表面上の平穏さの裏側に垣間見える衆院選をにらんで参院選を戦うという動き
2022年05月26日
夏の参院選の公示日になるとみられる6月22日まで、いよいよ1カ月を切りました。ただ、依然として世間の関心はほとんどないように見えます。もともと定期的にやってくる参院選は、衆議院の解散という政治的な“事件”があっておこなわれる衆院選と比べて人びとの関心は低いものですが、今回の参院選はことのほか「べた凪(なぎ)」の状態にあるように見えます。
もちろん政党や政治家、筆者が身を置く選挙業界は次第に慌ただしさを増し、メディアも政党の公約やら選挙に関する情報を伝え始めています。今のところ、メディアの世論調査が示す岸田文雄政権の支持率は高く、自民党の支持率も野党を大きく引き離しており、こうした波乱のなさも、参院選が注目を集めない一因だと思われます。
とはいえ、選挙専門家の目で表面上の平穏さの裏側をのぞいてみると、決して平穏ではない政治の実態が見えてきます。より正確に言うならば、その先にある衆院選をにらんで、それぞれのプレイヤーが参院選を戦うという動きが出てきています。
どういうことか? 本稿では今回の参院選をめぐる各党の戦略や課題について、長期的視野から見ていきたいと思います。
まず、自民党です。この参院選を岸田政権が乗り切れば、しばらくの間、国政選挙がない「黄金の3年間」を手に入れることができます。自らの政策を実現するためには、十分すぎるとも言える3年間を有効に使って、実績を積むことができれば、長期政権への展望も広がり、岸田派(宏池会)の勢力拡大にもつながることでしょう。
そんな自民党が今、関心を抱いているのは、衆議院の選挙区区割り改定です。衆議院選挙区画定審議会による選挙区の勧告期限は6月25日。通常国会の閉会は、延長されなければ6月15日。参院選の公示日は6月22日が想定されているので、おそらく勧告は6月15日から22日までの間にあると見られています。
勧告の結果、選挙区が減らされる県では、「支部長争い」が過熱することが予想され、それが参院選にも影響を与えることが否めません。たとえば二階俊博・前幹事長の地元和歌山県や、前回も選挙区の公認争いがあった新潟県などでは、参院選の結果が支部長争いを左右しかねず(参院選で落選して、衆議院に鞍替えされたら、支部長争いがさらに激化します)、やきもきしている関係者は少なくありません。衆議院支部長にすれば、選挙区区割りや参院選の結果に戦々兢々(きょうきょう)でしょう。
一方、東京都選挙区は、10増10減が2020年国勢調査をもとにした単純計算の通りに行われるとなると、選挙区が五つ増えます。選挙区の「支部長」は衆院選の公認候補予定者の前提となる「椅子」と言われるだけに、誰も座っていないこの「新品の椅子」を得るため、知名度を上げるために参院選への出馬を目指すケースも見受けられます。
自民党は地方組織に支えられたピラミッド構造の組織体です。とりわけ、選挙では地方議員の果たす役割は大きい。その意味で、来春の統一地方選挙が自民党にとっては屋台骨を支える重要な選挙になります。
しかし子細に見ると、参院選では地方議員のうち実際に動き回るのは都道府県議会議員レベルまでがほとんどで、市区町村議会議員は候補者が自分の選挙区に入ったときだけ応援するようなケースがもっぱらです。これに対し、衆院選では市区町村議会議員も総出で応援するケースが少なくありません。
市区町村議会議員にすれば、最大の関心事は、参院選より衆院選。区割り審議の対象となり、選挙区の線引きが見直される都県では、小選挙区の構成自治体が変わるかどうかが最大のポイントです。それは衆院選に直結します。
いずれにせよ、一部の激戦区を除いて、選挙の話題の中心は参院選ではなく衆議院小選挙区区割りと衆院選になりつつあるのが実態です。
昨年の衆院選で想定外の敗北を喫し、泉健太新代表のもとでも政党支持率が伸び悩む立憲民主党。なんとか「浮上」のきっかけが欲しいところですが、野党のメディア露出が増える通常国会開会中も、政党支持率が上がる気配はありませんでした。
毎日新聞が「立憲、落選議員「格付け」」と報じたように、総支部長と調整枠とで分けられた元議員、現職や立候補を狙う新人などの間で、足並みを揃えるのが厳しい都道府県も散見されます。かねてからいわれている、党のガバナンスの問題も相まって、足元がおぼつかない状況での参院選となっています。
資金力の問題もあります。参院選は衆院選の小選挙区よりも広い都道府県選挙区で戦うため、候補者個人や陣営の強さよりも、党勢の影響をより強く受けます。広報戦略に必要な資金も格段にかかる。限りのある資金を、広報戦略上、どこに集中投下していくのかが鍵になります。
話題づくりにも課題が残ります。与党と異なり、そもそも野党はメディアの露出が少ない。選挙になれば、人目をひく戦略、露出を促進する「話題づくり」が必要です。立憲民主党は昨秋の衆院選以後、(悪いニュースも多いとはいえ)なにかと露出が多い日本維新の会と比較して、そもそも露出が少ないという声もあります。
以上、「ガバナンス問題」「資金力」「話題づくり」という党全体の問題に目を向けて、適切な対応をしない限り、参院選は厳しい結果に終わると筆者は見ています。福山哲郎・前幹事長の地元である京都選挙区など、象徴的な選挙区で議席を失うことになれば、党勢衰退に直結しかねません。党全体として、「背水の陣」という認識を共有する必要があるでしょう。
さらに、先述した衆院選落選組の取り扱いも整理していかなければ、参院選落選組からの衆院選鞍替え組との競合など、新たな火種を抱える可能性もあります。候補者(や総支部)の活動量をもとに公認決定をするプロセス自体は正しいとはいえ、衆院選をにらんで党の体制を整備しないと、再び「分裂」として痛い目に遭うかもしれません。
前回衆院選における比例の得票数は、立憲民主党の1149万票に対して日本維新の会は805万票。票差にして約344万票、得票率では約6ポイントの差が開いていました。衆院選後は話題づくりでは、維新が立憲を上回っているようにもみえますが、一方で現職議員の失言問題や経歴詐称疑惑問題などもあり、党勢が右肩上がりとは言い難い状況が続いています。
世論調査での政党支持率や比例投票先においても、衆院選直後こそ日本維新の会が立憲民主党を上回っていましたが、参院選が近づくにつれて差が詰まってきているか、すでに立憲民主党が再度「相対的に」上回っている状況です。
「相対的に」というのも、立憲民主党と日本維新の会がともに右肩上がりで支持率を争っているわけではなく、右肩下がりの中で争っているのが実態です。増加する無党派層が選挙になると支持(投票)してくれるという「選挙ボーナス」に期待するのではなく、通常国会以降、両政党に対する期待が着実に薄れているという事実は、厳粛に受け止めるべきでしょう。
ただ、日本維新の会の参院選に向けた戦略には、興味深い点がいくつかあります。
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