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ウクライナ侵攻で「戦闘モード」に変貌したドイツのジャーナリズム

政府とメディア、世論が一体化したかに見えるドイツ。だれが歯止めをかけるのか

高野 弦 朝日新聞社前ベルリン支局長

 国際政治の場で圧倒的な暴力を目の当たりにしたとき、ジャーナリズムはどう向き合うべきなのか。ロシアがウクライナに侵攻して以来、日増しに「戦闘モード」を強めていくドイツの報道記事を目にしながら、そんなことを考えている。

歴史認識にも異議

 リベラルメディアを代表する週刊誌「シュピーゲル」。この数週間の社説は、現実主義に徹している。

 ロシアがウクライナとの国境に兵力を集め、緊張が高まっていた2022年1月下旬。西側各国がウクライナに武器を供与し、東欧各国への軍備の増強に乗り出す中、ドイツ政府は本格的な支援をためらっていた。ウクライナからの度重なる要請を拒否し、この時点で支援を決めたのは、ヘルメット5000個にとどまっていた。

 ドイツには「紛争地には武器を輸出しない」という外交原則がある。平和主義を掲げて再出発した戦後外交の柱だ。ショルツ首相の社会民主党は、歴史的にロシアを含めた東側との関係が深く、そのことも対立回避の背景にあったとみられる。

 シュピーゲルはそんな政府の姿勢を真っ向から批判し、政治の現実に向き合うように促した。

 1月29日号の社説のタイトルは「ヘルメットだけでは足りない」。ロシアとの対話を重視する姿勢を「戦後のドイツの平和主義の伝統だった」と、もはや過去のものであると位置づけたうえで、「プーチンに対話する気がないのに、武器を供与することが、どうしてロシアとの対話をストップさせることになるのか」「戦後の外交方針の陰に安易に隠れるのは誤りだ」として、ドイツ製兵器の供与に踏み切るべきだと主張したのだ。

 ロシアが実際に侵攻を始めると、論調は激しさを増していく。2月26日号では、「(侵攻が始まった)2月24日で世界は全く違うものになった。欧州人は生き残りのための準備をしなければならない」として、欧州が独自に防衛力の強化に取り組むよう訴えた。トランプ大統領のようなリーダーが再び米国に誕生したとき、もはや頼りにならないことも理由に挙げた。

 中面に掲載された「幻想へのわかれ」と題した分析記事では、第2次世界大戦でロシアに大きな犠牲をもらしたという「罪の意識」からドイツ人は抜け出すべきだとした。ナチスが侵略したのはロシアだけではない、ウクライナや東欧諸国もまた犠牲になったのだ、だからロシアだけに特別な感情を抱くべきではない、という趣旨だった。

 同誌はこれまで、理想主義の立場にたって、武力の行使や武器輸出には、批判の目を向けてきた。たとえば、イスラム過激派によるテロへの報復として、フランスがシリアへの空爆を始めた2015年。ドイツ連邦軍が偵察機や空中給油機などを派遣する形で空爆の支援を決めたときだ。社説は「アフガニスタンへの軍事介入の失敗から何も学んでいない」とし、米独仏などによるシリア紛争への介入を厳しく非難。軍事介入は、いっそうのテロを誘発するだけだとし、まずはドイツが続けていた中東への武器輸出をやめるべきだ、と説いた。

 左派的なメディアの南ドイツ新聞も似た傾向をたどっている。

 コラムニストのヤゴダ・マリニック氏は2022年2月24日のオピニオン面(電子版)で「多くの民主主義者が平和のレトリックにこだわる一方で、歴史修正主義を追い求める攻撃的な政治勢力が力を増している。こういうときはナイーブさが命取りになるのだ」とし、平和主義からの転換を求めている。「ドイツ人の中には、平和運動の陰に隠れるのが好きな人がいる。しかし平和の夢は結局、(戦場の)人々が見捨てられることにつながってきた」とさえ述べる。

世論も政府も

 ドイツ公共放送によると、ロシアによる今回の侵略が始まって以降、週末に行われる平和運動のデモでは、米国がイラク戦争を始めた2003年とは打って変わり、武器輸出や軍備増強に反対する声はほとんど聞かれないという。平和運動と縁の深い「緑の党」が社会民主党とともに政権にあり、現実政治に向き合っていることも影響しているのだろう。3月3日発表の世論調査では、ウクライナへの武器輸出について「正しい」と答えた割合は61%に達し、20%に過ぎなかった2月上旬から大幅に増えている。

ドイツのショルツ首相
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 政府は、メディアの論調や世論に背中を押される形で、「力の政治」にかじを切った。

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筆者

高野 弦

高野 弦(たかの・ゆづる) 朝日新聞社前ベルリン支局長

 1966年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。宇都宮、浦和支局、東京本社経済部、アジア総局(バンコク)、ニューデリー支局などを経て、2016年から2019年までベルリン支局長。この間、経済部次長、国際報道部次長・部長代理を務める。著書に「愛国とナチの間~メルケルのドイツはなぜ躓いたのか」(朝日新聞出版)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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