戦争終結には米ロ首脳の直接交渉が必要。和平と紛争予防も包含した努力を
2022年03月17日
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から3週間が経過しようとしている。ロシア軍の攻撃が首都キエフを目指す多方向からの全面的侵攻として電撃的に行われ、また両軍の規模の圧倒的な差異から、内外の多くの専門家は、ウクライナが長く持ちこたえることは困難と予測した。さらにロシアによる侵攻の当初から、米国とNATOがウクライナに軍隊を派遣することはないと明言したことも、このような予測に拍車をかけた。
この希望が現実のものとなるため、国際社会は一致してウクライナに対して、軍事物資の援助から避難民受け入れに至るまで、物心両面から最大限の支援を行わなければならない。
まず第一に必要なことは、ウクライナ人の生命と財産にこれ以上の被害を与えてはならないという人道的考慮であり、さらに国際社会が、現下のウクライナ危機から、今後の世界の平和と安全の維持・増進についての教訓を得るためにも、ウクライナの一方的な敗北ではない形で、一刻も早くこの戦争を終結させることである。
万が一、この戦争を仕掛けた侵略国が明白な勝利を得るようなことがあれば、今後の世界の平和と安全は多大な危険と不安を抱えることとなる。我が国を取り巻く東アジアの状況についても全く同様である。
日本は今回の危機を、決して「対岸の火事視」してはならないのである。
トルコの仲介により3月10日に開催されたウクライナとロシアの外相協議は全く進展がなく、ロシア側による事実を無視したPRの場に終始した感があるが、ロシアが現状では停戦の意思がないことを考えれば、外相レベルの協議に期待することは無理である。
プーチン大統領の言によれば、「NATOの東方拡大がロシアの安全保障にとっての脅威である」とのことである。それは彼の思い違いもあるが、それを大きな理由として今回ウクライナに侵攻したのであれば、その点に答えを出さねばならない。
プーチンの立場からは、ウクライナ侵攻は手段であり、本来の目的は、ロシア崩壊以来、圧倒的に不利となってきたNATOとの力関係を回復することであろう。NATOとしてもこの問題に対応し、ロシアとの信頼関係を醸成しなければ、ウクライナ戦争は終わらない。NATO対ロシアというこの大問題について、実質的にNATOを代表してロシアと話し合うことができるのは、米国をおいてほかにない。
具体的に述べると、現下のウクライナ危機の解決のためには、ウクライナとロシアとの「停戦協議」と並行して、NATOとロシアとの間で紛争予防のための「信頼醸成」の構築が必要である。その実現のためには、今や米国とロシアとの直接協議が必須であると確信する。
※ロシアのウクライナへの軍事侵攻に関する「論座」の記事は特集「ウクライナ侵攻」からお読みいただけます。
これまでウクライナとロシアとの停戦協議の成果として公表されたのは、もっぱら人道回廊の設置であるが、これは補足的な措置であり、事前のロシア側の要求から判断すれば、今後の停戦協議の焦点となることは主として次の3点と考えられる。
①ウクライナの中立化、即ちNATO加盟の可否
②非武装化、即ち軍備の廃棄
③ルガンスク、ドネツクという東部2州の自治権拡大または独立の承認(及びロシアのクリミヤ併合の承認)
筆者は、欧州の安全保障については専門領域ではないが、最近、目にした報道や読んだ関連文書をもとに、あえてこの3つの焦点についての私見を述べてみたい。
2008年のブカレスト・サミットにおいて、NATO諸国はウクライナの「将来の加盟」について原則的な合意をしたが、その後のドンバス地方における軍事紛争や、親露のヤヌコビッチ政権の成立などで、加盟の手続きは進展しておらず、今回のロシアによる侵攻が始まると、ゼレンスキー大統領も、現状ではNATO加盟は無理との認識を示している。他方、ロシアはウクライナ側に対して、憲法を改正してNATO非加盟及び中立を明文化するよう要求していると伝えられる。
憲法をどう改正するかしないかは、ウクライナ国民が決めるべき問題であるが、今回のロシアの侵攻の理由が、「NATOの東方拡大阻止」であることを勘案すると、例えば今後10年と期限をつけて、加盟問題は凍結するとともに、ウクライナの安全をNATOとロシアの双方で保障する趣旨の条約締結は必要と考える。
非武装化というと、日本国憲法の9条を想起せずにはおられない。独立国が自衛のための戦力を有しないことは、そもそもあり得ないことであるので、現在の憲法9条の表現は決してそのまま他国に勧められるものではない。しかし、「自衛力は有するが、それ以外の目的に利用されるような戦力は有しない」という考え方は、今回の戦争という大きな悲劇を経験したウクライナとして選択すべき一つの道ではなかろうか。
この点、太平洋戦争の惨禍を乗り越えて、平和国家として発展を遂げた日本が選択した憲法の「精神」が、一つのモデルとして提供できるのではないかと考える。
ロシアの主張は、ウクライナ政府が本件合意に規定されている、「憲法改正によって地方分権を明記し、その上で、法律により両地区に特別の地位を付与する」(第11条)ことを順守しなかったことを強調しているが、この「特別の地位」が具体的に何を意味するかは、合意2の条文上においても、また合意2の第11条の脚注においても明確にされていない。
今回の戦争の結果、この両州の地位が今後いかなるものになるか、あるいは分離独立を容認するか否かについては、停戦協議で決めるべきことではなく、あくまでも戦争終了後に、国連などの監督下で当該地域の住民投票を行って決めるべきと考える。
さらに、クリミアのロシア併合の承認要求に至っては、クリミア独立に関する住民投票は全く不正であったとする見方が国際社会で一般的であり、2014年の国連総会においても、クリミア併合を非難する決議が圧倒的多数で可決されているので、この併合をウクライナが改めて承認する余地はゼロと言えよう。
同大統領は公正な選挙により2019年に選出されたものであり、任期は5年間である。ウクライナの憲法108条によると、大統領が任期中に交代するのは、辞任、病気による職務不能、弾劾による解任、及び死亡の場合であり、後任の大統領が選出されるまでの間は、首相が職務を代行する(同112条)。独立から31年間のウクライナの歴史において、大統領が途中交代したのは、2014年に親露派のヤヌコビッチ大統領が亡命した際の一度のみである。
万が一ゼレンスキー大統領が、今回の戦争の過程で何らかの理由で職務の遂行ができなくなった場合には、憲法の規定に従い、シュミハリ首相が暫定的な大統領代行となって、職務を代行し、その後に速やかに大統領選挙が行われねばならない。
先日、ウクライナ事情に詳しいある専門家による講演会の質疑応答において、筆者は「ウクライナにとって、停戦の条件として絶対に守らなければならないのは、ロシアが要求している3つのポイントのうちどれか」を質問した。これに対して講演者は、NATO加盟の棚上げ以外は了承できないと考える旨を述べた。
それだけで折り合いが付けばこしたことはないと思うが、ロシアがそう簡単に妥協するとは思われず、少なくとも東部2州について独立承認とまではいかないとしても、「特別の地位の付与」についてさらに踏み込むことは避けられないと考える。
3月11日のG7首脳のオンライン会談終了後に発表された共同声明は、「ウクライナ侵攻を続けるロシアを、経済や国際金融システムから孤立させるとの決意から追加措置を講じる」旨を明言したが、現在、これがロシアに停戦を迫るほぼ唯一の手段であるだけに、各国の連帯を強固にして経済的圧力を一層強化しなければならない。
日本はこれまで、主として貿易及び金融面の制裁について、西側諸国から半歩遅れて実施してきた。バイデン米大統領が8日、ロシア産の原油、石炭や天然ガスの輸入禁止を発表したことに関し、岸田文雄首相は9日、日本はエネルギーの安定供給と安全保障を国益とすると述べ、米国の禁輸措置には同調しないと述べた。
ロシアのウクライナ侵攻を止めさせることが、現在の国際社会共通の重要課題であることを考慮すると、ロシア産エネルギーの輸入に、日本が何の制限措置もとらないことは、許されることではない。
確かにエネルギー問題は日本のアキレス腱であり、その安定供給が損なわれることは国民生活にとって重要な影響を及ぼす。しかし、今回のロシアの暴挙を見ると、今後長期にわたってエネルギー供給の一定部分をロシアに依存することは危険といわざるを得ない。これは我が国の安全保障の問題である。速やかに代替国探しや、中長期的な化石燃料の依存度減少の方策を考えるべきだが、この際、まずはロシア産エネルギーの大幅な輸入削減を実施すべきと確信する。
その国民生活への影響は決して小さくはないが、東日本大震災の直後には、ガソリン・灯油の価格暴騰を経験し、さらに計画停電まで行って、国民一人一人が耐えてきた。今回も、この時と同様に、身を切る覚悟で臨まねばならない。
なお、我が国とロシアとの間の最大の案件は、北方領土問題の解決による日ロ平和条約の締結であるが、この問題は、ロシアに対する制裁とは完全に切り離して考えるべきである。いずれにしても、今回のウクライナ侵攻に照らし、我が国の北方領土戦略も一から見直す必要が避けられない。
国連高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ロシアによる侵攻の開始後、ウクライナからは既に300万人を超える国民が国外に避難したと伝えられる。その中で日本が受け入れたのは、日本国内に親族・知人が生活している数十名に過ぎない。
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