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極右ルペン大統領の誕生か? 風雲急を告げるフランス大統領選挙

正念場を迎えるフランス政治の底流を読む

渡邊啓貴 帝京大学教授、東京外国語大学名誉教授(ヨーロッパ政治外交、国際関係論) 

 4月10日に行われたフランス大統領選挙の第一回投票の結果は予想通り、現職エマヌエル・マクロン大統領(27.8%)とマリーヌ・ルペン国民連合(RN、23.1%、2018年に国民戦線FNから改称)代表による、二週間後の決選投票となった。

 フランス大統領選挙は、第一回投票で過半数を獲得した候補がいない場合、上位二人の候補者の間で第二回投票が行われる。直接国民投票型の決選投票は接戦となることが多く、50%台前半の得票率で決まることが多い。

 大差となった例外は2002年と17年の決選投票で、この時はいずれも極右FN創立者の父ジャン・マリ・ルペンとその三女の現党首マリーヌ・ルペンが二位となった。ルペン父娘の獲得票は、前者は17.8%、後者は34%。いずれも極右は惨敗だった。

 それが今回は少し様子が違う。第一回直後の世論調査で、ルペンが46%から場合によっては過半数を制すというような予測も出ているからだ。

拡大選挙集会で演説するマリーヌ・ルペン氏=2022年3月25日、フランス南西部サンマルタンロコサード

複数の極右……右傾化するフランス政治

 ルペンは開票速報が出た直後に、ブリオワRN副代表が2014年以来市長を務め、RNの地方進出の拠点となったノール・バ・ド・カレ地域圏にあるエナン・ボーモン市で、第二回投票に向けた第一声を行った。この町は彼女自身2017年に初めて国会議員にえらばれたゆかりの地だ。

 「はっきり申し上げましょう、マリーヌの勝利、待っているのはそれだけです。フランスはそれを、もろ手を広げて期待しています。わたしたちはそう信じています」と、ルペンは力を込めて呼びかけた。

 前回2017年と違う今回の大きな特徴は、ルペンが得票率を2ポイント近く伸ばしただけでなく、近しい立場のエリック・ゼムール率いるもうひとつの極右勢力『再征服』がある程度の票(7.1%)を得たことだ。舌鋒鋭い極右の評論家が昨夏以後、急速に支持を伸ばしたのである。

 移民排斥を強く主張し、RN以上に右寄りのゼムールが一時期はルペンを上回る支持率を世論調査で集めたことは、フランス政治の軸が大きく右に展開したことを示していた。コロナ禍の中、一昨年以来外国人がらみの暴力事件が増加し、ルペンの穏健な言動を手ぬるいと感じる伝統的排外主義者をゼムールが糾合する形で勢力を拡大することに成功した。

 RNナンバー2だったニコラ・ペイや、マリーヌ・ルぺンの姪で将来のRN代表を嘱望されるマリオン・マレシャル・ルペンも選挙戦終盤ではゼムールを支持するようになった。マリーヌの穏健化路線に嫌気した分裂選挙の試みだった。

 第一回投票日の夜、ゼムールはすぐにルペン支持を表明した。ゼムール支持票の四分の三は「ルペンに投票する」と、第一回投票直後の調査で答えている。

 加えて、2017年大統領選挙第二回投票で、初めてFNに協力した政党となったニコラ・デュポン・タニョン率いる、旧ドゴール派を自称する「立ち上がれフランス」の支持(2.1%)が期待できる。

 ルペン支持者が言うように「十分な票の蓄え」がルペンにはある。前回と大きく異なる点だ。それだけフランスの政治が右傾化している証拠だ。

拡大敗北が決まり、支持者に手を振る極右政党「再征服」のエリック・ゼムール氏=2022年4月10日、フランス・パリ

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筆者

渡邊啓貴

渡邊啓貴(わたなべ・ひろたか) 帝京大学教授、東京外国語大学名誉教授(ヨーロッパ政治外交、国際関係論) 

1954年生。東京外国語大学卒業、慶応義塾大学・パリ第1大学大学院博士課程修了、高等研究大学院客員教授(パリ)、リヨン高等師範大学校、ジョージ・ワシントン大学シグール研究センター客員教授、在仏日本国大使館公使、雑誌『外交』『Cahiers du Japon』編集委員長などをへて現職。『ミッテラン時代のフランス』芦書房、『ポスト帝国』駿河台出版、『米欧同盟の協調と対立』有斐閣、『フランスの文化外交戦略に学ぶ』大修館、『シャルル・ドゴール』慶応大学出版会、『現代フランス』岩波書店、『アメリカとヨーロッパ』中央公論新書、『フランスと世界』法律文化社など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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