大濱﨑卓真(おおはまざき・たくま) 選挙コンサルタント
1988年生まれ。青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。衆参国政選挙や首長選挙をはじめ、日本全国の選挙に与野党問わず関わるほか、「選挙を科学する」をテーマとした選挙に関する研究も行う。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
表面上の平穏さの裏側に垣間見える衆院選をにらんで参院選を戦うという動き
夏の参院選の公示日になるとみられる6月22日まで、いよいよ1カ月を切りました。ただ、依然として世間の関心はほとんどないように見えます。もともと定期的にやってくる参院選は、衆議院の解散という政治的な“事件”があっておこなわれる衆院選と比べて人びとの関心は低いものですが、今回の参院選はことのほか「べた凪(なぎ)」の状態にあるように見えます。
もちろん政党や政治家、筆者が身を置く選挙業界は次第に慌ただしさを増し、メディアも政党の公約やら選挙に関する情報を伝え始めています。今のところ、メディアの世論調査が示す岸田文雄政権の支持率は高く、自民党の支持率も野党を大きく引き離しており、こうした波乱のなさも、参院選が注目を集めない一因だと思われます。
とはいえ、選挙専門家の目で表面上の平穏さの裏側をのぞいてみると、決して平穏ではない政治の実態が見えてきます。より正確に言うならば、その先にある衆院選をにらんで、それぞれのプレイヤーが参院選を戦うという動きが出てきています。
どういうことか? 本稿では今回の参院選をめぐる各党の戦略や課題について、長期的視野から見ていきたいと思います。
まず、自民党です。この参院選を岸田政権が乗り切れば、しばらくの間、国政選挙がない「黄金の3年間」を手に入れることができます。自らの政策を実現するためには、十分すぎるとも言える3年間を有効に使って、実績を積むことができれば、長期政権への展望も広がり、岸田派(宏池会)の勢力拡大にもつながることでしょう。
そんな自民党が今、関心を抱いているのは、衆議院の選挙区区割り改定です。衆議院選挙区画定審議会による選挙区の勧告期限は6月25日。通常国会の閉会は、延長されなければ6月15日。参院選の公示日は6月22日が想定されているので、おそらく勧告は6月15日から22日までの間にあると見られています。
勧告の結果、選挙区が減らされる県では、「支部長争い」が過熱することが予想され、それが参院選にも影響を与えることが否めません。たとえば二階俊博・前幹事長の地元和歌山県や、前回も選挙区の公認争いがあった新潟県などでは、参院選の結果が支部長争いを左右しかねず(参院選で落選して、衆議院に鞍替えされたら、支部長争いがさらに激化します)、やきもきしている関係者は少なくありません。衆議院支部長にすれば、選挙区区割りや参院選の結果に戦々兢々(きょうきょう)でしょう。
一方、東京都選挙区は、10増10減が2020年国勢調査をもとにした単純計算の通りに行われるとなると、選挙区が五つ増えます。選挙区の「支部長」は衆院選の公認候補予定者の前提となる「椅子」と言われるだけに、誰も座っていないこの「新品の椅子」を得るため、知名度を上げるために参院選への出馬を目指すケースも見受けられます。
自民党は地方組織に支えられたピラミッド構造の組織体です。とりわけ、選挙では地方議員の果たす役割は大きい。その意味で、来春の統一地方選挙が自民党にとっては屋台骨を支える重要な選挙になります。
しかし子細に見ると、参院選では地方議員のうち実際に動き回るのは都道府県議会議員レベルまでがほとんどで、市区町村議会議員は候補者が自分の選挙区に入ったときだけ応援するようなケースがもっぱらです。これに対し、衆院選では市区町村議会議員も総出で応援するケースが少なくありません。
市区町村議会議員にすれば、最大の関心事は、参院選より衆院選。区割り審議の対象となり、選挙区の線引きが見直される都県では、小選挙区の構成自治体が変わるかどうかが最大のポイントです。それは衆院選に直結します。
いずれにせよ、一部の激戦区を除いて、選挙の話題の中心は参院選ではなく衆議院小選挙区区割りと衆院選になりつつあるのが実態です。