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改憲派も護憲派も、国民投票の公正なルール作りの議論を進めよ

英国とニュージーランドの広告規制・資金上限制モデルが参考になる

南部義典 国民投票総研 代表

抗議の中で始まった、国民投票法改正案の審査

 自民、公明、維新、有志の衆議院4会派は4月27日、国民投票法改正案(第3次)を共同提出した。翌28日に開かれた衆議院憲法審査会で、改正案の趣旨(提案理由)説明が行われている。その内容は、

①2017年10月の衆議院議員総選挙において、悪天候で離島から投票箱を運べなかった事例を踏まえ、選挙だけでなく国民投票に際しても安全・迅速な開票を行う観点から、国民投票の開票日に近接して現地で開票所を設ける場合の開票立会人の選任に関する規定を整備すること

②国民投票に際して、投票所の円滑な設置、運営を図るため、投票立会人の選任要件を緩和すること

③選挙における政見放送等の取扱いと同様、国民投票広報協議会(憲法改正の発議後、国会に設置)による憲法改正案広報放送を、FM(超短波放送)の放送設備でも可能とすること

 の3項目である。①②は公職選挙法の2019年改正の内容と、③は同法の2022年改正の内容とそれぞれ「横並び」で、選挙と国民投票との制度間較差を埋めるものである。

国民投票法について各党の代表者の意見を聞く衆院憲法審査会の森英介会長(中央)=2022年4月28日、国会内国民投票法について各党の代表者の意見を聞く衆院憲法審査会の森英介会長(中央)=2022年4月28日、国会内

  2021年6月18日に公布され、同年9月18日に施行された改正国民投票法(第2次)が、期日前投票の運用の弾力化など7項目の横並び改正をその内容としていたことは記憶に新しく、ある意味で恒例となりつつある。今回の自公維有案も、第2次改正法附則4条1号イ(開票立会人の選任要件の緩和)・ロ(投票立会人の選任要件の緩和)に定められている検討項目(施行後3年=2024年9月18日を法整備の目途としている)に直接応える内容で、つとめて実務的なものであり、法整備を進める上での「異論」は無いはずである。

 しかし、28日の憲法審では、法案の筆頭提出者である新藤義孝議員(自民)が説明文を読み上げる最中、野党席から抗議の声が上がり、さらに別の提出会派からも抗議に反論応戦する一幕があった。この模様をTVニュースで見た人は、「そんな大声を出して、一体何をそんなに揉めているのか」と怪訝に受け止めたに違いない。

広告規制がまったく含まれない今回の改正案

 野党の抗議の理由は、手続上の問題(自公維有案が27日に提出された後に、憲法審に付託するタイミングについて与野党で協議して円満に決定すべきものを、28日の議院運営委員会で自民などの賛成多数により「数の力」で押し切って付託を決めたこと)もさることながら、そもそも広告規制、運動資金規制に関する事項がまったく含まれていない、という内容上の問題が大きい。

 第2次改正法附則4条1号は前述のとおりだが、2号はイ(広告放送、デジタル広告の規制)、ロ(国民投票運動等の資金の規制)、ハ(インターネット適正利用の確保の方策)を掲げており、自公維有案は確かに、1号と2号を完全に切り分けてしまったことは事実である。2号イロハの検討項目は手付かずに放置し、このまま憲法改正の発議、国民投票に至るのではないか、という疑念が生じるのも当然であろう。

 もっとも、GW後、自公維有案の審査がハイスピードで行われて、すぐに衆議院を通過する見通しが立っているかといえば、決してそうではない。現在開かれている208回国会の会期内、衆院憲法審、参院憲法審の定例日(それぞれ木・水)は、片手で数えられるほどしか残っていない。何より、一部報道によると、参院自民党の幹部は「会期内に自公維有案を審議、成立させる意向はない」と公言し、参院に法案を送付しないよう衆院側に釘を刺している状況にある。

 参院選後、短期の臨時会(209回国会)が召集され、いったん閉じた後、秋ごろに二度目の臨時会(210回国会)が召集されるスケジュールを念頭におけば、自公維有案が成立するのは早くても「半年程度先」になるのではないだろうか。また、立憲民主党がGW後に、対案を出す方針を明らかにしており、審査会での議論、修正協議を通じ、改正法に反映させられる可能性はまだ残されている。いまこの段階で、2号イロハの検討を放遂してしまうのは妥当ではない。

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「自由」と「公正」を保証する運動資金規制が必要

 本稿は特に、2号ロ(国民投票運動等の資金の規制)の必要性について論じる。国民投票は「自由」と「公正」が鍵概念であるところ、多額の資金が運動のために費やされることになれば、その資金の影響を直接、間接に受けて憲法改正案に対する賛成・反対を判断してしまう有権者が出てくることになり、結果として国民投票の公正さに疑念が生じる場合も出てくる。この意味で、資金に関しては、「自由」と「公正」がトレードオフの関係に立つ。

 とりわけ、出所不明の多額の資金が特定の国民投票運動に費やされれば、この意味での弊害が大きくなるばかりか、罰則を担保とした選挙の「収支報告」等の制度もなく、資金の「入」「出」を事後的にチェックする術さえ存在しない。支出上限が定められていなければ、完全に「青天井」の運動展開が可能となる。選挙であれば数年に一度の「やり直し」が利くが、国民投票にその保証はなく、国として容易に消化できない政治的混乱を長年にわたって抱え込むことになってしまう。以上のような問題意識から、筆者は、資金規制必要論に立つ。

 この点、立憲案は未提出であるが、その概要は明らかにされている。「国民投票運動等に対する収支の透明化等」という見出しの下、(ア)国民投票運動等に対する支出金額が1,000万円超の団体の届出制、収支報告書の提出等、(イ)国民投票運動等に対する支出限度額(5億円)の設定、(ウ)国民投票運動等に対する寄附の規制(外国人等からの寄附の受領禁止、匿名寄附の禁止等)という項目が示されている。

 これらは約3年前、2019年5月21日に衆院に提出された(憲法審への付託に至らず、幻と消えた)旧国民民主党案の内容を基本的に踏襲していると考えられる。資金規制を奏功させ、国民投票の公正さを確保する観点から、同規制の先行国であるイギリス(2016年6月23日、EU離脱・残留を問う国民投票を執行)、ニュージーランド(2020年10月17日、娯楽用大麻の合法化等の賛否を問う国民投票、介助死法の施行の賛否を問う国民投票を執行)の制度と比較しつつ、以下3点の提案を試みたい。

広告主の登録制度~100万円超なら届出、1000万円超なら収支報告を

 立憲案は、(ア)国民投票運動等に対する支出金額が1,000万円超の団体の届出制を定めているが、1,000万円という基準額はいささか高いと思われる。裏を返せば、1,000万円まで誰と知られることなく、運動に支出できることになってしまう。

 この点、イギリスでは10,000ポンド(当時換算約140万円)超の支出を見込む運動者、ニュージーランドでは13,600NZドル(同約92万4,800円)超の支出を見込む広告主、にそれぞれ法律上の登録義務を課していた。国民投票の案件、運動期間などの違いはあるが、日本でもこの程度の基準とし、「100万円超」とするのが妥当ではなかろうか。

 さらに、

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