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フランス社会の「第三極」が大統領選のカギを握る~メランション派はルペンを支持するのか

「ペストもコレラも嫌」な勢力が選ぶのは新自由主義か、ナショナリズムか

堀 茂樹 慶応義塾大名誉教授

 近代のリベラルデモクラシーを先導してきた国といえば、衆目の一致するところ、やはりイギリス、米国、そしてフランスであろう。そのフランスで、24日(日)、国民の直接投票で新大統領を選出する決選投票がおこなわれる。

多くの有権者が決選投票を見越して1回目も投票?

 フランスの大統領選は、単記方式の2回投票制である。1回目投票で過半数の票を得た候補がいなければ、1位と2位の候補者が2週間後の2回目投票(決選投票)に臨む。従来、有権者は1回目投票では、それぞれ意中の候補者に票を投じると言われてきた。そして、その候補者が2回目投票に進めなかった場合には、決選に残った2人の候補者のうちでマシだと思う方、つまり、絶対に当選させたくないと思う候補者ではない方の候補者に投票する、と。

 しかし今回は、多くの有権者が、頻繁に発表される世論調査を睨んで、どの候補者を2回目投票に進ませるかという観点を優先した気配が濃い。たとえベストと思える候補者がいても、支持率から見てその候補者が2位以内に入る可能性がない場合には、1回目投票の段階からその候補者への投票を諦め、選択の範囲を2位以内に滑り込めそうな候補者に限定する傾向が強まったのである。選挙制度のメカニズムに合わせて、多くの有権者が自ら進んで妥協による多数派形成を図ったともいえる。

 この結果、4月10日の1回目投票(投票率73.69%)では、3人の候補者に票が集中した。得票率順に、1位:エマニュエル・マクロン(27.84%)、2位:マリーヌ・ルペン(23.15%)、3位:ジャン=リュック・メランション(21.95%)。メランションは「極左」に分類されることの多い政党「服従しないフランス」を率いる雄弁家で、今回、善戦して4位に入った5年前の大統領選よりもさらに票を伸ばして三強の一角に入ったが、決選投票には残れなかった。

 この他の候補者はまったく振るわなかった。数カ月前に立候補していっとき旋風を巻き起こした国粋主義の評論ジャーナリスト、エリック・ゼムールの得票率は7.07%にとどまった。「極右」支持と目される有権者層の比重が、エスニックなナショナル・アイデンティティに執着するゼムールでなく、むしろ国民主権の主張に重点を置くように見えるマリーヌ・ルペンに偏ったことは、おそらく注目に値する。

大統領選の決選投票にのぞみ、パリ市内で13日、外交政策についての記者会見にのぞむ右翼「国民連合」のマリーヌ・ルペン氏=2022年4月13日、パリ拡大大統領選の決選投票にのぞみ、パリ市内で13日、外交政策についての記者会見にのぞむ右翼「国民連合」のマリーヌ・ルペン氏=2022年4月13日、パリ

 フランスの政界は、1970年代末から約半世紀にわたって保守派と穏健左翼の対立を軸に展開してきたのだが、5年前の大統領選挙で社会党が完全に「難破」したのに続き、今度は保守派の共和党も「沈没」してしまった。党内予備選で勝ち上がった候補者ヴァレリー・ペクレスの得票率がなんと5%にも及ばなかったのだ。社会党の代表として立ったパリ市長、アンヌ・イダルゴにいたっては、泡沫候補並みの得票率1.75%に沈んだ。フランス版「緑の党」のヤニック・ジャドが4%台の得票率で敗退したこと、また、多文化主義から普遍主義に立ち帰る姿勢で新風を起こした共産党のファビアン・ルーセルも結局伸びなかったことを付け加えておこう。

3位メランションは「ルペンに投じてはダメ」

 かくして、大統領選挙の決選投票は、2017年の前回と同様、エマニュエル・マクロンVS.マリーヌ・ルペンの構図と決まった。前者現職で、フランス第五共和制最年少(44歳)の大統領だが、支持基盤は高齢者層に偏っている。後者は在野、国民連合(旧称・国民戦線)の党首で、今なおパリの主流メディアでは「極右」として悪魔化され続けている女性(55歳)だ。

 2017年には、マクロンもルペンも大嫌いだという有権者たちが、「ペストとコレラの間では選びようがない!」と頭を抱えたものだった。このたびも、1回目投票でメランションに投票した有権者たちが同じジレンマに追い込まれている。因みに、メランション自身は3位決定直後の演説で、「マダム・ルペンには1票も投じられてはならない!」と繰り返した。

演説に臨むジャン=リュック・メレンション氏=2022年3月20日、パリ shutterstock/Victor Joly拡大演説に臨むジャン=リュック・メレンション氏=2022年3月20日、パリ shutterstock/Victor Joly

 こうした現状は、われわれを戸惑わせる。かつてフランスの大統領選挙は、政界の左右を代表する穏健右派と穏健左派が、ジスカール=デスタンとミッテランが、ミッテランとシラクが、がっぷり四つに組み合って論争し、最後は51%対49%で勝負がつくというふうで、少なくとも素人目には、勢力図と対立軸がはっきりしたイヴェントだった。最近はどうしてこう混乱の様相を呈するのだろうか。

 この疑問を解くには、少なくとも、現代のフランス社会が、もはや右か左かとか、保守かリベラルかといった2極構造ではなく、新た3極構造になっていることを知ること、そしてそれがどのような3極構造かを理解しておくことが必要だ。

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筆者

堀 茂樹

堀 茂樹(ほり・しげき) 慶応義塾大名誉教授

1952年、滋賀県生まれ。東京日仏学院講師、慶応義塾大学名誉教授。主要訳書にアゴタ・クリストフ『悪童日記』『ふたりの証拠』『第三の噓』をはじめ、アニー・エルノー『シンプルな情熱』、シモン・レイス『ナポレオンの死』、ダニエル・サルナーヴ『幻の生活』、ディディエ・デナンクス『記憶のための殺人』など。著書に『今だから小沢一郎と政治の話をしよう』、共著に『グローバリズムが世界を滅ぼす』エマニュエル・トッドなど。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです