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外交と戦争~抑止力の陰りとともに「米国の世紀」は終わるのか

自由世界のリーダーとして、米国に求められる平和創出への指導力

田中均 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

拡大NATO本部で記念撮影に臨む(左から)NATOのストルテンベルグ事務総長、フォンデアライエン欧州委員長、岸田文雄首相、カナダのトルドー首相、米国のバイデン大統領、ドイツのショルツ首相、英国のジョンソン首相、フランスのマクロン大統領、イタリアのドラギ首相、EU首脳会議のミシェル常任議長=2022年3月24日、ブリュッセル、代表撮影

米国が軍事介入に至る「レッドライン」

 過去にも、米国の軍事抑止力が揺らいだことが戦争の一因になったのではないかと言われたケースはある。

 1950年6月に北朝鮮が38度線を超え韓国に侵攻した背景には、同年1月に米アチソン国務長官が米国の防衛責任は比、沖縄、日本、アリューシャン列島までであると宣言した(アチソン・ライン)のを、北朝鮮金日成主席が米国の戦争参画はないと判断してしまったこともあったのだろう。また、1991年の湾岸戦争のきっかけとなったイラクのクウェート侵攻でも、サダム・フセインは米国の介入はないと米国の意図を読み違えた結果であったと言われている。

要因は複合的、時の大統領の考え方も影響

 米国が「世界の警察官」ではないとして軍事介入にはより慎重になっていく事は容易に想像できるが、同盟国防衛以外には国際秩序維持のために一切軍事力を行使することはないという訳ではあるまい。今後とも自由世界の指導者として「レッドライン」を超えたような事態には軍事介入をするものとみられる。

 米国が軍事介入をするかどうかは予め決められているわけではなく、レッドラインをどこに置くのか、レッドラインを超えた時に実際に行動するか否かは個々の状況や国際社会の捉え方、国内政治状況など複合的な要因によるものなのだろう。そして時の大統領の考え方に大きく左右されるのだろう。

オバマは行動見送り、トランプはミサイル攻撃

 NATO(北大西洋条約機構)首脳会議後の記者会見でバイデン大統領は、もしロシアが生物化学兵器を使用した場合は「対応する」と述べたが、生物化学兵器や戦術核兵器の使用が米国の軍事介入のレッドラインとなるかどうかが今後問われるのだろう。

 オバマ大統領は、シリア政府の化学兵器使用がレッドラインと述べながらアサド政権の使用疑惑には軍事行動を見送り、トランプ大統領はシリアへのミサイル攻撃に踏み切った。

対中関係は極めて繊細、問われる米の存在意義

 中国との関係でレッドラインをどこに引くかは極めて繊細な問題だ。台湾について米国は1972年の中国との国交正常化に際して、台湾が中国の一部であるという中国の主張を了知(acknowledge)し、1979年の国交樹立に際しては国内法(台湾関係法)で台湾の防衛に努力することを定めている。

 明確に台湾防衛にコミットしているわけではないが、もし中国が台湾に軍事侵攻した場合に介入しないということになれば、中国の覇権を認めるということになりかねず、そもそも米国のアジアにおける存在意義が疑われることになり、現状では米が軍事介入をしないとはとても想定できない。

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筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。2021年3月よりTwitter開始、毎日リアルタイムで発信中。(@TanakaDiplomat)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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