正念場を迎えるフランス政治の底流を読む
2022年04月14日
4月10日に行われたフランス大統領選挙の第一回投票の結果は予想通り、現職エマヌエル・マクロン大統領(27.8%)とマリーヌ・ルペン国民連合(RN、23.1%、2018年に国民戦線FNから改称)代表による、二週間後の決選投票となった。
フランス大統領選挙は、第一回投票で過半数を獲得した候補がいない場合、上位二人の候補者の間で第二回投票が行われる。直接国民投票型の決選投票は接戦となることが多く、50%台前半の得票率で決まることが多い。
大差となった例外は2002年と17年の決選投票で、この時はいずれも極右FN創立者の父ジャン・マリ・ルペンとその三女の現党首マリーヌ・ルペンが二位となった。ルペン父娘の獲得票は、前者は17.8%、後者は34%。いずれも極右は惨敗だった。
それが今回は少し様子が違う。第一回直後の世論調査で、ルペンが46%から場合によっては過半数を制すというような予測も出ているからだ。
ルペンは開票速報が出た直後に、ブリオワRN副代表が2014年以来市長を務め、RNの地方進出の拠点となったノール・バ・ド・カレ地域圏にあるエナン・ボーモン市で、第二回投票に向けた第一声を行った。この町は彼女自身2017年に初めて国会議員にえらばれたゆかりの地だ。
「はっきり申し上げましょう、マリーヌの勝利、待っているのはそれだけです。フランスはそれを、もろ手を広げて期待しています。わたしたちはそう信じています」と、ルペンは力を込めて呼びかけた。
前回2017年と違う今回の大きな特徴は、ルペンが得票率を2ポイント近く伸ばしただけでなく、近しい立場のエリック・ゼムール率いるもうひとつの極右勢力『再征服』がある程度の票(7.1%)を得たことだ。舌鋒鋭い極右の評論家が昨夏以後、急速に支持を伸ばしたのである。
移民排斥を強く主張し、RN以上に右寄りのゼムールが一時期はルペンを上回る支持率を世論調査で集めたことは、フランス政治の軸が大きく右に展開したことを示していた。コロナ禍の中、一昨年以来外国人がらみの暴力事件が増加し、ルペンの穏健な言動を手ぬるいと感じる伝統的排外主義者をゼムールが糾合する形で勢力を拡大することに成功した。
RNナンバー2だったニコラ・ペイや、マリーヌ・ルぺンの姪で将来のRN代表を嘱望されるマリオン・マレシャル・ルペンも選挙戦終盤ではゼムールを支持するようになった。マリーヌの穏健化路線に嫌気した分裂選挙の試みだった。
第一回投票日の夜、ゼムールはすぐにルペン支持を表明した。ゼムール支持票の四分の三は「ルペンに投票する」と、第一回投票直後の調査で答えている。
加えて、2017年大統領選挙第二回投票で、初めてFNに協力した政党となったニコラ・デュポン・タニョン率いる、旧ドゴール派を自称する「立ち上がれフランス」の支持(2.1%)が期待できる。
ルペン支持者が言うように「十分な票の蓄え」がルペンにはある。前回と大きく異なる点だ。それだけフランスの政治が右傾化している証拠だ。
それではルペンに勝機はあるのか。
フランスでは、大統領選挙だけでなく、欧州議会選挙以外の国会議員・地方選挙で小選挙区二回投票制を採っている。基本的には第二回投票でほとんどの政党が「反ルペン」の共和派戦線を組織するので 孤 軍 奮 闘 の 中 、 RNは「憤死」する。これまでそれを繰り返してきた。今回はどうなるだろうか。
すでにもうひとつの極右ゼムールのルペン支持については述べたが、もうひとつ注目されるのは極左勢力支持者の動向だ。極右と極左では真逆のように見えるが、既存の大政党の政治体制に反発した庶民の立場という点では、両者の支持層は重なる部分がある。「弱者」の意思表明であり、フランス人の好きな「抗議者」という言葉で表現される、「不満分子」「反体制派(アンチ・システム)」の存在だ。
極左のメランション候補は今回決選投票には残れなかったが善戦し、22%で第三位につけた。同候補は第一回投票開票開始直後「われわれはまだ到達していない。しかしそれは遠くない」と、次回のさらなる躍進への強い期待を明らかにした。左翼退潮の中で、ここまで来たという意識はとりわけこの政党には強い。
メランションは、「ルペン夫人には一票たりとも与えてはならない」と三回も連呼して反極右の姿勢を鮮明にしたが、最後までマクロン支持は打ち出さなかった。メランションに投票した支持者の内、第二回投票では「棄権する」と答えた人がその半分、「マクロンに投票する」と答えた人は3割、「ルペンに投票する」とした人は2割程度だった。
では、伝統的保守はどうか。旧ドゴール派である共和党(LR)の候補ヴァレリー・ぺクレス元高等教育大臣・イルドフランス地域圏議長は選挙資金還付対象となる5%の得票率を上げることができず、惨敗を認めた。シラク、サルコジと10年前までは政権与党だったこの政党の凋落は著しい。ぺクレスも自分はマクロンに投票すると言明したが、支持者には誰に投票するか指示はしなかった。
共和党内では、大統領候補決定のための予備選挙で主要閣僚経験者やEU重要ポストを占めた大物政治家を退けて、知名度そのものは低いが極右寄りの発言で恐れられてもいたシオティ国民議会議員が善戦、第一回投票では首位につけた。さすがに共和党支持者もシオティを大統領候補には選ばなかったが、シオティ自身は「マクロンには投票しない」と断言、ルペン支援に回る可能性も噂される。
RNはゼムール票の多くを吸収し、共和党の一角を崩し、メランションの
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