支持率上昇のプーチンが「勝利宣言」する可能性は高い!?~マリウポリ陥落は時間の問題か
NATO陣営の後手に回る武器支援と誤算の多い対露制裁が招いた不幸
酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授
米軍に「政権は抑止力の発揮に失敗した」との不満
この微妙な差異は何を示唆するのか? 米国民の間に厭戦気分が根強いのと対照的に、米軍の内部には「バイデン政権はロシア軍のウクライナ侵攻直前における抑止力の発揮に失敗した」との不満がある様子が透けてみえる。
ここでの「抑止力」は、日本などで普段使われる平時の戦争抑止力ではなく、紛争前夜における領土防衛のための抑止力のこと。「Direct Deterrence」と呼ばれ、味方の軍事力が強いこと、超大国としてバックアップしていることを目に見える形で示し、敵の戦闘意欲を失わせることを言う。
「Direct Deterrence」としては、1982年にレーガン政権が西ドイツ(当時)に中距離核ミサイルとクルーズミサイルを配備して、NATO側がソ連(当時)側のミサイル攻撃力と同等となったことを見せつけ、冷戦終結への道筋をつけたとされる事例がよく知られている。
また、1996年には、クリントン政権が第3次中台危機にあたり、2隻の空母打撃群を台湾海峡に送り、その後、中国のミサイル発射がストップした。対ロシアでは、2008年の南オセチア紛争時に、ブッシュ政権が空軍の輸送機をグルジアの首都トリビシの空港に着陸させたまま動かさず、ロシアの攻撃を抑止したという例もある。
つまり、これは“世界の警察”であった米国の十八番(おはこ)だったのだ。
バイデンのウクライナ訪問を米政府が断った背景
しかし、バイデン政権は「米軍を送れば第3次世界大戦になる」として、それをやらなかった。例えば、当時300人の米教育兵がウクライナ国内にいたのだから、彼らを救援する名目で輸送機をウクライナ領内に送り、そのまま駐機させれば、第3次世界大戦になることはなく、ロシア軍の侵攻にブレーキをかけたかもしれない。
米軍関係者にすれば、こうしたウクライナでの“失態”は、昨年8月15日のアフガニスタンからの撤退の失敗に続くものだ。ロシアが相手なだけに「恥」という意識がいっそう強いのではないか。
こうした米軍関係者の思いは当然、ホワイトハウスにも伝わっているだろう。ゼレンスキー大統領がジョンソン首相のキーウ訪問の後、バイデン大統領の訪問を要請したにもかかわらず、米政府がそれを拒否した背景には、政権が世論の受け止めを心配したことのほか、訪問しても米軍を動かす等の起死回生策を打ち出せないというジレンマがあったようだ。

ホワイトハウスで演説するバイデン米大統領=2022年4月11日、ワシントン、ランハム裕子撮影
ロシア軍がキーウから撤退した理由
ロシア側の発表によると、3月22日段階でロシア兵の死者は1万人、負傷者は1万6千人だった。ウクライナ側は同じ時期にロシア兵の死者は1万5千人と発表している。これまでロシアの攻撃目標は、①キーウ周辺(北のチェルニホフを含む)、②ハルキウ周辺、③東部のドンバス地域から地中海沿岸(オデッサ)にかけて、の3カ所だが、西側メディアによるロシア軍の被害に対する報道のほとんどが①キーウ周辺だったことから考えて、ロシア兵の死者や負傷者は①に大きく偏っていたと予想される。
それにしてもロシアはなぜ、キーウから撤退したのか。ロシア軍のウクライナ侵攻の直後、AEI(アメリカン・エンタープライズ・インスティチュート)のフレッド・ケーガン氏は「ロシア軍がゼレンスキー政権を屈服させるとの政治目的を、キーウ破壊という軍事目的に優先させることのリスク」に言及したが、まさしくこのリスクが現実のものとなったと筆者は見る。
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