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組織政党の公明党と日本共産党は議員教育でどのように創意工夫しているのか?

「政党」としての公明党~一学究の徒の政治学研究【5】

岡野裕元 一般財団法人行政管理研究センター研究員

定期的な研修会に説明会、勉強会も

 公明党の東京都内の地方議員を対象とした研修会は、夏季議員研修会、新人議員研修会、女性議員研修会の3種類あり、定期的に開催されている。開催主体は東京都本部であり、各研修会とも1日で終わる。夏季議員研修会が毎年8月のお盆明け(議員数が多いため、場所は外部会場)、新人議員研修会が統一地方選後の5、6月(4年に1回。場所は党本部会議室や公明会館)、女性議員研修会は適宜に開催される。

 女性政策については、例えば2020年9月5日、公明会館で大学教授を招き、少子化の課題とコロナ後の家族などをテーマとした講演が行われた。東京都本部女性局勉強会として、2021年3月28日にはオンライン形式で医師を招き、高齢者肺炎球菌ワクチンについて学んだ。

 夏季議員研修会でも、外部講師を招いた勉強会を行う。2020年は、医師を招き、コロナについて専門的な学習を行った。2021年はコロナの影響で夏季議員研修会が実施できず、オンライン形式で議員総会という形となった。女性議員研修会では、都予算の勉強会も実施する。

 東京都本部では、地方議員の新人議員研修会、夏季議員研修会、女性議員研修会以外にも、党都本部政策局として「都の来年度予算案」の説明会、党都青年局としてアンケート調査を実施する際の学習会などを開催している。

 IT講習会については、東京の場合、党本部IT宣伝統括部が各区市ごとに合同開催などの形態で「スキルアップ研修および意見交換会」として開催する。

充実した内容のテキスト

 公明党には、全党的な新人の地方議員教育のテキストとして、「議員研修テキスト」がある。党組織委員会が担当し、統一地方選後に改訂する。60ページ以上の細かく充実した内容で、立党精神、法律の専門的で技術的な話、その時代状況に応じた話などが扱われている。

 「よその党もそうかもしれませんけども、うちの場合は、多様な経歴や職業的バックボーンを持つ人が議員になるケースが多いので、議員研修できちんと学習しないと、という部分がある。かなり掘り下げてやっています」(同事務局長)。

 「議員研修テキスト」以外に、東京都本部独自作成の「遊説ガイドテキスト」(適宜改訂する)も作られている。初めて遊説する人のために、それこそ手取り足取り、発声の方法も含めて細かく記載されている(マスコミのアナウンサーが学習するような内容)。新人議員研修会では、遊説研修も行っており、元アナウンサーも招いた練習や指導もある。

 なお、『月刊公明』(公明党の理論誌)は全議員に配布され、自己研鑽の教材として扱われている。

事例研究~東京本部の新人議員研修会

 公明党東京都本部が2019年地方統一選挙後に開催した新人議員研修会(開催日2019年6月1日)について紹介しよう。

 同研修会の式次第によると、①立党精神について、②講演「地方自治並びに財政について」、③議員の日常活動について、④質疑応答&挨拶、⑤事務局から連絡事項、⑥活動報告――が行われており、相当に充実した内容となっている。

 ①の立党精神は「大衆とともに」であり、1962年の公明政治連盟(公明党の前身)結成当時の頃からの話を学ぶ。先輩議員が講師を務め(例、市川雄一・元公明党書記長、藤井富雄・元公明代表など)、テキストにも山口那津男代表の話が掲載されている。夏季議員研修会でも扱われることがあるという。

 ただ、時代とともに、結党期の公明政治連盟・公明党を知る者が少なくなってきているのが実情で、世代間の継承をどう進めるかが課題であると考えられる。ちなみに、公明グラフ別冊の『Komei handbook 2022』(公明党機関紙委員会、2022年)には、「『大衆とともに』立党精神60年 原点から未来に挑む」という特集が組まれ、「現場第一主義が信条、政治動かす『総点検運動』」、「『大衆福祉』の実現へ 医療、介護などを拡充」、「市民相談は累計4726万件超、課題解決まで徹して伴走」といったことが書かれている(同書、pp.4-7)。

拡大創価学会を支持母体とする公明政治連盟が国会議員を目指す公明党を発足。結党大会には全国都道府県代表ら約1万5千人が集まった=1964年11月17日、東京都墨田区両国の日本大学講堂

 ②の講演では、税務署長を招き、税制などを学んだ。公明党は地方でも与党であるため、予算の組み立て方、どのように予算が成り立っているのかなどを技術的に学ぶ。「野党みたいに、ずっと批判していればよいわけではない」という(同事務局長)。

 実際、「公明党の野党時代と議員教育の内容は変わりました。財政のこと、予算の組み立てなどは、どちらかと言えば野党時代はそれほど重視していませんでした。政府の姿勢に対する追及の仕方といった話であったのが、与党として受ける側というようになっています」という(同事務局長)。

 ③の議員の日常活動として、公明党には議員活動三項目(①支持拡大の取組、②市民相談活動、③機関紙の拡大)といわれるものである。これについては、座学でというよりは、各地方議会の公明党議員から実態を学ぶことの方が多いようである。

 ④の質疑応答では、新人議員の質問に高木陽介・東京都本部代表(衆議院議員)が答える。また、東京都本部代表として高木議員が挨拶を行う。

 ⑤は、細かい事務連絡であり、詳細を割愛する。

 ⑥は、現職の先輩地方議員が体験談を語る。具体的には、特筆されるような活動を行った者、得票を大きく増加させた者、日常的な広報宣伝活動(SNSの活用等)を行っている者などに語ってもらい、男性議員と女性議員それぞれに割り当てる。

 以上のように、公明党の地方議員教育は充実しているが、実はそれぞれの議会内で学習する機会の方が多いという。各地域で課題が異なるためである。たしかに、特別区、多摩地区、島しょでは、地域の社会・経済状況が大きく異なっている。そのため、東京都本部実施の研修では、大まかな内容になる部分もあるという。


筆者

岡野裕元

岡野裕元(おかの・ひろもと) 一般財団法人行政管理研究センター研究員

1989年千葉県佐倉市出身。学習院大学法学部卒業。学習院大学大学院政治学研究科政治学専攻博士後期課程修了、博士(政治学)。現在、一般財団法人行政管理研究センター研究員のほか、報道番組の司会者の政治アドバイザーも務める。元青山学院大学文学部・学習院大学法学部非常勤講師。専門は、地方政治、政治学。著書に、『都道府県議会選挙の研究』(成文堂)、『官邸主導と自民党政治――小泉政権の史的検証』(共著、吉田書店)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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