メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

「まっとうな人」岸田首相に期待高まる~宿題を片付けてさらなる前進を!

政権発足から半年以上、高支持率を維持する首相が新たな局面がひらくために必要なこと

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

 4月18日に発表された朝日新聞の世論調査では、岸田文雄内閣の支持率が前月比5%増の55%と発足以来、最高を記録した。今月は他のメディアの世論調査でも軒並み高い支持率を示しており、政権から半年以上が過ぎるなか、好調さが際立っている。

 依然として終息しない新型コロナウイルス感染症、ロシアによるウクライナ侵攻、“円安経済”という「三重苦」のなかでいま、政権を交代させる余裕はなく、この政権を支持して進む他はないという現実的な判断が先立つのだろう。朝日調査の内閣支持の理由をみると、「他よりよさそう」が55%と半数を超えているのは、それを物語っている。

岸田文雄首相=2022年4月28日、首相官邸

指導者にしてはいけないプーチン大統領

 若き日の岸田首相と職場を共にした私の友人が、岸田氏のことを「まっとうな人」、「今と同じ」と評していた。こうした印象が、首相への着実な信頼につながっているのであろう。難局であればあるほど凡庸であっても安心できる人が歓迎されるのは、納得できる。

 その傾向に拍車をかけているのは、ウクライナ侵攻を強行しているロシアのプーチン大統領の悪魔的個性ではないか。プーチン大統領は「こういう人を指導者にしてはいけない」という見本のような人だ。

 猜疑心や嫉妬心が強ければ、その分、復讐心も異常に強くなる。本来、国民にとってそういう指導者は真っ平ごめんの存在だ。それに比べると、「まっとう」な岸田首相は望ましい指導者といえる。

「戦争犯罪」断言にみる首相の果断さ

 岸田首相はロシア軍によるウクライナの民間人殺害に対し、躊躇なく「戦争犯罪だ」と断言をした。朝日の世論調査によると、この首相発言を「支持する」という人は88%に達している。そこに、首相の意外な果断さを見たからだろう。

 さらに首相は、米欧と経済制裁で足並みをそろえ、プーチン大統領の個人資産の凍結にも踏み込んだ。その結果、ロシアは日本を「非友好国・地域」に加えたが、それはもとより覚悟の上のこと。無法国家のロシアにひれ伏すという選択肢はあり得ない。

 日ロ間の懸案であった北方領土問題も、これで「不法占拠」、「四島一括」の原点に戻った。ロシアが賢明な指導者に率いられたとき、返還交渉も平和条約交渉も、あらためて始めればよい。

※田中秀征さんの連載「新時代ウォッチ」

首相官邸に入る岸田文雄首相=2022年4月27日、首相官邸

宏池会に受け継がれる三つの思想的枠組み

 さて、先述した「三重苦」に全力で立ち向かえば、岸田首相の政権基盤は次第に強化されていき、このところずっと日本が陥ってきた国力劣化の流れを反転させることもできるはずだ。だが、そういうよい流れを引き寄せるためにも、早期に片付けるべき幾つかの宿題がある。

 周知の通り、岸田首相は長い歴史をもつ自民党の派閥「宏池会」の会長である。宏池会は、首相の地元である広島県出身の池田勇人、宮沢喜一の二人の元首相も会長をつとめた。岸田首相は、派閥の創立者である池田元首相を尊敬し、宮沢元首相の弟子を認じている。

 昨年秋の自民党総裁選の当時は、いまだ流動的であった広島県の情勢も、日ごとに岸田首相支援が強まり、宏池会の基盤が復活、強化されているように感じる。それはまた、保守本流といわれた“宏池会の理念”への期待でもあろう。

 宏池会には特段の綱領があるわけではないが、その思想、理念は昭和31(1956)年に創立されて以来、脈々と受け継がれている。

 かつて、私も宏池会の末席につらなり、宮沢喜一会長のもとで国会議員として政治活動をしていた経緯がある。宏池会創立以来の理論的な指導者であった宮沢元首相が、格別重視した会の思想的枠組みは「歴史認識」と「言論の自由」であり、政治手法としては「手続きの尊重」であったと受け止めている。

会見する岸田文雄首相=2022年4月26日、首相官邸

岸田首相に課された宿題とは……

 宏池会は2000年、会長だった加藤紘一氏による“加藤の乱”によって四分五裂の憂き目に遭い、その後衰弱してしまった。それが、岸田首相が実現して以来、再結集の流れが強まってきているように見える。ここで首相自身が覚悟を決めて幾つかの宿題を片付ければ、日本の政治は新しい局面に踏み出すことができるのではないか。

「歴史認識」を明確に

 岸田首相に課せられた宿題は大きく四つある。

・・・ログインして読む
(残り:約1347文字/本文:約3183文字)