メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

融合する公明党の国会議員と地方議員~党運営のDX化が支える議員活動

「政党」としての公明党~一学究の徒の政治学研究【3】

岡野裕元 一般財団法人行政管理研究センター研究員

 「論座」では「『政党』としての公明党~一学究の徒の政治学研究」を連載しています。1999年に自民党と連立を組んで以来、民主党政権の期間をのぞきずっと与党だったこの党はどういう政党なのか、実証的に研究します。3回目はDX化が進む公明党のあり方について論じます。(論座編集部)
◇連載 「政党」としての公明党~一学究の徒の政治学研究は「こちら」からお読みいただけます。

公明党の全国県代表懇談会であいさつする山口那津男代表=2022年3月12日、新宿区

 本稿は「連載 『政党』としての公明党~一学究の徒の政治学研究」の2回目の記事「問題だらけのコロナ感染症対応から考える公明党の機能~自民党とどう違うか」の続編である。2回目では、公明党のコロナ対応の意義と国政レベルでの対応の話を扱った。未読の方は先にお読みいただければありがたいが、本稿では公明党のネットワークが具体的にどのような仕組みであるのか、DX化が進む政党のあり方も含めて論じていきたい。

「あの太田さんでもわからない」

 「ワクチン供給は、厚生労働省、ワクチン接種推進担当大臣、首相官邸のいったいどこが押さえているのか。国でガバナンスができておらず、統括できる人がいない。あの太田さんでもわからなかった」

 公明党の木下広・豊島区議は国の新型コロナ対応について、現場が抱える悩みをこう明かした。(2022年3月9日インタビュー(筆者取材))。

 「太田さん」とは、当時、公明党の議長であり、前代表の太田昭宏氏を指す。自民党とのパイプも太く、大ベテランの党幹部であるが、コロナワクチンの全体像把握に苦慮した様子が伝わる。コロナ対応が分権化し、現場の地方自治体や国会・地方議員にも混乱が広がっていた。

 1回目、2回目接種時のコロナワクチンは、ファイザー社製とモデルナ社製であるため、全て輸入に頼っている。そのため、ワクチン供給は、国から都道府県、都道府県から基礎自治体へという一直線の流れとなる。実際、「ワクチンは、国が都道府県への配分量をまず決め、都が区市町村の申請に基づいてさらに割り振る。配分量は1週間単位で決められ」た(「ワクチン、ばらつく配分量」『朝日新聞』2021年4月22日朝刊)。

 豊島区の場合は、東京都からのワクチン供給数の情報が入る。したがって、ワクチンの絶対数が確保できているか、自治体でのワクチン接種体制が整っているかという点が、住民のワクチン接種を左右した。

東京・豊島区のワクチン接種体制は……

 自治体でのワクチン接種体制、いわゆる現場の整備は、各自治体が独自に創意工夫できる。他方、ワクチンの絶対数確保は、そうはいかない。両者とも自治体間で横並び競争が生じた。「政治学は、財、権利、名声、安全といった価値のあるものの権威的配分を分析対象とする学問である」(砂原庸介、稗田健志、多湖淳『政治学の第一歩』有斐閣、2015年、p.3)とされるが、ワクチンの配分では、まさしく資源の権威的配分が行われる。

 また、感染症対応については、「今回は政府と地方自治体との関係においても、事務的なチャネルだけでなく、政務ルートで物事が決まることも多かった」のが特徴であった(アジア・パシフィック・イニシアティブ『新型コロナ対応・民間臨時調査会 調査・検証報告書』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2020年、p.360)。

 自治体でのワクチン接種体制に関して豊島区では、65歳以上の住民への接種クーポンの発送が2021年5月6日から行われ、個別接種(5月19日)、集団接種(5月24日)、巡回接種(6月3日)という体制を整備した(新型コロナウイルスワクチン接種担当部長「新型コロナウイルスワクチン接種スケジュールについて」2021年4月23日)。公明党豊島区議は、町医者の話を聞きつつ、ワクチン接種の詳細な準備作業を行ったという。

 ちなみに東京都23区の高齢者接種の開始日を比較すると、中野区が2021年4月28日からと最も早く、その他の区は5月中である(「大規模接種 23区悲鳴」『朝日新聞』2021年5月22日朝刊)。自衛隊の大規模接種開始は5月24日からであった。

注目されたワクチンの小分け・配送作業

6本の注射器に分けられたワクチン=2021年5月21日、東京都豊島区

 豊島区が先進事例として全国的に注目されたのは、豊島区薬剤師会によるワクチンの小分け・配送作業である。

 「ワクチンの配送にあたっては、慎重な取り扱いを必要とするワクチンの性質と併せ、200か所にのぼる配送ルートの確立等、供給量・配送方法・温度管理等、緻密な配送方法の確立が課題となってい」た(豊島区HP「5月19日(水曜)より 65歳以上のかたへワクチン個別接種を開始」2021年5月18日(豊島区HP参照 2022年3月14日閲覧)。ワクチンは、超低温の冷凍保存が必要である。そのため、「豊島方式として、区では薬剤師会と連携し、接種に必要な医薬品等(ワクチン・注射針・シリンジ・生理食塩水等)の小分け作業と併せ、接種実施医療機関への配送を薬剤師会を中心に進め、円滑な配送体制を確保」した(同HP)。

自治体がワクチン確保で競争

 豊島区でより問題になったのは、ワクチンの絶対数の確保だった。ワクチン数の申請については、基礎自治体で対応が「絶対に必要な数」(対象者全員)と「2週間で打てる量」とに分かれ、多くが前者を選択した(「ワクチン、ばらつく配分量」『朝日新聞』2021年4月22日朝刊)。そのため、4月26日と5月3日の週に供給されるワクチンのうち、絶対に必要な数で申請した葛飾区が最多の47箱であったのに対し、東京都に従って2週間で打てる量を申請した豊島区は最少の3箱となった(同記事)。

 こうしてワクチンの確保をめぐり、基礎自治体間の競争の火ぶたが切られたが、これは申請数をめぐるガバナンスができていないことの裏返しでもあった。

 ワクチン接種が本格化した5月頃は、自治体から見ると、国からのワクチン配分情報の変更が相次ぎ、本当にワクチンが当該自治体へ搬入されるのかという課題が浮上していた。公明党もその点を重視しており、「正確なワクチン供給量がわからない。当初の予定よりも入ってこない」点が悩みであったという(木下広区議)。

 実際、「(7月)5日から19日までの間に配られるワクチンの量は希望の半分以下の20箱にとどまることになり」、「区は、個別接種を行っているおよそ200の医療機関に『希望に応じた供給が困難な状況になった』という通知を送」った(NHK「東京 豊島区 国からのワクチン『希望量の半分以下』日程変更も」2021年7月5日 NHk・NEWS WEB参照 2022年3月9日閲覧)。8月にも国からの供給数が大幅に減少するという情報が入り、公明党国会議員が動いたという。

待合室で等間隔に座る予約者にワクチン接種をする看護師=2021年5月21日、東京都豊島区

コロナ対応の成果をポスターでアピール

 2021年5、6月の政治情勢は、7月4日の都議選の前であり、衆議院解散もいつになるか分からない状況にあった。また、7月23日が東京オリンピック開会式、9月30日には菅義偉総理の自民党総裁任期満了を控えていた。

 公明党は、4月になると「コロナに挑む公明党」という新たなポスターを掲示し、コロナ対応での成果を挙げた(る)点について焦点を絞り、積極的にアピールする戦略をとった。

 当時、公明党のポスターは全部で3種類あり、これ以外に「ケータイといえば公明党」、「医療・教育といえば公明党」というものがあった。ただし、ちょうどポスターが街中に張られるようになった直後に、3回目の緊急事態宣言の期間(4月25日~6月20日)に入った。

公明党地方議員が抱く自民党との潜在的競合意識

 都道府県議会の選挙制度は、1人区~最大22人区(1979年・広島市選挙区)の選挙区定数を採用している(岡野裕元『都道府県議会選挙の研究』成文堂、2022年、p.41)。そのため、選挙区定数次第では、自民党との間で協力とライバル関係が生じる。選挙区定数が小さすぎると、公明党は候補者擁立すらできず、逆に大きすぎると、後述する市区町村議会選挙のような選挙制度の作用が入ってくる。

 意外なことに、地方選挙において各党間で本格的な政党間競合が意識されると考えられるのは、いわゆる中選挙区制の定数となっている選挙区である(公明党の地方議員選挙については、別の回で詳しく論じる)。東京都23区内や京都市内の各選挙区などの選挙区定数は、まさにこれに合致する。

 なお、市区町村議会選挙制度は、選挙区定数が大きく、基礎自治体の当該区域全域が一つの選挙区(ただし、政令市の場合は、各行政区ごと)で構成されるため、候補者の住所周辺地域の住民、地元の各種団体などの支持が得られれば当選できる。そこでは、政党間競合というよりも、コアな支持者を固める方に重点が帯びる。選挙区で同じ政党から複数人候補者が出るため、例えば自民、公明、共産とも、党内で「地割り」を行う(その他の政党の事情については、筆者は知らない)。

 公明党の地方議員にとって、ライバルは自民党でもある。豊島区公明党は、「とにかく豊島にワクチンを持ってこなきゃいかん」(木下広区議)と、ワクチン接種について、高野之夫・豊島区長、副区長と長橋桂一都議、区議7人の間で、日常的に連絡を取り合い、密接に連携した。

 筆者が本連載載の2回目で取り上げた、自治体のホンネを聞き出す公明党の独自調査がスムーズに進んだ背景でも、首長ら自治体執行部と議員の日常的接触によって築き上げた信頼関係、正確な情報の存在は無視できない。その際、公明党が地方においても与党でもあることで培われた「基盤」が持つ意味は大きい。

ワクチン接種めぐる公明党の悩み

 ワクチン接種の状況が、内閣支持率の動向に直結しているとの見方もあった。事実、菅義偉内閣の支持率は、ワクチン接種のもたつきを受け、40%(2021年4月)から33%(同年5月)へと低落している。(「内閣支持率『ワクチン頼み』 政権内 あきらめの声も」『朝日新聞』2021年5月18日朝刊)。

 そのため、菅首相は“政治カレンダー”をにらみ、7月末の接種完了にこだわった。結果として、ワクチンの絶対数の不足に困惑する現場の公明党地方議員との間に、顕著な姿勢の差が見られた。

 国政の公明党コロナワクチン接種対策本部が5月11日に作成した「新型コロナウイルスワクチン接種に関する緊急要望(文案)」には、赤字で次の文があり、現場の実態を踏まえた困惑がうかがえる。

 「対策本部注釈:7月末までに高齢者への2回の接種が終えられない市区町村については、国からの前倒し要請により接種計画の見直しが求められている。接種のための医療従事者の確保に当たり、医療従事者自身のワクチン接種がなされていないことが大きな阻害要因となっている」(公明党コロナワクチン接種対策本部「新型コロナウイルスワクチン接種に関する緊急要望(文案)」2021年5月11日)。

公明党の石井啓一幹事長(左から3人目)から新型コロナ感染症対策の提言書を受け取り、会談する岸田文雄首相(右端)=2022年2月8日、首相官邸

党内のイントラネットを積極的に活用

 国・地方における政治・行政の現実的諸課題の解決や統治において、公明党が張り巡らしてきたネットワークを支えているのは、国政・地方とも与党として行政府・自治体執行部から情報を入手していることに加え、それらの諸情報を党内イントラネットで積極的に利活用していることだ。イントラネットとは、分かりやすく言えば組織内限定のプライベートなインターネットのようなものであり、企業や学校組織でも使用されている。

 公明党の「党内イントラの導入は、2014年から(2013年にネット選挙が解禁)である。地方議員間の情報交換も行っており、

・・・ログインして読む
(残り:約4769文字/本文:約9629文字)