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安易な憲法改正がいかに危ういか、ロシアを見れば明らかだ

2020年改憲に透けて見えるウクライナ侵攻への布石

国分高史 ジャーナリスト・元朝日新聞編集委員兼論説委員

国際法に対する憲法の優位、同性婚排除……際立つ欧米の価値観への対抗心

 当初の改憲案で自らの続投を明確に否定しておきながら、与党議員の提案に乗る形でそれを180度ひっくり返したこの憲法改正は、日本国内でも「権力の私物化」と批判された。

 ほかの改正条項も見てみると、プーチン氏の大ロシア主義や欧米諸国への対抗意識が随所にちりばめられ、保守的、国家主義的思想が色濃く反映した異色の憲法に変容したことがわかる。

 内容を具体的に見てみよう(条文は三省堂「新解説 世界憲法集第5版」から引用し、溝口修平氏による解説も参考にした)。

 まず目につくのは、第2次世界大戦後、あるいは冷戦終結後に欧米諸国が中心になって築き上げてきた国際秩序や価値観への対抗心だ。

 国際組織への参加について定めた79条で、「国際組織の決定は、ロシア連邦憲法と矛盾すると解釈された場合、ロシア連邦において執行されない」と、国際法に対するロシア憲法の優位を明文化した。

 欧州人権裁判所は近年、反体制派などへのロシア政府の弾圧を人権侵害と認定し、賠償金の支払いを命じる判決をいくつも出している。ロシア政府はこれらの命令を拒否してきたが、その根拠をそれまでの国内法から憲法に格上げした形だ。ロシア国内への欧米の影響力を排除する狙いが見て取れる。

 67条では「ロシア連邦は、その主権及び領域的一体性の保護を保障する」とうたい、「領土の一部の譲渡に向けられた活動、およびそのような活動を呼びかけることは認められない」と明記した。

 日本との北方領土問題を意識したかのように、条文には「隣国との範囲の画定、国境画定および再画定をのぞく」とのただし書きがある。ただ、改憲案作成に向けた過程では、ロシアが2014年に一方的に併合したクリミア半島や北方領土を守ることを念頭に議論が交わされていたという。

 また、同性婚を認める国が増えつつある中、72条では婚姻制度について「男性と女性との結びつき」と新たに規定し、同性婚を排除した。

拡大国後島では2020年7月2日、領土の割譲を禁じる憲法改正の記念碑の除幕式が行われ、ロシア国旗を持った島民らが歓声を上げた=サハリン州政府のサイトから

祖国防衛の功績を貶めることは認めぬ、国外同胞の利益を保障……侵攻の布石か

 保守主義、国家主義が際立つのが、67条に新たに加えられた条項だ。

 ロシア連邦を「ソ連の法的継承国」であると位置づけたうえで、「千年の歴史によって団結し、我々に理想および神への信仰、ならびにロシア国家発展の継続性を授けた祖先の記憶を保持するロシア連邦は、歴史的に形成された国家の統一を認める」と記した。さらに「ロシア連邦は祖国の防衛者を追悼し、歴史的真実の保護を保障する。祖国防衛に関する国民の功績の意義を貶めることは、認められない」と軍人をたたえ、愛国心を前面に打ち出している。

 また、69条には「ロシア連邦は、国外に居住する同胞に対し、その権利行使、利益保護の保障

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筆者

国分高史

国分高史(こくぶ・たかし) ジャーナリスト・元朝日新聞編集委員兼論説委員

上智大学文学部を卒業後、1989年に朝日新聞入社。佐賀支局、福岡本部社会部などをへて、政治部員として2002年の日朝首脳会談や2004年の米国大統領選、2005年の郵政解散・総選挙などを取材。2008年から論説委員として政治社説を担当するとともに、編集委員としてコラム「政治断簡」、「多事奏論」を執筆した。2021年からフリージャーナリスト・エディター。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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