平均930円から年に100円ずつ上げて全国一律1500円に。財源は国庫から支出
2022年04月30日
国内外に山積する課題に政治はどう向き合い、解決すればいいか――。現役の国会議員が政治課題とその解決策について論じるシリーズ「国会議員、課題解決に挑む~立憲民主党編」では今回から落合貴之衆院議員による緊急連続対談「いま必要な経済政策は?」を始めます。
初回の対談相手は末松義規衆院議員です。最低賃金の1500円への引き上げは日本経済回復の「万能薬」と言う末松議員。そのわけと立憲民主党の政策について、とことん聞きます。コメント欄にぜひ、ご意見をお寄せください。(論座編集部)
(構成 論座編集部・吉田貴文)
末松義規(すえまつ・よしのり) 立憲民主党衆議院議員
1956年生まれ。一橋大学商学部卒業後、外務省に入省。1996年衆院議員に旧民主党から立候補し初当選。民主党政権で内閣府副大臣、復興副大臣、首相補佐官などを歴任。現在当選7回。著書に『官邸、内閣府にいたからこそ書ける いま、日本にある危機と希望』など。東京19区
落合貴之 日本の経済がますます苦境に陥っています。欧米の金融政策の影響で過度の円安が進み、やウクライナ情勢もあって物価もじわじわ上がっている。その一方で、働く人の給料は上がらず、今後、生活がますます苦しくなることが予想されます。
にもかかわらず、発足から半年以上がたつ岸田文雄政権は、有効な経済政策をうてていません。政権発足時に掲げた「新しい資本主義」も、依然として中身がはっきりしない。
私はいま、立憲民主党の経済政策を担当し、夏の参院選に党としてどんな経済政策を打ち出すか日々、考えていますが、「論座」でも「国会議員、課題解決に挑む~立憲民主党編」の特別バージョンとして、「緊急連続対談・いま必要な経済政策は?」をはじめることにしました。党内の“専門家”との対談を通じて、経済の現状、党の政策について論じたいと思います。
初回の対談の相手は衆院議員の末松義規さん。末松さんは早くから最低賃金に着目し、その引き上げこそが経済をよくすると主張してきました。昨年の衆院選で立憲民主党の公約に最低賃金アップを盛り込みま、この夏の参院選でも公約の一つになります。そもそも末松さんが最低賃金に注目したのは、どうしてですか。
とすれば、消費力の源泉である給料を上げることが不可欠です。とはいえ、いきなりあらゆる人の賃金を上げることができません。では、どこから手を付けるか。
日本は、新自由主義を推し進めたアベノミクスの悪影響で、富裕層の所得が増える一方、中間層や低所得層の貧困化が進み、国民の経済格差が拡大しました。生活の安全保障となる最低賃金を見ても、先進国の中で日本は最低レベルです。
そこで、まずはこの最低賃金に注目し、これをしっかりと上げていく。それが日本の需要を回復させ、経済を回復させる第一歩だと考えたんですね。今から4年ほど前のことです。
落合 最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。最低賃金の額は都道府県ごとに決められ、違反者には罰則や罰金が科せられます。
末松 時はさらに遡るのですが、「働き方改革」にからみ、街頭で「日本人は働きすぎ。労働時間をもっと減らそう」と演説していたら、若者の集団が真剣な顔をして私にくってかかってきたことがあったんです。「労働時間が減らされたら、俺たちは食えない」という彼らの批判に、私は反論できませんでした。
確かに、労働単価が安ければ、長時間働かなくては食べられない。ならば、まずは最低賃金を上げようと思い立ち、街頭でもそう訴えていると、今度は賃金を払う中小企業の事業主の人たちから、「中小企業を潰す気か」と怒られた。これに対しても、有効な反論ができませんでした。
さて、どうしたものかと悩んだ末に考えついたのが、最低賃金を引き上げるが、財源は「中小企業に負担をかけない」という観点から、国庫補助金にする、という方法でした。
末松 全国一律最低賃金1500円を実現したい。現在の水準から年に100円ずつぐらい6年間上げると、全国平均で1500円になる。さらに7年目に100円あげると、全国一律で1500円が達成されるという計算です。
全国一律最低賃金1500円が地域間格差を考えてても一番平等。同一労働同一賃金にも合致する。1500円を達成すれば、国庫補助は打ち止めにします。
落合 現状では労働者の4割ぐらいが非正規雇用です。最低賃金アップは彼・彼女たちの賃金を上げることにつながり、全体の底上げにとって有効です。目標を1500円にした根拠は。
末松 OECD(経済協力開発機構)諸国の最低賃金額を見ると、アメリカのカリフォルニア州が15米ドル、約1700円(2022年1月)で一番高い。次いで、オーストラリアの約1680円(2021年7月)、米ワシントン州の約1660円(2022年1月)。イギリスは約1480円(2022年4月)。フランスは約1370円(2022年1月)、1400円弱ですね。ドイツが1280円(2022年1月)です。ちなみに、ドイツは7月から約1360円に、10月に1500円まで引き上げる法案を提出しています。
日本の1500円は、これらの数字をもとに出した金額。6年という時間はかけますが、遅まきながら欧米の水準にもっていこうと、考えているわけです。
落合 現行の最低賃金で暮らしていくのはかなり苦しい。フルタイムで働いても年間200万円に届きませんから。1500円になれば、年間300万円になる。
末松 厚労省の計算方式でいくと、最低賃金1000円だと月収約14万で年収196万。最低賃金が1500円になると、月収26万円で年収が313万円。ここまでいけば、それなりに基本的な生活はできると思います。
落合 1500円にするまでに6年をかけるのは?
末松 2年間で最低賃金を29%上げた韓国では、経済的に無理があるという批判がありました。ドイツでも7月と10月に最低賃金を引き上げること、それも企業の努力だけでやらせることに対し、様々な反発が起きる可能性があると言われています。これらを勘案し、毎年100円ずつ上げる漸進的な方法が、日本社会にとってはいいのではないかと判断しました。
落合 中小企業に対しては、引き上げの財源を国庫から補助するというのが、この政策のひとつの「キモ」ですね。
末松 はい。最低賃金レベルの厳しい生活を送っておられる方がいま、2000万人ぐらいおられる。この方たちの賃金を上げるのに幾らかかるか、国会職員に手伝ってもらって推計したところ、社会保険料の手当ても含めて6年間で25兆円ぐらいになります。年間だと4兆円ほど。これを「最低賃金国債」でまかないます。
落合 中小企業は実は労働分配率が結構高い。だから、最低賃金を上げる場合、少なくとも中小企業に対しては補助をしないと、耐えられません。
末松 1200万の中小企業の方々には直接、国の資金を投入し、負担はかけません。私の街頭演説に怒った中小企業の親父さんたちも、喜んでもらえると思います。
6年かけて上げた時点で、経済状況が現在より2、3割よくなっていれば、今度は数年間かけて補助金をゼロしていきます。それも、あらかじめ企業の皆さんにも承知してもらいながら進めていくので、無理がない政策になると思います。
落合 最低賃金レベルの厳しい生活を送っている方々は、高所得者と比べて所得を貯金に回すよりも消費に回す率が高いですね。
末松 そうです。だからこそ、最低賃金が上がれば、企業のモノやサービスが売れるようになる。企業の業績が上がって賃金が上がる。こうした「善の循環」を、なんとしても日本で実現したい。それによって足腰の強い経済を回復したいというのが一番の主眼です。
落合 コロナ禍初期の2年前、一人あたり10万円を給付した時にかかったお金は10兆円ちょっと。国庫から年間4兆円の補助というと、その半分以下の財政支出です。それで、実は貯蓄に回る率が高かったといわれる10万円給付よりも、効果が期待できるわけですね。
末松 6年間25兆円の投資でどれぐらいの経済波及効果を試算してみたら、56兆円になりました。投資した額の倍の効果があるかたちです。さらに600万人以上の労働者が、いわゆる「貧困ライン」を超えることも分かった。いろんな面で、「ウィンウィン」なのですが、自民党はこれができない。
落合 最低賃金について、自民や公明の政権与党は動きが鈍いですね。
末松 経団連や日本商工会議所といった大企業の人たちが、「1000円以上の最低賃金は絶対に認めない」と自民党にハッパをかけているからです。なので、自民党は年収196万円が限界なんです。しかも、現在の平均930円から何年後に1000円まで上がるかというと、年間で3%ずつというから、25円ずつ上がったとして、3年後にようやく1000円です。
こんなペース、金額だと、日本経済はますます不景気になる。落合さんが冒頭で指摘された通り、日本では今、石油の高騰をはじめ、様々な物価が上がり、庶民の暮らしが本当に厳しくなっている。最低賃金のアップは喫緊の課題です。
落合 給料があがらないのに、生活に必要なモノの値段があがったら、暮らしていけませんね。
末松 現実問題として、日本の賃金事情は深刻です。たとえば、平均賃金でみると、日本よりも韓国の方がかなり上です。数年前に抜かれました。最低賃金をみても、日本の18県よりも韓国の方が高い。
経団連に話を戻しますが、彼らは「最低賃金なんかあげると、企業競争力が弱まり、国際競争力が失われて、日本経済はますます悪くなる」と言います。でも、競争相手のアメリカや欧州では、最低賃金が日本よりはるかに高いのに、企業の競争力は日本企業を上回っています。根拠のない主張です。
よく言われることですが、平成時代の日本企業の凋落は著しい。時価総額の世界ランキングを見ると、平成元年(1989年)には日本企業がベスト10に7社、ベスト20に14社も名を連ねています。現在(2021年)はベスト10にもベスト20にも日本企業は見当たりません。こんな企業群にしてしまったことについて、経団連の責任は重いですよ。
我々としては、経団連の主張にしっかり反駁(はんばく)しながら、本当に重要なのはサラリーマン6000万人のうち、低所得で苦しむ人が2000万人もいるという実態を直視し、彼らの所得を引き上げて、経済の需要を掘り起こし、経済停滞からの反転をはかる政策を訴えていきたいと思っています。
政治献金を数10億円もらうことで、経団連の意向に隷属化する自民党と違って、幸か不幸か立憲民主党は経団連といった大企業グループから一銭ももらっていません。彼らの主張にとらわれず、自らの政策を推進できます。
落合 国内の買う力が下がってきたので、大企業は外で売らないと生き残れないと、海外進出を進めたわけですが、それって「持続可能」ではないと思います。国内の購買力のアップを、大企業の協力も得て実現することが、これから極めて重要になります。
実は年明けの「論座」の論考「『失われた30年』を反転させる2022年に アベノミクスの『負の部分』を修正」で、賃金を上げるための施策に知恵を絞らなければならない、と論じました。岸田政権は賃金上げ政策については、どう見ていますか。
末松 政府は2022年税制改正で、従業員の賃金を増やした場合、税額控除の上乗せ措置を受けられる制度を導入しましたね。でもこれって意味がないんですよ。
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