花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
日本の政治家に力量はあるか/言葉の力を知らずして国民と国際社会は束ねられない
日本でもすっかりお馴染みになったウクライナのゼレンスキー大統領。大統領の姿を目にする時、大統領はいつも決まって何かを訴えている。危機に当たり、指導者に求められる資質は何か。いくつかある中で、言葉の持つ力を知り、その力を使いこなせることであるのは間違いない。国民をまとめ上げ、国際社会に支援を訴えかけるのは言葉を通して以外にないからだ。
国土が戦火に燃えさかる中の23日、ゼレンスキー大統領が日本国民に必死の訴えを行った。ウクライナの惨状は、日々、報道を通し我々の目に焼き付いて離れない。最高指揮官の生の声は我々に強い印象を与えた。日本も可能な限りの支援を惜しむものではない。今の国際情勢にあって、いつ立場が入れ替わるか分からない。我々は、同じ運命共同体にいるのだ。
ウクライナは、1991年、ソ連崩壊と時を同じくして独立した。それまで、国は幾度となく近隣の脅威にさらされその存立さえ失われてきた。ようやく独立を勝ち取った後も、指導者の汚職等があり、国民が国家や政府に多くを期待することはなかった。ウクライナ人としてのアイデンティティーは何年経っても高まることがなく、プーチン大統領も、ウクライナ国民がこれほどの祖国愛を示そうとは夢にも思わなかった違いない。
しかし、今、国民は、国の存亡をかけ必死に戦っている。ここで白旗を掲げれば、ウクライナという国は事実上地図の上から消えるかもしれないし、ロシアの圧政の下のウクライナは、最早、国民が知るウクライナではない。そう思うからこそ、国民は今日も武器を手にロシア軍の猛攻に耐えている。
その国民の拠り所となり、団結の礎となっているのがゼレンスキー大統領だ。大統領自身、幾度か暗殺の危険に見舞われたし、ロシア軍は大統領を標的にしているともいう。大統領の身の安全のため、ひとまず、キエフから離れもう少し安全が確保できるところに避難したらどうかとの勧めもある。しかし大統領はそういう声に耳を傾けようとせず、キエフから毎日、国民にメッセージを送り続けている。
今や、ゼレンスキー大統領を一介のコメディアン上りとあしらう者はいない。政治経験の欠如や就任後の実績不足も何のその、大統領の支持は大きく上昇した。今や、大統領こそが、抵抗のなくてはならない支柱になっている。