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官邸主導なき岸田政権は「複合危機」を乗り越えられるか?

政権交代におびえた安倍・菅政権から脱却できるか……

牧原出 東京大学先端科学技術研究センター教授(政治学・行政学)

民主党からの政権奪還が大きく影響

 こうした安倍政権の首相を前面に押し出す政策革新は、民主党から政権を取り戻したことが大きく影響している。

 政権発足時、自民党に対する国民からの不信感は根強く、だからこそ安倍首相は当時、「国民の支持は一瞬にして失われる」という戒めを繰り返した。政権に復帰した自民党も、すべてを民主党政権以前に戻すことはなかった。民主党政権のような政治主導の仕組みを取り入れ、首相とこれを支える官邸が政策形成の拠点となることが目指された。

 一方で、民主党政権を反面教師として、大臣間、党と政府の間で混乱が生じないよう、意を尽くした。

 主要閣僚は財務相の麻生太郎元首相や法相の谷垣禎一前総裁のように、閣僚や党幹部の経験が豊富な議員を起用した。重要閣僚には大臣自らに省を仕切らせ、それ以外の閣僚の場合は、必要とあれば、官邸自身が省を仕切るというかたちで、首相が全閣僚の上に立つようにしたのである。

 また、党に対しては、首相が影響力を行使する際、政調会の部会などが抵抗勢力にならないよう、首相の意向が及ぶ議員を部会長に抜擢。さらに、首相直属機関を設置し、首相の意向にそって党内で政策を形成する仕組みを作り上げた。

 当時はこうした政策形成が、平成から進められてきた政治改革・省庁再編の成果のように見えた。確かに、この時期におこなわれた内閣人事局や国家安全保障会議・国家安全保障局の設置のような官邸への権限集中と見られる改革は、平成以来の改革の一つの到達点のように見えた。

拡大国家安全保障局の辞令交付後、記念撮影に臨む(左から)谷内正太郎元外務次官、礒崎陽輔首相補佐官、安倍晋三首相、菅義偉官房長官=2014年1月7日、首相官邸

コロナには通用しなかった安倍・菅政権の官邸主導

 しかし、実は安倍・菅政権のもとでは、新型コロナをのぞけば、巨大な自然災害もなければ、リーマン金融危機のような経済危機もなく、ウクライナ危機のような大規模な武力衝突もなかった。凪のような状況のもと、政権は複数の重要課題に同時に取り組むこともなく、新規の課題を小出しにして取り組めばすんだ。話題をさらうことが目的であり、休暇中の首相のくつろいだ姿をアピールするといった手法も用いられた。

 だが、こうした安倍・菅政権の官邸主導は、新型コロナには通用せず、無残な結果を招いた。科学的根拠の薄い首相主導の政策形成、専門家の提言への恣意的な無視、各省の混乱の放置、首相のコミュニケーション能力の低さを露呈したのである。

 新型コロナ対策は確かに難しい。科学的根拠は必要だが、新型のウイルスであるがゆえに、科学的知見の蓄積は必ずしも十分ではない。専門家の提言は、安全策を十二分にとろうとして、社会活動を大きく制約しがちである。他方、社会活動を活発にする方向に舵を切れば、感染拡大は免れない。

 安倍・菅政権は、社会活動を活発にする方向に寄った判断を繰り返し、感染拡大を招いて信頼を失った。国民の真の希望は、社会活動ではなく感染抑制であったことを見逃し、科学的根拠のない官邸主導の施策を繰り返したのである。

官邸主導の三つの目的と実態

 ここまで見てきたように、2009年の政権交代以来の官邸主導とは、民主党政権であれ、安倍・菅政権であれ、各省や専門家の慎重な判断に対して、根拠の薄い官邸独自の見解を無理矢理、政府の政策とすることとほぼ同義であった。その目的は三つあった。

 一つには、それが成功すれば、既存の悪しき慣習の克服になる。それは政権の存在理由にすらなる。

 二つには、結果が出なくても、結果に向けて努力している政権をアピールできる。いまだ工事終了の見込みすら立たない沖縄の辺野古の埋め立てや、ロシアに対して2島返還に軸足を置きつつ平和条約交渉を働きかけたのは、その典型である。

 三つには、次々に課題を出せば、政権、とりわけ官邸を中心とする首相の存在感を高めることができる。各省や党政調会部会ではなく、首相と官邸が判断したという実績は積み上がるからだ。安倍政権の「やってる感」と言われた数々の施策は、概ねこうした状況を指している。それが官邸主導の内実であった。

 要するに、民主党政権にせよ、安倍・菅政権にせよ、政治主導・官邸主導は成果をあげる途上にあったと言っていい。9年も続いた安倍・菅政権ですら途上というのは、一見奇異に見えるが、それが実態である。

拡大首相官邸=2021年9月7日、東京・永田町、朝日新聞社ヘリから

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筆者

牧原出

牧原出(まきはら・いづる) 東京大学先端科学技術研究センター教授(政治学・行政学)

1967年生まれ。東京大学法学部卒。博士(学術)。東京大学法学部助手、東北大学法学部教授、同大学院法学研究科教授を経て2013年4月から現職。主な著書に『内閣政治と「大蔵省支配」』(中央公論新社)、『権力移行』(NHK出版)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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