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覇気に欠けたプーチン演説 戦果・展望示せず苦境に~大義名分なきウクライナ侵攻

孤立化を恐れる?プーチン大統領。撤退の機は今しかない

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

 世界が注目した対独戦勝記念日(5月9日)のプーチン大統領の演説だったが、空虚な内容に加えて、プーチン氏の存在感にも陰りが見えた。

 メディアの評価も総じて厳しいが、演説の主旨がウクライナへの「侵攻の正当化」という点で、弁解調で前向きの演説とは到底いえない。

ロシア国民を歓喜させるはずが……

 ウクライナ侵攻翌日の2月25日、プーチン大統領がさっそく習近平・中国国家主席と電話で会談し、ウクライナ側との協議の必要性について合意したことは、すでに「論座」の論考「ウクライナ侵攻に多くの誤算 プーチン・習近平の中ロ首脳会談が導火線に点火か?!」で言及した。両首脳が、きわめて短期間にロシア軍が目的を達成する可能性を信じていたことがうかがえる。

 おそらく、ロシア軍がウクライナ東部や首都のキーウに総攻撃をかける構えを見せれば、ゼレンスキー大統領はウクライナから国外に逃亡するか、大統領職を投げ出すとでも思っていたのだろう。

 当初、ロシア側の要求は、①政権の転覆、②ウクライナの非武装化、③NATO(北大西洋条約機構)への非加盟――の三つと言われてきた。①が早期に実現すれば、②と③は交代した政権との協議を通じて、ウクライナにのませればよい。プーチン大統領はそう考え、習主席も理解したのではないか。

 そして、シナリオ通りならば、ロシアで最も重要な祝日である5月9日に、ロシア国民を歓喜の渦に巻き込むことになったであろう。

 そうした思惑が夢と消えたいま、プーチン大統領やロシア軍にとって、国民を納得させる最小限の“戦果”が欲しかったはずだ。そのためにも、南東部の製鉄所「アゾフスターリ」をなんとしても陥落させたかったのだろうが、9日までにそれも実現せず、ウクライナ側の徹底抗戦が続いている。

拡大軍事パレード終了後、軍人たちに声をかけるプーチン大統領(手前左)=2022年5月9日、モスクワ・赤の広場

説得力のない「非ナチ化」という大義名分

 かねてから私は、「政治は大筋でしか動かない」と信じてきた。小手先の手段で動くこともあるが、必ずいつか揺り戻しがくる。だからこそ、歴史の中で人類は多くの困難を乗り越えてきたのだと思う。

 今回のロシアによるウクライナ侵攻は、これ以上はないほど明白な国連憲章、国際法違反である。そもそも国連は、こうした“蛮行”が起きないように、第2次世界大戦後、国連憲章を制定したうえで創設されたものだ。今回のウクライナ侵攻は「特別軍事作戦」と銘打って逃げるには大きすぎる違法な歴史的暴挙に他ならない。

 「特別軍事作戦」の大義名分としてロシア側から聞こえてくるのは、「ウクライナ国内の『ネオナチ』勢力によって、ロシア系住民が虐待されているので救助する」ということだ。そのために「ウクライナを非ナチ化する」のが目的だという。

 だが、この大義名分はいかにも説得力がない。第2次大戦におけるナチス・ドイツとロシア(ソ連)との戦いを想起させて、ロシア国内はもとより、世界をも納得させようというのだが、ほとんどの人は「プーチン対ナチス」の戦いと言われても、得心できないであろう。なぜなら、現状ではむしろ、プーチン大統領がヒトラーに、プーチン政権がナチスに見えてしまうからだ。かつてない稚拙なプロパガンダというしかない。

>>>ロシアのウクライナへの軍事侵攻に関する「論座」の記事を特集「ウクライナ侵攻」にまとめています。

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筆者

田中秀征

田中秀征(たなか・しゅうせい) 元経企庁長官 福山大学客員教授

1940年生まれ。東京大学文学部、北海道大学法学部卒。83年衆院選で自民党から当選。93年6月、自民党を離党し新党さきがけを結成、代表代行に。細川護熙政権で首相特別補佐、橋本龍太郎内閣で経企庁長官などを歴任。著書に『平成史への証言 政治はなぜ劣化したのか』(朝日選書)https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=20286、『自民党本流と保守本流――保守二党ふたたび』(講談社)、『保守再生の好機』(ロッキング・オン)ほか多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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