仕方ない、と許容する姿勢が強まっているようだ。他方、短期間にせよ対ロシア制裁の増強によって更なるコストがかさむことは必至であり、また今後ロシアから報復措置が執られる可能性も大きい。

 ホワイトハウスや連邦準備制度理事会(FRB)にとって、経済政策運営が一段と難しくなることには変わりないだろう。

拡大国境で引き裂かれる家族。総動員令によりウクライナを離れられない男性は、国外に逃れる家族と、別れを前に抱き合った=2022年3月3日、ウクライナ西部ウジホロド
拡大キーウ近郊ブチャで3月10日、教会の裏に集団墓地を掘り67体を仮埋葬する人々。ブチャを占領していたロシア軍との交渉の末に実現した=病院関係者提供の動画から


筆者

佐藤由香里

佐藤由香里(さとう・ゆかり) (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 研究員

カルフォルニア州立大学で学士号(国際関係論)、ワシントン・セントルイス大学で理学修士号(公衆衛生学・MPH)取得。米国中西部の地域病院プロジェクトマネージャー、在米デンバー総領事館専門調査員(政治・経済・広報文化)など8年間の米国生活を経て2019年7月に帰国。同8月より現職。注力テーマは米国の内政・選挙、公衆衛生、社会問題。国際戦略研究所ウェブサイト『考』に分析レポートを掲載。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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