星浩(ほし・ひろし) 政治ジャーナリスト
1955年福島県生まれ。79年、東京大学卒、朝日新聞入社。85年から政治部。首相官邸、外務省、自民党などを担当。ワシントン特派員、政治部デスク、オピニオン編集長などを経て特別編集委員。 2004-06年、東京大学大学院特任教授。16年に朝日新聞を退社、TBS系「NEWS23」キャスターを務める。主な著書に『自民党と戦後』『テレビ政治』『官房長官 側近の政治学』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
ウクライナ侵攻後の激動する世界でどう生き抜くか。わが国の「国家価値」とは何か……
令和の政治や経済が抱える課題について議論し、さらなる改革の実現を期す「令和国民会議」、通称「令和臨調」が6月に発足します。依然収束しないコロナ禍、泥沼化の様相を呈するウクライナ問題など、国内外の情勢が不透明さを増すなか、各界の有識者を集めた令和臨調は何を目ざすのか。共同代表を務める小林喜光さんと「論座」筆者の政治ジャーナリスト・星浩さんに対談をしていただきました。(構成 論座編集部・吉田貴文)
小林喜光(こばやし・よしみつ) 令和臨調共同代表、経済同友会前代表幹事
1971年東京大学大学院理学系研究科相関理化学修士課程修了後、ヘブライ大学物理化学科、ピサ大学化学科留学を経て、三菱化成工業(現・三菱ケミカル)入社。三菱ケミカルホールディングス社長、会長を経て、現在同社取締役。経済同友会代表幹事、総合科学技術・イノベーション会議議員、規制改革推進会議議長などを歴任。現在は、東京電力ホールディングス取締役会長、日本銀行参与のほか、日本生産性本部副会長、カーボンリサイクルファンド会長、日本化学会会長、日本工学アカデミー会長、みずほフィナンシャルグループ社外取締役も務める。2022年6月に発足する令和臨調では共同代表に就任。
星浩 令和の政治や経済が抱える課題を議論し、さらなる改革を目ざす「令和国民会議」、通称「令和臨調」が6月に正式に発足します。小林さんは共同代表の一人です。産学の有識者でつくるこの会議には、すでに80人が参加を表明していると聞いていますが……。
小林喜光 はい。令和臨調は、茂木友三郎(キッコーマン取締役名誉会長 取締役会議長)さん、佐々木毅(元東京大学総長)さん、増田寛也(日本郵政取締役兼代表執行役社長)さんと私の4人が共同代表となり、ポストコロナの社会に向けた議論を進めようと考えています。
星 この対談では、夏の参院選前に令和臨調を旗揚げする狙いなどについてお伺いするつもりですが、やはり今はロシアのウクライナ侵攻に触れないわけにはいきません。日本の政治、経済にも大きな影響を及ぼすであろうウクライナ情勢について、小林さんがどう捉えておられるのか、お聞きしたいと思います。
20世紀からこの100年の世界を民主主義という切り口で見ると、民主主義はまず、ファシズムと対峙し第2次世界大戦で勝利を収めました。その後、冷戦下で共産主義と対立しましたが、1989年の冷戦終結でこれを破った。ポスト冷戦になると、9・11同時多発テロやリーマン・ショックはあったものの、民主主義、市場原理、国際協調に基づいて困難を乗り越えていこうという流れが定着したかに見えた。そこで、ロシアのウクライナ侵攻が起きました。
今回の事態について私は、市場原理や民主主義によって「強者」と「弱者」が生まれた結果、弱者に追いやられたロシアが冷戦後の流れにチャレンジをしたものと捉えています。もちろん、ロシアの侵略は力による現状変更以外そのものであり、絶対に許されません。ただ、そのロシアが軍事的には核を持った大国で、それが厄介な問題を引き起しています。
小林 私は今、人類は戦争や飢饉、疫病から解放されたと、いささか楽観的に見過ぎていたと感じています。飢饉については、いまだ地球上で10億人近い人々が苦しんでいるわけですが、少なくとも戦争や疫病にこれほどまでに悩まされ、苦しめられるとは正直、思っていませんでした。
AIやデジタルで脳を“外部化”することで、新しいユートピアをめざそうとしている21世紀の人類にとって、AIやデジタルが新たな「敵」になる。これをどう制御するかが次の課題になると感じていましたが、実際には戦争を起こしたプーチン(ロシア大統領)やコロナウイルスが社会の安寧を脅かす敵、茹でガエルに対する「蛇」であった。この点を読み間違えていたことが、非常にショックでした。
星 戦争と疫病と飢饉という三つの問題を克服するため人類は頑張ってきたわけですが、根源的には克服できていなかった。それが、コロナ禍とウクライナ侵攻で露呈したのは大きいです。プーチン大統領こそが災いをもたらす蛇であったというわけです。