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戦争犯罪人と呼ばれるプーチン大統領を支えているものは?~ウクライナ侵攻

ロシア正教のキリル総主教との関係を背景にブレない姿勢。ロシア包囲網も不完全

酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授

 ロシア軍がキーウから包囲網を解いた後、近郊の街ブチャでウクライナ人410人の死体が見つかった。ゼレンスキー大統領はこれを「ジェノサイド」と呼び、バイデン大統領は再びプーチン大統領を「戦争犯罪人」と呼んだ。

国連安全保障理事会で演説するウクライナのゼレンスキー大統領=国連安保理のユーチューブから

 ウクライナと同国を軍事支援するNATO(北大西洋条約機構)諸国、米国の同盟国である日本などは、政府見解としてプーチン大統領を「戦争犯罪人」と確定的に呼び始めており、国際司法裁判所に提訴するなどの動きも本格化しつつある。

 だが、そもそも「かつてウクライナでロシア系住民が殺された」ことを信じているロシア国民は、プーチン大統領はジェノサイドを引き起こした戦争犯罪者だと言っても信用しないのが現実だ。NATO側にはVPN(Virtual Private Network)という通信技術を使ってロシア人に情報提供しようとするの動きもあるが、これをブロックする技術を中ロは持っており、難しいかもしれない。

 なお、ルーブルの対ドル相場は、本稿執筆時点の4月7日時点で、ついに79ルーブルまで上昇した。世界から経済制裁を受けながら、ルーブルは対ドルでウクライナ侵攻前より高くなっている。

ロシア軍の攻撃を受け破壊されたショッピングモール前を警備するウクライナ軍兵士=2022年4月6日、ウクライナ・キーウ

プーチン大統領は妄想に取りつかれているのか?

 プーチン大統領は、2月21日の東部二州(ドンバス、ルハンスク)の独立を承認した時、2月24日のウクライナへの侵攻時、3月18日のラジ二キ・スタジアムでのクリミア半島奪還8周年記念式典時と三度にわたり、「ウクライナでナチを排除した地域は、人々を苦難、ジェノサイドから救うという我々のプランを疑いなく実行している。これが、我々が東ウクライナのドンバスで開始した武装行動の主要な理由であり、動機であり、また目的である」と語った。記念式典があったスタジアムには、「ナチズムのない社会を!」というスローガンが書かれた旗が舞っていた。

 これは、プーチン大統領がウクライナ侵攻以前から語っていたことだ。だが、欧米や日本の専門家たちは「プーチンが妄想に取りつかれた」、「精神的におかしくなっている」と憶測する。この2週間ほど、「プーチンには正しい情報が上がっていない」、「側近等が辞職している」という話も出始めており、3月29日に始まった本格的な和平交渉よりも、プーチン政権の崩壊を期待する向きが強まっていると感じるのは、筆者だけではないだろう。

 しかし、本当にプーチン大統領は妄想に取りつかれて、側近の報告さえ聞かなくなっているのだろうか。本稿では、プーチン大統領の発言の背景や彼がなぜここまで世界を敵にしても頑張れるのかなど、プーチンをめぐる現状について考えてみたい。

※ロシアのウクライナへの軍事侵攻に関する「論座」の記事を特集「ウクライナ侵攻」にまとめました。ぜひ、お読みください。

ローマ教皇とロシア正教総主教が2016年2月に会談

ロシア軍の攻撃を受けた高層マンション=2022年4月6日、ウクライナ・キーウ
 ロシアが2014年のクリミア半島奪取の時から、今回の侵攻を想定していたと見るのは、今や世界で一般的となっている。この8年間に最大8万人が死んだとも言われるウクライナ東部・南部でのウクライナ人とロシア人の争いについては、少なくとも現在では、「ロシアが悪い」という評価に異を唱える人は少ない。

 しかし、プーチン支持者の理解は異なる。それによると、発端は2016年2月だ。

 同月、ローマ教皇はメキシコ訪問の途中でキューバの首都ハバナに立ち寄り、そこでロシア正教のキリル総主教と2時間にわたる会談を行った。当時の記録によると、キリル総主教がローマ教皇に面会を懇願したらしい。

 この頃のキューバは、オバマ大統領の下で対米国交回復を果たし、ある意味、平和のシンボルのような場所だった。そこまでキリル総主教が面談のためだけにやってきたのである。

 実はこの時の共同宣言の中に、今回のプーチンの演説に繋がっていると思われる二つのことが含まれている。

 一つは、「ギリシャ・カトリック教とギリシャ正教の間に緊張が存在するところでは、ローマ教皇とキリル総主教の会談が双方の和解と共存の形を必要としている」である。これは、ウクライナにおけるカトリック教徒(ウクライナ人)とギリシャ正教徒(ロシア正教徒のロシア人)との関係を示唆している。

 もう一つは、「私達(ローマ教皇とキリル総主教)は、すでに多くの犠牲者を出しており、平和な住民に無数の傷を与え、社会を深い経済的・人道的危機に陥れているウクライナの敵対関係を嘆く。私達は、この紛争に関与しているすべての部分に、慎重さ、社会的連帯、そして平和の構築を目指した行動を呼びかける。私達は、ウクライナの教会に対し、社会の調和を目指し、対立に参加することを控え、紛争のさらなる発展を支援しないよう呼び掛ける」である。どちらが悪いとは書いていないが、ウクライナ人とロシア人の紛争の解決を求めている。

 そのうえで、「私達は、ウクライナのギリシャ正教間の分裂が、既存の教会の常識によって克服され、ウクライナの全ての正教徒が平和と調和のうちに生活し、ウクライナのカトリック共同体がこれに貢献し、それによって私達のキリスト教的兄弟愛がますます明らかになることを希望している」と表明している。

プーチン大統領なりの正当性

 これを受け、「2014年のロシアによるクリミア半島奪取から今まで続くロシアによるウクライナ侵攻」というウクライナとNATO側の主張とは裏腹に、ロシア側は「2016年にローマ教皇とロシア正教総主教が止めようとしたウクライナ内戦を、ロシア軍を使って終結させる」と主張しているのである。

 プーチン支持者のロシア政府関係者によれば、「この共同宣言は、ウクライナ国内におけるロシア系住民への圧迫を止めようとしていたが、それが止まらないのでプーチン大統領が正義の行動をしたのだ」という理解に繋がるらしい。

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