「政党」としての公明党~一学究の徒の政治学研究【5】
2022年05月27日
「論座」では「『政党』としての公明党~一学究の徒の政治学研究」を連載しています。1999年に自民党と連立を組んで以来、民主党政権の期間をのぞいてずっと与党だったこの党はどういう政党なのか、実証的に研究します。5回目は議員への教育に関して、公明党と同じく組織政党である共産党について論じます。(論座編集部)
◇連載 「政党」としての公明党~一学究の徒の政治学研究は「こちら」からお読みいただけます。
全国政党にとって、各地にいる地方議員をまとめ、党内の一体性やガバナンスを維持するためには、何が重要な要素であるのか。日常的な党内コミュニケーション(第3回「融合する公明党の国会議員と地方議員~党運営のDX化が支える議員活動」参照)や意思決定(第4回「公明党は地方議員の声をどう聞いているのか~中央と地方統合の場・中央幹事会の実相」参照)のあり方、底流にある積み上げてきた歴史や醸成された党内文化だけでなく、議員教育(研修)も重要な役割を果たす。しかし、議員教育(研修)の実態については、政治学の研究を参照しても、あまり明らかにはなっていない。
そこで本稿では、公明党東京都本部と日本共産党京都府委員会の例をもとに、前半で公明党、後半で同じく組織政党である共産党の議員教育について検討する。詳しくは後述するが、両党にとって東京と京都は象徴的な地域だからだ。
組織政党であっても、都道府県本部(公明)や都道府県委員会(共産)ごとに、活動にバリエーションがある。地方組織は、単に党本部(公明)や中央委員会(共産)からの「方針に従ってそのまま動く」という存在ではなく、地域の実態にあわせた創意工夫も展開される。
特に日本共産党には、第22回党大会(2000年11月24日)で改定された党規約第17条に、「地方的な性質の問題については、その地方の実情に応じて、都道府県機関と地方機関で自治的に処理する」との規定がある。この「自治的」という文言は、党内ガバナンス(中央・地方関係)でも相当に重みがある。
公明党の「初当選した国会議員の教育については、党本部が主導して特別な研修プログラムを準備し、実施するわけではない。各々の新人議員は、国会のそれぞれの場において先輩議員から学ぶことになる。特定の先輩国会議員が新人国会議員の面倒をみる決まりはないが、地域や都道府県単位での国会議員同士のつながりは強いようである」(岡野裕元「公明党の立体的政策形成――「ヨコ」関係の軸となる国会議員・地方議員・事務局との協働ネットワーク――」 奥健太郎・黒澤良[編著]『官邸主導と自民党政治――小泉政権の史的検証』吉田書店、2022年、p.454)。
一方、地方議員教育に対しては、「各都道府県本部単位で新人議員研修会が必ず行われる」(同書、p.455)。「県本部の幹事長や経験のあるベテランの地方議員が講師となり、新人議員に対し、議員活動(例、具体的な議員としての動き、公明党の議員としての姿)の〝イロハ〟について日常活動まで丁寧に教える」(同書、p.455)。
また、3回目の記事「融合する公明党の国会議員と地方議員~党運営のDX化が支える議員活動」で取り上げた党内イントラについては、実は世代間での利用状況に差がある(同書、p.454)。そのため、党本部主催でIT講習会を実施し、議員のスキルアップを行っている(同書、p.454)。
公明党地方議員のうち、10分の1以上が東京都内選出である。実際、公明党は都議選に国政選挙並みの力を入れている。そこで、東京都における公明党の地方議員教育について、吉田富雄・公明党東京方面・都本部事務局長に議員教育の実態についてお聞きした(2022年3月30日インタビュー(筆者取材)以下同じ)。
例えば③については、具体的にどの活動に参加しなければならないという決まりはない。支部会の活動は、様々な会合の開催、(署名)運動やアンケート活動などだ。支部会活動の頻度について、特別の定めはなく、様々である。活動が活発な支部では毎月活動しているが、そうでない支部は年4回(地方議会の各定例会が終わった後)だ。支部会独自の活動として、清掃活動や施設への慰問なども行われている。
党員の学習の機会は、④にあるように『公明新聞』の購読が中心だという。とはいえ、なかには『公明新聞』を購読していない党員も存在するという。
『公明新聞』は、「支部会のために」と「党員講座」という記事を連載、学習の機会も設けている。例えば、「党員講座」では、「伝えたい公明党の実績」、「特集『私も読んでいます公明新聞』」、「知っておきたい カタカナ用語&アルファベット略語」、党公式チャンネル動画、都議選などに関する記事が並んでいる。
「支部会のために」では、その時々の政局や政治課題に関連する記事が掲載されている。「公明党の訴えが社会を変えた/主な実績から」(2021年9月12日)、「経済再生へ政策断行/公明、提言の実現に総力」(2021年11月14日)、「公明の主張大きく反映/21年度補正予算、22年度予算案・税制改正から」(2022年1月16日)といった具合である。
公明党の東京都内の地方議員を対象とした研修会は、夏季議員研修会、新人議員研修会、女性議員研修会の3種類あり、定期的に開催されている。開催主体は東京都本部であり、各研修会とも1日で終わる。夏季議員研修会が毎年8月のお盆明け(議員数が多いため、場所は外部会場)、新人議員研修会が統一地方選後の5、6月(4年に1回。場所は党本部会議室や公明会館)、女性議員研修会は適宜に開催される。
女性政策については、例えば2020年9月5日、公明会館で大学教授を招き、少子化の課題とコロナ後の家族などをテーマとした講演が行われた。東京都本部女性局勉強会として、2021年3月28日にはオンライン形式で医師を招き、高齢者肺炎球菌ワクチンについて学んだ。
夏季議員研修会でも、外部講師を招いた勉強会を行う。2020年は、医師を招き、コロナについて専門的な学習を行った。2021年はコロナの影響で夏季議員研修会が実施できず、オンライン形式で議員総会という形となった。女性議員研修会では、都予算の勉強会も実施する。
東京都本部では、地方議員の新人議員研修会、夏季議員研修会、女性議員研修会以外にも、党都本部政策局として「都の来年度予算案」の説明会、党都青年局としてアンケート調査を実施する際の学習会などを開催している。
IT講習会については、東京の場合、党本部IT宣伝統括部が各区市ごとに合同開催などの形態で「スキルアップ研修および意見交換会」として開催する。
公明党には、全党的な新人の地方議員教育のテキストとして、「議員研修テキスト」がある。党組織委員会が担当し、統一地方選後に改訂する。60ページ以上の細かく充実した内容で、立党精神、法律の専門的で技術的な話、その時代状況に応じた話などが扱われている。
「よその党もそうかもしれませんけども、うちの場合は、多様な経歴や職業的バックボーンを持つ人が議員になるケースが多いので、議員研修できちんと学習しないと、という部分がある。かなり掘り下げてやっています」(同事務局長)。
「議員研修テキスト」以外に、東京都本部独自作成の「遊説ガイドテキスト」(適宜改訂する)も作られている。初めて遊説する人のために、それこそ手取り足取り、発声の方法も含めて細かく記載されている(マスコミのアナウンサーが学習するような内容)。新人議員研修会では、遊説研修も行っており、元アナウンサーも招いた練習や指導もある。
なお、『月刊公明』(公明党の理論誌)は全議員に配布され、自己研鑽の教材として扱われている。
公明党東京都本部が2019年地方統一選挙後に開催した新人議員研修会(開催日2019年6月1日)について紹介しよう。
同研修会の式次第によると、①立党精神について、②講演「地方自治並びに財政について」、③議員の日常活動について、④質疑応答&挨拶、⑤事務局から連絡事項、⑥活動報告――が行われており、相当に充実した内容となっている。
①の立党精神は「大衆とともに」であり、1962年の公明政治連盟(公明党の前身)結成当時の頃からの話を学ぶ。先輩議員が講師を務め(例、市川雄一・元公明党書記長、藤井富雄・元公明代表など)、テキストにも山口那津男代表の話が掲載されている。夏季議員研修会でも扱われることがあるという。
ただ、時代とともに、結党期の公明政治連盟・公明党を知る者が少なくなってきているのが実情で、世代間の継承をどう進めるかが課題であると考えられる。ちなみに、公明グラフ別冊の『Komei handbook 2022』(公明党機関紙委員会、2022年)には、「『大衆とともに』立党精神60年 原点から未来に挑む」という特集が組まれ、「現場第一主義が信条、政治動かす『総点検運動』」、「『大衆福祉』の実現へ 医療、介護などを拡充」、「市民相談は累計4726万件超、課題解決まで徹して伴走」といったことが書かれている(同書、pp.4-7)。
②の講演では、税務署長を招き、税制などを学んだ。公明党は地方でも与党であるため、予算の組み立て方、どのように予算が成り立っているのかなどを技術的に学ぶ。「野党みたいに、ずっと批判していればよいわけではない」という(同事務局長)。
実際、「公明党の野党時代と議員教育の内容は変わりました。財政のこと、予算の組み立てなどは、どちらかと言えば野党時代はそれほど重視していませんでした。政府の姿勢に対する追及の仕方といった話であったのが、与党として受ける側というようになっています」という(同事務局長)。
③の議員の日常活動として、公明党には議員活動三項目(①支持拡大の取組、②市民相談活動、③機関紙の拡大)といわれるものである。これについては、座学でというよりは、各地方議会の公明党議員から実態を学ぶことの方が多いようである。
④の質疑応答では、新人議員の質問に高木陽介・東京都本部代表(衆議院議員)が答える。また、東京都本部代表として高木議員が挨拶を行う。
⑤は、細かい事務連絡であり、詳細を割愛する。
⑥は、現職の先輩地方議員が体験談を語る。具体的には、特筆されるような活動を行った者、得票を大きく増加させた者、日常的な広報宣伝活動(SNSの活用等)を行っている者などに語ってもらい、男性議員と女性議員それぞれに割り当てる。
以上のように、公明党の地方議員教育は充実しているが、実はそれぞれの議会内で学習する機会の方が多いという。各地域で課題が異なるためである。たしかに、特別区、多摩地区、島しょでは、地域の社会・経済状況が大きく異なっている。そのため、東京都本部実施の研修では、大まかな内容になる部分もあるという。
なお、筆者の近刊予定論文(岡野裕元「日本共産党のマルチレベルにおける党内ガバナンス——候補者リクルート、地方議員教育、補佐・支援体制にも着目して——」学習院大学大学院政治学研究科『政治学論集』第35号)においても、日本共産党中央委員会と京都府委員会での党内ガバナンス、地方議員教育や候補者リクルートなどを詳しく扱っている。
共産党は、京都市内で1学区内に4支部あるような地域も存在する。ちなみに、都道府県別での共産党得票率(2019年参議院選比例区)は、京都府(17.50%)、高知県(15.12%)、北海道(11.58%)、東京都(11.30%)、長野県(11.09%)が上位に並んでいる。
京都の共産党を振り返ると、革新知事である蜷川虎三知事(1950年~1978年)のもとで7期28年、知事与党として府政を支えている。また、中選挙区時代に定数5の衆議院旧京都1区での複数人当選、衆議院京都3区(定数1)や参議院京都選挙区(定数2)での当選実績もある。
京都府内の地方議会の共産党議席獲得状況(2021年7月1日現在)を確認すると、5分の1が同党議員である。また、京都市議会(定数67)では第2党(18議席)で、第1党の自民党(21議席)との議席差はわずか3(2022年5月18日現在)。府内の全市町村議会で共産党議員がいないところは皆無である。府議会(定数60)も、共産党は第2党(12議席)である。
全国の党員が学ぶカリキュラムは、①党綱領、②科学的社会主義、③党史、④規約と党建設――の「4科目」だ。
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