「情報」と「国際世論」を巡り繰り広げられる現代の戦争
2022年04月13日
情報が持つ意味を正しく理解し、国際世論を味方につけていくことが、現代の戦争では決定的に重要だ。ウクライナはこの点でロシアに勝っている。ウクライナは時代を味方につけているといっていい。
首都キーウの近郊ブチャにおけるロシア軍の一般人に対する虐殺が世界に衝撃を与えている。同じく近郊に位置するボロジャンカ等ではそれを上回る殺戮が行われたとの噂もある。今後被害はさらに拡大するかもしれない。ロシア軍による明白な戦争犯罪であり、関係者は厳に処罰されねばならない。ただ、ロシアが国際刑事裁判所ローマ規程の締約国でないとの障壁がある。締約国でなければ、刑事裁判所の訴追が及ばない。
戦争は殺し合いだ。やらなければやられる。古来、動く者があればとにかく撃て、といった指示が上官から下されることも珍しくない。若い兵士の場合、パニックになる余り狂気で我を忘れることもある。それは事実だが、果たしてブチャの惨劇は、兵士個人の狂気の産物か。ブチャで何が起きたかは徹底的に検証されねばならない。単に若い兵士が狂気に走っただけなのか、あるいは計画に基づいた組織的なものだったのか。後者とすれば、それは許されざる行為だ。
2月24日、ロシアがウクライナ侵攻に踏み出した時、戦後秩序を公然と踏みにじる行為に国際社会はかつてない衝撃を受けた。国際社会はロシアの力による蛮行に対し、経済制裁で対抗するとしたが、本来、力の侵略には力で対抗するのが基本だ。経済制裁では効果が心もとない。それでも、制裁を実効性あるものにしようとすれば、国際社会が「結束」し「前例のない規模」で制裁する必要がある。この困難な条件を西側諸国は見事クリアした。背景に、2月24日に受けた余りにも大きい衝撃がある。
例えばドイツだ。ドイツは長く安全保障分野で慎重だった。紛争地に対する武器供与はしないとしたし、第三国が供与する際もそれがドイツ製武器なら反対するとした。防衛予算は、米国がいくら言ってもGDPの2%以上に増やそうとしなかったし、ガスパイプラインのノルドストリーム2の認可停止やロシアの国際決済システムSWIFTからの排除にもなかなか応じようとしなかった。
ドイツの対ロ政策の基本はWandel durch Handel、つまり貿易を通しロシアを国際社会に組み込みつつその変革を促すということだった。だからロシアに対し関与政策を続けるべきであり、これを排除してはならないとしてきた。その全てをショルツ首相が一気に転換した。ドイツ外交政策の180度の転換だ。背景に2月24日の衝撃があった。その衝撃の前に、「これだけの政策転換は議会に相談があってしかるべき」との声も直ちにかき消されたし、議会は、極右の「ドイツのための選択肢」(AfD)から極左の左派党まで、どこも異を唱えようとしなかった。
無論、世論はこの歴史的転換を熱狂的に支持した。ショルツ政権の政策転換は侵攻に衝撃を受けた世論を反映したものだった。ドイツの政策転換を受け、慎重だったハンガリーやイタリアもロシアのSWIFTからの排除に同意した。欧州をはじめとする西側は「結束」して「前例のない規模」の経済制裁を課すことに成功した。
しかし、
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