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外交と戦争~抑止力の陰りとともに「米国の世紀」は終わるのか

自由世界のリーダーとして、米国に求められる平和創出への指導力

田中均 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

軍事介入が全てでない。停戦・和平合意の達成が求められている

 ロシアのウクライナ侵攻は国際法に明確に違反して一方的に現状変更を行おうとしている戦争であり、これ以上の犠牲と破壊を止めるために米国が指導力を果たすことが重要だ。しかし米国の国際社会において求められる指導力とは、軍事的抑止力や必要な場合に軍事介入をするかどうか、が全てではない。外交で戦争を止めることが求められている。

拡大ポーランドの首都ワルシャワで、ウクライナ侵攻について演説するバイデン米大統領。会場のワルシャワ王宮には1千人近い市民らが集まった=2022年3月26日

軍事支援と経済制裁が一定の効果。それでも戦争は止められぬ

 もしも米国やNATOが軍事介入すれば、第三次世界大戦となる懸念があることはその通りだし、ウクライナに対する戦闘機の供与やウクライナが求める飛行禁止区域の設定を拒否するのも同じ懸念であることは良くわかる。従って、結果的にはウクライナに対して軍事支援を継続し、一方では最も強力な経済制裁を導入することで対応しようとしている。

 NATOの軍事支援の効果もあり、ロシアの軍事侵攻が当初の想定どおりには動いていないことに加え、ロシアの多くの銀行のSWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除、中央銀行ドル資産の凍結、石油・ガス輸出の制限、貿易投資の制限といったG7の強力な経済制裁がそれなりの効果を上げていることも事実だ。

 けれども、軍事支援と経済制裁だけで戦争が止められるものではなく、大方が予想するように、戦況が膠着状態となり、延々と戦争が続くことになりかねない。これは、西側にとっても容易ならざる世界となるだろう。

停戦と政治的合意の重要性―世界のあらゆる分野の安定のために

 欧州の安全保障体制は抜本的に見直されることになる。すでにドイツはおよそ13兆円を積み上げ国防費のGDP比を2%に引き上げることを発表しており、多くの国がこれに続くだろう。東欧やバルト三国などロシアに近接するNATO諸国にはNATO軍の梃入れが行われるし、ロシアが核の使用を仄めかしたこともあり、NATOとロシアの核兵器での対峙は現実となる。

 EUは、ロシアからの天然ガスに41%、石油に27%、石炭47%も依存しているため、直ちに輸入禁止にするのは無理であるにしても段階的に減らしていく事としており、米国の禁輸も相まって、エネルギー価格の大幅な上昇を生む。ロシアとウクライナは小麦、肥料、トウモロコシ、ニッケル、パラジウムなどの主要な産地であり、世界的に大幅な価格高騰を生むのだろう。そして核を持つロシアは罰せられないとして、北朝鮮やイランなどが核兵器開発に一層拍車をかける可能性もある。

 そう考えると、世界の政治、安全保障、経済のあらゆる面の安定のためにはロシアとの間で停戦と政治的合意が迅速に達成されることが重要になる。勿論、和平合意によってロシアの行動が不問に付されるわけではなく、おそらくプーチン体制の未来を制約することとなる。

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筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。2021年3月よりTwitter開始、毎日リアルタイムで発信中。(@TanakaDiplomat)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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