憎むべきものを憎むべき時に憎む勇気こそ~ロシアのウクライナ侵攻に
国際政治をルールが意味を持たない力任せの闘争の場に戻さないために必要なこと
神谷万丈 防衛大学校総合安全保障研究科教授
19世紀型の権力闘争の場に戻るリスク
国際社会は、こうしたロシアの悪行を憎み、手を携えて立ち向かわなければならない。もし、大国による小国に対するこのようなふるまいが国際社会でまかり通ってしまうようなことがあれば、過去数十年にわたり世界の平和の土台となってきたルールを基盤とする国際秩序は根底から傷つけられる。
そうなれば、世界は他国の力に対抗して身を守るためには力しかないという、19世紀型の権力闘争の場に戻ってしまいかねない。それは、世界にとっても日本にとってもきわめて好ましくないことだ。われわれは、ルールを基盤とする国際秩序を守るために、ロシアの暴挙に決然と対峙しなければならない。

キエフで3月15日、ロシア軍による攻撃を受け、炎上する共同住宅=ウクライナ緊急事態省提供
ルールを基盤とする国際秩序とは
では、ルールを基盤とする国際秩序とは何か。
国際社会は、中央政府を欠いた、国際政治学の専門用語で「アナーキー」と呼ばれる状況にある。この状況の下では、力の強い者がその気になれば、特に弱い者に対しては、実はかなりの程度まで勝手なことができてしまう。
国内社会では、いかに力の強い個人や集団でも、法やルールに違反すればただではすまない。政府やその機関である警察、裁判所、さらには場合によっては軍隊などが、法に基づいてそうした者を取り締まり、あるいは罰してくれるからだ。先ほどのたとえ話のようなことが起きた時には、被害を受けた市民は自力では暴力団にかなわなくとも、警察や裁判所に駆け込んで助けを求めることができる。
だが、国際社会にはそうした存在がない。そのため、国際法には強制力が乏しく、力の強い者のルール違反がまかり通ってしまいやすい。今回のロシアのウクライナ侵略は、この国際社会の根本的現実が、21世紀の今日でも基本的には変っていないことをあからさまにした出来事だった。
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