世界に広がる連帯の動き。一人の力は小さいかもしれないが積み上げれば大きな力に
2022年03月15日
2022年2月24日、ロシア軍によるウクライナへの侵攻以来、ウクライナをめぐる情勢は刻一刻と変わり、先が見通せない状況が続いている。ロシアの攻撃はやまず、ウクライナの人々は家を離れ、安全を求めて周辺国へ逃れ、日々その数が増えている。小児科や産婦人科の病院が攻撃され、子どもを含む多くの死傷者が出ているなど、心が痛む状況が続いている。
国連は1日、「緊急アピール」を発出し、ウクライナ国内で避難していたり、国外に逃れたりする人々に対する緊急人道支援として17億ドル(約1950億円)が必要だと発表した。
グテーレス国連事務総長は、国連機関やNGOなどのパートナー団体は、支援を拡大していると述べ、特に女性、子ども、高齢者や障がいのある方々などへの支援の重要性を強調。ウクライナ国内で支援を必要とする人々は約1200万人に上るうえ、400万人以上が難民となって国外に逃れ、保護や支援を必要とする可能性があると推計した。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の発表によれば、2月24日からの2週間で約200万人、3月12日現在で260万人を超える人がウクライナの国境を越え、隣国に逃れているが、より深刻なのは、ウクライナ国内の状況だとされる。ウクライナ国内で避難している人々の数は把握されていないが、日々、ニュースやSNSを通じて伝わってくる人々の状況からも、その状況の悲惨さや支援ニーズの大きさが想像される。
260万人の難民のうち、半数以上の160万人の人々を受け入れているポーランドでは、すでに国際NGOや地元住民グループなどが、国境で人々の受け入れなどの支援をおこなっており、13カ所の難民受付センターが設置されている。知人を頼って一時的にポーランドに滞在するほか、さらに他の国へ移動するケースある。
モルドバでは、政府によってウクライナからの人々を受け入れる難民センターが設置されたが、72時間という滞在制限があり、多くの人がポーランドなど他国への移動を強いられている。モルドバから陸路でルーマニアに向かう車両も提供されているが、一日に600人しか運べず、やむなく滞留する人々も少なくない。
ウクライナでは、18歳から60歳までの男性の出国を制限しているため、国外に逃れるのは女性、子ども、高齢者の人々だ。子どもだけで避難するケースも確認されており、その保護も喫緊の課題となっている。
今回のウクライナでの人道支援の最大の特徴は、状況が非常に流動的で先が見通せないという点である。ロシアによる攻撃がいつやむのか、いつ人々が家に帰れるのかを見通すのは困難だ。また、シリアや南スーダンの危機の際、近隣諸国で見られた居住地域や難民キャンプの設置は計画されておらず、人々の流動性が高くてどこで支援が必要なのかを把握するのも、極めて難しい。
こうした事情を受け、支援の方法として、一時的には食糧や日用品などの物資による支援が不可欠だとしつつ、現金の支給が推奨されているのも今回の特徴だ。
もともと人道支援における現金の支給は、より尊厳のある支援とされてきた。市場が機能しているなどの条件をクリアする場合には、現金の支給が推奨されてきたが、実際にはドナー側の意向などにより、現金給付という手法は限定的だった。
ところが、今回は国連が必要とする資金17億ドルのうち、約40%が現金給付支援とされている。人々の流動性や状況の不透明さなどから今後、現金給付による支援がより進むことが予想される。
私が所属するジャパン・プラットフォーム(JPF)では、ロシア軍による侵攻が始まった翌日の2月25日、緊急の初動調査を実施することを決定した。加盟するNGOがポーランドへ向かい、モルドバ、ルーマニアでも調査を実施したうえで3月7日、JPFとしてウクライナへの支援を正式に決定した。
9日には、企業や個人の方などに向け、緊急のウクライナ対応の説明会を開催。緊急初動調査をしたピースウィンズ・ジャパン(PWJ)、難民を助ける会(AAR Japan)、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(SCJ)の3つのNGOが現地の状況、支援の課題、今後の計画などについて報告した。
PWJの報告によれば、ウクライナ国内では、職員などの安全を確保するため、事務所を閉鎖して撤退するNGOも少なくないが、国内に残って最後まで支援活動を実施することを決めたNGOもあるという。説明会では、PWJが連携する現地のNGOからのビデオメッセージも紹介された。
ビデオメッセージでは、現地NGOの代表が、キエフ市内でも毎日銃声が聞こえ、ミサイルが撃ち込まれて多くの人々が命を落としていること、電気や水などのインフラは機能しているが、病院は閉鎖され、軍病院が負傷した人々の治療にあたっているが、医療物資や医師は不足し、救急のキットが特に必要になっているという状況を報告。
さらに、「家族は安全な場所に退避させ、自分はウクライナに残ってウクライナの人々のため、平和のために最後まで支援を続ける」「こうした辛いなか、遠い日本からのウクライナへの支援に感謝している」などと語った。
ウクライナや周辺国で子ども支援を実施するSCJからは、現地の子どもの様子や支援の状況が紹介された。国外に逃れている200万人のうち、少なくとも40%は子どもとされる。養育者と離れた子どもの保護、家族との再会のための支援はもとより、家族との別れやロシアの攻撃が子どもにもたらした心理的負担をケア、サポートする重要性についても説明された。
現時点で、日本のNGOとしてウクライナ国内に入って支援をすることはできない。私たちが今できるのは、現地に残り、懸命に支援を継続する現地のNGOなどの人々を支え、支援を継続することである。
ウクライナで今、起きている人道危機は、1カ月前には誰も想像だにしなかったものである。私自身、長年人道支援にかかわってきたが、2週間で200万人が難民となって国を追われるという事態は経験したことがない。人々が平和を取り戻し、国が復興するまでにどれだけの時間がかかるのか、想像するのも難しい。
そんななかで希望があるとすれば、世界中でウクライナのために連帯を示す動きがあることだ。ウクライナの人々や、この戦争の影響を受けるあらゆる人々のために、世界各地で市民がそれぞれのやり方で声をあげている。
一人ひとりに出来ることは小さいかもしれない。だが、ウクライナの人たちを支えるためにできることはたくさんある。ウクライナで今、何が起きているのか、関心を持ち続けることだって構わない。それぞれが小さいことを積み上げていけば、いずれは大きな力になる。
本稿の最後に、皆さんにも参加していただける私たちの活動を二つ紹介する。
日本の支援団体などが集まって、「世界にあなたの声を #voiceforpeace」というサイトを立上げた。「同じ時代、同じ世界をともに生きる市民として、平和を取り戻すために努力を続ける全世界の市民に連帯の意を示す」ことを掲げ、賛同者とみなさんの声を募っている。JPFもこれに賛同し、賛同者を募る動きにも協力している。
寄付が可能な方は、支援団体への寄付をお願いしたい。
支援活動をしていると、食糧などの物資が足りない状況をみて、物資を提供したいという声をいただくことがある。もちろん、海外から物資を輸送が必要な場面はあるが、現地で最も必要とされているのは現金である。非常に流動的な現地の状況から、人々の移動も多く、今日必要であったものが、明日必要であるとは限らないからだ。
先述した通り、支援関係者の間では、人々の尊厳をより守る支援として、現金の支給が推奨されている。また、資金があれば、輸送コストをかけることなく現地で必要な物資を購入したり、医師や看護師を雇ったりすることが可能になる。
支援団体は、国連機関やNGOごとに、それぞれの異なる専門分野や活動地域がある。支援したいと思う団体を選び、寄付をしていただければ幸いだ。
ジャパン・プラットフォーム(JPF)は「JPFウクライナ特別サイト」で寄付を募集している他、READYFORでクラウド・ファンディング「ウクライナ人道危機|苦境にある人々に寄り添った支援を」も実施している。
ジャパン・プラットフォーム(JPF)は、NGO、政府、経済界、が対等なパートナーシップのもとに協働し、緊急人道支援を実施するプラットフォームです。政府からの資金、企業・個人からのご寄付を活用し、加盟する42のNGOの国内外での人道支援活動をサポートしています。
※ロシアのウクライナへの軍事侵攻に関する「論座」の記事は特集「ウクライナ侵攻」からお読みいただけます。
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