山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在仏ジャーナリスト
元新聞社パリ支局長。1994年度のボーン上田記念国際記者賞受賞。著書に『大統領府から読むフランス300年史』『パリの福澤諭吉』『ココ・シャネルの真実』『ドゴールのいるフランス』『フランス人の不思議な頭の中』『原発大国フランスからの警告』『フランス流テロとの戦い方』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
ロシア経済制裁による物価高騰、定年延長問題、対「欧州」……課題は山積。読めぬ結果
マクロンは就任以来、「三大事件」に直面した。
まず、2018年秋の燃料費値上げ反対に端を発した市民運動「黄色いベスト」の全国的な大規模デモに悩まされた。運動が次第に暴動デモに変質した結果、一般人から見放されて収束に向かった。
次いで発生したのが未曽有の新型コロナの蔓延(まんえん)だ。2020年から21年にかけては2度にわたって長期外出禁止令を出すなど、その対策に追われた。
三番目は、現下のウクライナ戦争だ。ロシヤもウクライナも地続きのフランスにとっては、この戦争はまさしく「ヨーロッパ戦争」。NATO(北大西洋条約機構)軍の一員として、派兵の可能性も覚悟せざるを得ない。
ロシアへの経済制裁の影響も深刻だ。ロシアの原油や天然ガスに頼るフランスをはじめとするEU各国では、すでにガソリン代や燃料費などが高騰し、国民の生活を圧迫している。小麦もロシアとウクライナからの輸入が多い。そのため、パン代の値上げは必至といわれている。
カステックス首相は大統領選を前に、エネルギーなどのロシア依存からの脱却を目的にした「経済レジリエンス計画」を発表した。電気・ガス代が40%以上あがり、電気・ガスの燃料費が売上高の3%以上に達した結果、2022年に営業損失の計上が予想される企業に対し、年度末までの9カ月間、一律に1社当たり2500万ユーロ(1ユーロ=約135円)を上限に、燃料費増加分の5割を国が補填(ほてん)するというが、選挙目当ての大企業救済策とみなされ、国民の不満、不平は収まっていない。
こうした「不幸、不平、不満票」は本来、極右に集まる票でもある。「極右票が増えるのは国内に不満が溜まった時」(政治歴史学者で「極右」の専門家ルネ・レモン)との指摘があるぐらいだ。
今回の大統領選には12人が立候補したが、そのうち1回目の投票後、明確に「ルペン支持」を表明したのが、4位(同7.07%)の極右グループ・再征服のリーダー、エリック・ゼムールだ。
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