「政党」としての公明党~一学究の徒の政治学研究【6】
2022年05月30日
「論座」では「『政党』としての公明党~一学究の徒の政治学研究」を連載しています。1999年に自民党と連立を組んで以来、民主党政権の期間をのぞいてずっと与党だったこの党はどういう政党なのか、実証的に研究します。6回目は議員教育に関して、組織政党の公明党とは異なる議員政党である立憲民主党について論じます。(論座編集部)
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本稿は、前回「組織政党の公明党と日本共産党は議員教育でどのように創意工夫しているのか?」に引き続き、議員教育をテーマとして各党を比較する。前回は公明党東京都本部と日本共産党京都府委員会の事例を扱ったが、今回は議員政党の立憲民主党を対象とする。
「政調会長と地方の政策責任者、地方議員のオンラインでの直接対話は結構やっていますよ。政調では、1期生を政調会長補佐に任命して、毎週のようにいろいろなことを語り合っているし、女性候補向けの政策研修会を開催したし、そういう努力は鋭意行っています」
立憲民主党の小川淳也・政務調査会長は、政調内での取り組みの意義をこう語る(2022年4月28日インタビュー・筆者取材)。
野党第1党の立憲民主党の議員教育は、どのように展開されているのだろうか。各党間の特徴を抽出して比較するため、立憲民主党について小川淳也・政務調査会長(衆議院議員)、大滝敬貴氏(党本部総務局部長)(2022年4月14、18日インタビュー・筆者取材)に詳細をお聞きした。
立憲民主党の議員教育(研修会)は、新人国会議員(「新人議員研修会(旧質問講習会)」という名称の研修会)、地方議員(自治体議員ネットワーク)、女性地方議員(女性議員ネットワーク)、若い議員(青年局)を対象としたものがある。また、その時々に応じたテーマ別の研修会(例、ジェンダー平等)もある。
新人の国会議員や地方議員、若い議員を対象とした研修会は、旧民主党時代から行われている。野党第1党で公明党や共産党よりも新人議員数が多いため、新人教育にも力が入る。
2021年10月31日の衆院選では16人の新人が当選(2021年11月16日現在)(シュハリ・イニシアティブ[編]『国会便覧』(令和3年12月臨時版)シュハリ・イニシアティブ、2021年、p.360)。同年12月16日の新人議員研修会では、衆議院本館で約1時間半かけて、馬淵澄夫国対委員長、小川政調会長、国対役員、政調役員が講師となり、国会の業務、国会質問の準備などをテーマに講義が実施された(国会対策委員会、政務調査会の合同主催)。
また、2022年4月7日には、玄葉光一郎・衆議院議員が講師となって、当選1回、2回の議員を対象とした研修会を実施。国会質問の準備・作成・追及や日常活動などについて、ケーススタディと質疑を扱った。
議員の経歴は様々で、永田町に土地勘のない者(国会議員秘書を経験していないなど)も当然いる。大滝部長は、次のように語る。
議員の教育は半分以上がOJTみたいなものです。学校のような勉強会形式でスケジュールを決めて、というわけにはいきません。選挙が終わったばかりでは新人を対象に、世の中で重要なテーマが出てきたときにはそのテーマについて、政務調査会では、日常的な部会が一種のOJTという形になる。広い意味では日常的にあちこちでやっています。
特に野党の場合は、国会は立法機関であるとともに、行政監視機能が重要です。行政監視機能は、本会議や委員会での様々な質疑で行われるわけですから、役所の使い方、院の調査局や法制局の使い方も含めて勉強会でやります。実際に国会が始まったら、実践的に国会質疑をどうやるか、日常的な政治活動をどうやるかということをやります。
大滝部長によると、2022年は4月14日までに新人議員研修会を6回実施したという。野田佳彦、岡田克也、玄葉光一郎、安住淳、長妻昭といった議員が講師を担当した。いずれも、旧民主党時代に政府や党の中枢を担ったベテラン勢だ(旧民主党政権時代の遺産を活用している)。
党職員(例、政調、国対、選対、総務担当の職員など)は日常的に補佐活動を行う。研修会で講師を務めるのではなく、職員が知っていることを教えたり、相談にのったりすることが中心になる。
立憲民主党が新人国会議員の教育に力を入れるのはなぜか。それは、①与党事前審査との質的な差、②国会の質問機会の与党との差、③質問時間の与野党配分――という三つの事情から説明することが可能である。以下、説明する。
まず、与党事前審査との質的差についてである。
与党の自民党と公明党の場合、党内・各府省が一体となった与党事前審査制の過程で詳細な調整を行い、与党内で合意した後、閣議決定に至る。
公明党の竹谷とし子・参議院議員によると、公明党の「部会における一般的な法案の審議例としては、「『①法案について省庁から事前に概要について説明を受け、論点整理、②論点にそって関係者と意見交換、③論点や関係者の意見を踏まえ、省庁と意見交換、④省庁がまとめた法律要綱案について説明を受け、さらに意見交換(党の意見が反映されているかチェック)、⑤法案(条文)審査、⑥部会了承、⑦政調部会長了承』という流れで行われている」といい、かなり詳細に展開されている(岡野裕元「公明党の立体的政策形成――「ヨコ」関係の軸となる国会議員・地方議員・事務局との協働ネットワーク――」奥健太郎・黒澤良[編著]『官邸主導と自民党政治――小泉政権の史的検証』吉田書店、2022年、p.464)。
読売新聞によると、自民党の下村博文・衆議院議員も自民党の「『部会で鍛え上げられ、鋭い質問ができるようになる。部会は人材育成の役割も担っている』と強調」している(「『質問力』向上余裕なく」『読売新聞』2022年4月14日朝刊)。与党で部会が果たす役割は、単なる党内調整のみならず、議員教育の上でも依然として重要だ。
立憲民主党の法案審査は、政務調査会(部会→政調審議会)で行われる。基本的なやり方は、野党・旧民主党時代とほとんど変わっていないようである。
政府側から「国会へ法案を提出したので説明させてほしい」という話がくる。国対は、審議日程との関係があるため、審議の見通しがついたら政府側に説明の了解を出す(広い意味での「吊るし」)。国対と政調が連携し、党内審査が開始する。
部会では、説明と質疑が行われ、法案の内容次第では1回で終わるものもあるが、重要法案については、何度も党内議論をし、有識者や関係団体からのヒアリングも行われることもある。部会長や部会内の役員会は議論の方向性を決め、部会で最終的に賛否を決める。
通常、部会では多数決をとることがあまりなく、部会長に一任という対応も多いという。1年生議員にとって勉強になる機会は、有識者・関係団体からのヒアリング▽先輩議員の議論を聞く▽国会の所属する各委員会の質疑を聞く、といったところだ。
部会を通過した法案は、政務調査審議会(毎週木曜日に実施、政調役員と部会長が出席)にかけられ、部会長が報告。それに対し、了承される(時々、「待った」がかけられることもある)。法案審査は、政調審議会の段階で正式決定される。その後、執行役員会(毎週月曜日)、常任幹事会(隔週火曜日が多い)へと報告される。ただし、党規約第12条3項には、「執行役員会は、政策に関して特に重要と判断する場合、その審議決定を常任幹事会に要請することができる。この場合、常任幹事会の決定をもって政務調査審議会の決定に代える。」との規定もある。
「政策の議論は行っていますし、国会で法案提出も行っていますし、日々の積み重ねです」と小川政調会長は語る(2022年4月28日インタビュー・筆者取材)。
次に、二つ目の国会の質問機会の差について。これは、会派単位で活動する国会の仕組みとも関係する。具体的には、大政党と中小政党の間の差である。
中小政党の公明党の場合、太田昭宏・前代表が次のように証言する(岡野裕元「公明党の立体的政策形成――「ヨコ」関係の軸となる国会議員・地方議員・事務局との協働ネットワーク――」奥健太郎・黒澤良[編著]『官邸主導と自民党政治――小泉政権の史的検証』吉田書店、2022年、pp.462-463)。
国会の委員会でも議員数が少ないから、一年生から委員会の理事や党の部会長を務める。これは自民党とは全く違うことですね。通常国会を二~三回経て、初めて国会のことがわかるようになると思う。地元の要望や議員の生活リズムの面についても、同様だと思う。公明党議員の場合は、一年生から責任ある立場に就くから、議員数の多い自民党よりも早く経験が積めると思う。国会での質問回数も多いし、恵まれていると思います。
中小政党であることのメリットは、与党・公明党だけでなく、野党・日本共産党も同様に享受している。
日本共産党では、国会議員秘書の役割が他党よりも大きく、国会議員と秘書が協力しながら質問づくりを進める特徴がある。(筆者近刊予定論文〈岡野裕元「日本共産党のマルチレベルにおける党内ガバナンス——候補者リクルート、地方議員教育、補佐・支援体制にも着目して——」学習院大学大学院政治学研究科『政治学論集』第35号〉)。例えば、田村智子・副委員長・政策委員長(参議院議員)の事例でも、国会開会中は秘書と協力しながら質問作成に勤しんでいた(同上)。
ちなみに、第208回国会の衆議院総務委員会(40人)の各会派所属人数は、自民23、立民8、維新4、公明3、国民1、共産1である(衆議院HP「委員会名簿 総務委員会」令和4年2月2日現在(参照 2022年4月16日閲覧)。大政党の自民党の場合、計算上、議員1人当たりの質問回数に制約が生じることになる。
立憲民主党では、辻元清美・国対委員長時代、新人議員に場数を踏ませる議員教育を行った。具体的には、1年生議員を本会議の代表質問に登壇させ、原稿も当該議員に書かせる(辻元清美『国対委員長』集英社、2020年、pp.57-58)。予算委員会にも1年生を抜擢して質問させ、委員会の席にも順番で座らせた(同書、pp.60-61)。
2021年10月の総選挙で躍進した日本維新の会が、令和4年度予算案を扱う予算委員会に新人議員を積極的に投入したのも、新人議員に場数をふませる戦略という意味合いがある。新人議員にとっては、予算委員会で質問に立つことで、地元向けの国政報告会や後援会通信などで宣伝できるメリットもある。
最後に、三つ目の質問時間の与野党配分の影響についてである。
質問時間の与野党の配分は、旧民主党が政権交代するまで、与野党の比率が「4:6」であった。政権交代後、「政府・与党一元化における政策の決定について」(2009年9月18日)の方針もあり、当時の小沢一郎幹事長が与党議員(民主党)の国会質問時間を減らし、「2:8」となった。自公政権に政権が交代した後も、この割当時間は残り続けた。
2017年、国会の議席状況(「一強多弱」)も考慮に入れ、各委員会での野党の持ち時間が減少した。例えば、衆議院文部科学委員会での与党と野党の比率は、「2:8」から「1:2」に変動した(「質問時間配分、与野党『1対2』 衆院文科委きょう開催」日本経済新聞2017年11月15日、2022年4月16日閲覧)。衆議院予算委員会は「5:9」、衆議院厚生労働委員会は「3:7」となった(「質問時間『5対9』で合意 衆院予算委で与野党」日本経済新聞2017年11月22日、2022年4月16日閲覧)。
与党の国会質問の時間が増加したため、安倍晋三政権下では野党の追及の時間は減少した。また、野党の臨時国会開会要求に、与党はなかなか応じなかった。とはいえ、与党から見ると、仮に臨時国会を開会したとしても扱う法案はあるのか、という点は考える必要がある。一方で、省庁が法案提出数を自己抑制しているという次の実態もある(千正康裕『ブラック霞が関』新潮社、2020年、p.154)。
法律改正にしても毎年の国会の審議時間というリソースは有限なので、好きなだけ法案を国会に提出できるわけではない。厚労省は霞が関の中でも毎年最も多くの法案を国会に提出する官庁の一つだが、それでも通常国会に提出できる法案の数は、多くても10本に満たない。たくさん提出しても審議できないからだ。当然、必要性や緊急性の高いものを優先して提出することになる。
2022年4月現在、予算員会も「3:7」である。「テレビが入らないときや一般質疑の場合だともう少し野党の方が多い。その分、テレビ入りの質疑だと与党が要求するので、『3:7』よりも与党の時間が多くなりつつある。委員会ごとで質問時間の割当が異なり、それぞれ慣例で決まっていく」(大滝部長)。
岸田文雄首相での国会答弁のスタイルは、「野党が質問で問題提起したことは明確に答えず、提起された問題の対応方針をその後の与党質問で打ち出す——。こうした首相答弁は定番になりつつある」と指摘されている(「同じ質問なのに…野党に答えず、与党で一変 首相答弁 見えてきた傾向」『朝日新聞』2022年2月16日朝刊)。
自民党議員へのいわゆる「お土産答弁」が増えたことは、官邸主導下でも党に気を遣う岸田首相の政治手法の特徴が出ているのではないか。自民党内には、当選回数別で見ると当時の「安倍チルドレン」の数も多く、派閥も清和政策研究会(安倍派)が最大である。
野党第1党の立憲民主党は、以上の三つの理由により、相対的に不利な状況に置かれている。
「一強多弱」の国会状況では、事前に野党各党で質問調整をしない限り、質問内容が似たものになってしまうおそれがある。充実した質問にならない。野党間の足並みを揃えることは重要だ。
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