山下裕貴(やましたひろたか) 元陸将、千葉科学大学客員教授
1956年宮崎県生まれ。1979年陸上自衛隊入隊、自衛隊沖縄地方協力本部長、東部方面総監部幕僚長、第3師団長、陸上幕僚副長、中部方面総監などを歴任し2015年に退官。現在は千葉科学大学客員教授、日本文理大学客員教授。著書に『オペレーション雷撃』(文藝春秋)など。アメリカ合衆国勲功勲章・功績勲章を受章。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
歴史的愚行の早期終結を
2月24日にロシア軍がウクライナ侵攻を開始して4週間が経過した。各戦線ではウクライナ軍の激しい抵抗に遭遇し、ロシア軍の作戦は思った通りに進んでいない。この原因は米国や英国の軍事専門家がロシアの情報収集能力や作戦計画の杜撰さにあると分析している。
それではロシア軍のウクライナ侵攻開始から、現在までの作戦上の失敗の原因を考えてみたい。
まず、第一に言わなければならないことは、プーチン大統領以下のロシア政府首脳がウクライナ政府・軍及び国民を侮っていたということである。2014年のクリミア併合時に、ロシア軍は一滴の血も流さずに作戦を完了した。ハイブリッド戦を世界で初めて行い、作戦開発能力の高さも世界に示した。この結果をもって「ウクライナ政府及び軍は弱く、ウクライナ国民も抵抗しない」と判断したのであろう。国境付近に大規模なロシア軍を集結させて軍事的圧力をかけ、ウクライナ軍の戦意を失わせ、一挙にキエフなど主要都市に電撃的に部隊を進撃させれば、ウクライナ政府は短期間で白旗を上げると判断したのだと考える。多くの軍事研究家も同じ意見だと思う。
第二に、短期決戦構想に基づき全般作戦計画を立案し、戦力を北西部地域(キエフ付近)、北東部地域(ハリコフ付近)、東部地域(ルガンスクからドネツク)、南部地域(マリウポリからクリミア北部)に分散したことである。約19万人 の兵力を4個方面に分ければ1個方面の戦力は5万人 以下となる。キエフやウクライナ東部地域、あるいはクリミア方面に戦力を集中投入すれば戦況は大きく違っただろう。