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西村智奈美、大沢真理、本田由紀さん座談会~野党は社会経済政策にどうとりくむのか(下)

参院選で争点化を図るには

木下ちがや 政治学者

「じいさま資本主義」と、権力を握る「じいさま・おっさま」をどうするか

 本田)大沢先生に大賛成と思う気持ちと、もうひとりの自分からまた突っ込みがはいる感じがあります。

 日本企業の社長や国会議員が世界一年齢が高い、世界一男性の比率が高いなど、さまざまなデータがあります。年齢が高くて男性ばかりというのは、じいさまとそれに追随するおっさまが、政界も産業界も牛耳っているということです。

 彼らじいさま・おっさまは、プーチンみたいなもので、利益率やイノベーションよりも自分たちの既得権益を守ることが最大目的になっています。特にじいさまは自分の人生の終わりが見えているので、次世代のためにリスクをとってイノベーションをしようとは思わず、このまま逃げ切れる、逃げ切りたいと思っているようです。新しく社長に就いた人の統計をみても、日本の社長は世界一高齢で、しかも年々、年齢があがっており、かつ、社長が高齢である企業の方が業績がぱっとしないという分析結果もあります。

 このように「じいさま資本主義」になってしまっているわけですが、じいさまを全員一気にパージするわけにもいかないので、その問題点をどう指摘するかを考えなければなりません。つまり、多様性が力は大事だということにはまったく賛成です。しかし実際にはじいさま・おっさまが権力や発言力を握っているという事態を、具体的にどうするのかということです。

 さらに、彼らは鬱屈をためている側面もあります。ジェンダー多様性に対する男性の鬱屈は、さまざまな調査をみても深刻なものになっています。ただでさえ経済が上向きにならず、自分たちの稼ぎが減っているなかで、「女からも責められるのか」「女がおれの地位を奪いに来るのか」「ああもうやめてくれ」みたいな感覚をもっているじいさま・おっさまの規模を軽くみることはできません。世代的にもじいさまの人口規模は大きいですから。そういう人たちに向かって「多様性を力に」という呼びかけがどこまで通じるのか。

 先日私は東大のダイバーシティ調査の分析ワーキンググループの座長を担当し、分析結果の報告書を公開しました。ですので東大にも同じような問題があることはよくわかっています。たとえばアンケート調査の自由記載欄をみても、「無能な女に下駄を履かせるのか」「東大なんて男子大学でいいんだ」みたいな声が、「最高の知性」であるはずの東大のなかでも出てくるわけです。大学教員や学生がそういうことを書いてくるというのが日本社会の現状なんです。

 西村さんにはきつい質問ばかりになりますが、このじいさま・おっさまをどうしたらいいと思いますか?

若い男性の意識は鬱屈と変化が「マーブル状」に

 大沢)その前にちょっと。韓国では若い男性に鬱屈が溜まっていると聞きますが。日韓の違いって何なんでしょうか。

 本田)じいさま・おっさまだけでなく、日本の若い男性も鬱屈がたまっていますね。ただ若い層では変わってきているところもあるので、それがマーブル状になっている状態です。鬱屈している人とジェンダー平等に肯定的な人とが若い世代ではほぼ半々くらい、年長男性層では古い意識の人がもっと多いという感じです。

しくみをつくる国会が多様でないと。わたしは転ぶわけにはいかない

 西村)どこから手を付けたらいいのかという感じですね。お二人がおっしゃったように、多様性がないことで日本社会にイノベーションが起きてこなかったと。それをすすめるためには、頭の上にのしかかっている重しのようなものがあるのではないか。高齢者は変わらないから子どもの教育からであるとか。とはいえ現に存在している社会が男性優位ということで重しが乗っかっている。

 すべての面で取り組んでいかなければいけないんじゃないかなと思います。インクルーシブ教育、少人数学級、給特法の問題、教える側にゆとりがないと、開かれた教育はできない。働き手も幸せになれるような関係をつくっていかなければならないとおもうし、そうしたしくみをつくる国会がもっと多様でなければならないと思います。

拡大女性候補者の公募を発表する立憲民主党の西村智奈美幹事長。ポスターには昨年の衆院選で初当選した女性議員の写真を採用した=2022年2月8日、国会内

 いま国会のなかでは衆議院では9.7%、参議院が23%の女性比率です。ここは思い切って女性候補を増やそうと、わが党は参議院選挙では女性候補5割を目指しています。私自身も女性初の総理大臣を目指すと言って代表選に立候補しました。だからこそ、これからの世代に対して重い責任があると思っています。ここで転んで「ほら女だからダメだった」と言われてしまうのはたまりません。そういうことにならないためにも、私は私の立場で努力をつづけていきたい。

「NO! もうそんな時代じゃない!」と強く言っていく

 ――本田さんのじいさま資本主義へのオルタナティブはなんでしょうか

 本田)めちゃくちゃ難しいですね。ひとつは、多様性に対して否定的・消極的な古臭い考え方に対して「NO!」を言い続けることですね。「いまどき何言ってんだ」と。大学であれ企業であれ一部の人たちが実感しはじめているのは、多様性がない組織は、外から、たとえば海外からも「組織の中で何かおかしいことやっているんじゃないか、気持ち悪い」と見られるようにはなってきているということです。ですから、「NO! もうそんな時代じゃない!」ということは強く言っていきたいと思います。

 もうひとつは懐柔策というか、そんなに男性もイキらなくてもいいんだよ、楽になっていいんだよと呼びかけることもありうると思います。いま男性学とか、従来の男性性の問い直しも始まっていますけれども、「男性の方が自殺率が高いとかおかしいですよね、男性に圧力をかける社会からお互いに脱却していきましょう」とか、そういう解きほぐしができないかなあと思いますが、手っ取り早いところでは、「NO」が効果的だと思います。

 ただし、日本の女性たちもずっとこのジェンダー不平等な社会で生きてきていますので、現状をそれほどおかしいと思っていないという事もあります。著書にも書きましたけれども(注5)、「男性に稼いでもらって」「私は子供をかわいがって」みたいな女性もたくさんいます。そういう女性たちにも、「このままではダメなんですよ」と言っていかなければなりません。しかし、ジェンダーの話題は、講演や授業でも炎上しがちです。東大のなかでジェンダーについて講義した時に

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筆者

木下ちがや

木下ちがや(きのした・ちがや) 政治学者

1971年徳島県生まれ。一橋大学社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会学)。現在、工学院大学非常勤講師、明治学院大学国際平和研究所研究員。著書に『「社会を変えよう」といわれたら」(大月書店)、『ポピュリズムと「民意」の政治学』(大月書店)、『国家と治安』(青土社)、訳書にD.グレーバー『デモクラシー・プロジェクト』(航思社)、N.チョムスキー『チョムスキーの「アナキズム論」』(明石書店)ほか。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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