フィンランドの勇気ある決断 NATO加盟申請~ロシアの目的はウクライナ乗っ取りか
プーチン大統領にとって致命的な誤算か。CSTO首脳会議も予想外の結果になり……。
田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授
ロシアのウクライナ侵攻が足踏みをするなかで、隣国のフィンランドの勇気ある対応が世界から注目されている。
5月15日、フィンランドのニーニスト大統領とマリン首相は、同国がNATO(北大西洋条約機構)への加盟を申請することを記者会見で発表した。さらに、西隣のスウェーデンのアンデション首相も16日、NATOへの加盟申請する方針を正式に表明した。

NATO加盟申請について共同記者会見に臨むフィンランドのマリン首相(左)とニーニスト大統領=2022年5月15日、ヘルシンキ
ロシアの侵攻に耐え、独立を守ったフィンランド
フィンランドにこれほどまでに世界の目が注がれるのは、1952年に首都ヘルシンキでオリンピックが開かれて以来かもしれない。
当時、小学生だった私にとって、これは初めて夢中になったオリンピックだった。遠い北欧の国から届く、雑音だらけの聞き取りにくい実況放送に、ラジオにかじりついて耳をすましたものだ。
第2次世界大戦中、フィンランドは大国であるソ連に二度も侵攻されながら、なんとか独立を守った。この国の国民にとって、戦争が終わって7年後に開催されたオリンピックは、文字どおり誇らしい「平和の祭典」だったに違いない。
プーチン大統領の致命的な誤算
フィンランドのNATO加盟に対するロシア側の反発は強く、その最初の“仕返し”であるかのように、ロシアの電力会社「RAOノルディック」のフィンランドでの電力供給を停止した。また、ニーニスト大統領から加盟申請を知らされたプーチン・ロシア大統領は、「軍事的中立の政策を放棄することは間違いになる」と強く警告した。だが、いったん動き出した流れは止まりそうにない。
ウクライナ侵攻以降、“プーチンの誤算”は数多いが、これまで一貫して中立を掲げてきたフィンランドとスウェーデンにNATO加盟へと舵を切らせてしまったことは、致命的な誤算と言えよう。
これによってバルト海は、ロシアの飛び地であるカリーニングをのぞけば、NATOの支配下に置かれることになる。ロシアの旧都サンクトペテルブルグは、フィンランド湾の最も奥にあるが、東西に細長いこの湾からロシア船が出ようとすると、南北の海岸からNATOによって監視され続けることになる。

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ロシア・プーチン氏にとって屈辱的な状況に
ロシアにすれば屈辱的な状況だが、これもニーニスト・フィンランド大統領がいう通り、「あなたがたロシアが引き起こしたこと」(朝日新聞5月13日)になる。もっと言えば、この件はなによりプーチン大統領自身にとって、かつてない屈辱となるのではないか。
周知の通り、プーチン氏はレニングラード(現サンクトペテルブルグ)で生まれ育っている。この地で教育を受け、レニングラード大学を卒業した後にKGBに勤務。1989年の冷戦の終結は東ドイツで迎え、90年にレニングラードに帰郷。ソ連崩壊後の激動のなかで市の行政に関わるようになり、94年には自ら第一副市長となり政治家としての一歩を踏み出した。モスクワ以上に思い入れの深い街でもあろう。
プーチン氏の性格を考えれば、地元であるサンクトペテルブルグが、あたかもNATOの檻に閉じ込められてしまうような思いを持つかもしれない。
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