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ウクライナのために何ができるか? 二つの「新作」絵画に込めた細川護熙氏の怒りと祈り

東京でチャリティー展覧会を開催。募金活動も全国で展開。元首相はいま何を思うのか

吉田貴文 論座編集部

「百鬼蛮行-私のゲルニカ」に込めた願い

――そのポーラミュージアムで開く「明日への祈り」には、新作、旧作とりまぜて様々な作品が展示されますね。

細川 ええ。作品の中には、ずいぶん前につくったウクライナの国花のひまわりを描いた焼き物や、ひまわりの油絵もあります。漆でつくった聖徳太子稚児太子像も出しました。聖徳太子は平和を望むメッセージになると考えたからです。

 3・11の直後に描いた「鎮魂」というタイトルの絵も出展しました。3・11は天災ですが、人災のウクライナで亡くなった人を想って描いた二つの新作「百鬼蛮行-私のゲルニカ」「神よ憐れみ給え-私のミゼレーレ」と並べて、思いもかけない災害で亡くなった方への思いも込めています。

拡大細川護熙・元首相=2022年5月27日、東京都品川区
――様々な鬼が描かれている「百鬼蛮行-私のゲルニカ」は迫力があります。

細川 ピカソの名作「ゲルニカ」は、スペイン内戦の際、ナチス・ドイツの侵攻で大殺戮がおこなわれたスペイン・バスク地方の小さな町のことをイメージし、戦争に対する憎悪と平和への祈りを込めて描かれたものですが、今のウクライナはそれ以上とも言うべき悲惨な状態です。ロシア軍の侵攻への怒りと、一日も早い収束への願いを込めて、「私のゲルニカ」を描こうとすぐに思い立ちました。

 瓦礫と化した街の絵を描くのは普通の発想でしょうが、ひとひねりして、ウクライナにあるチェルノブイリ原発の石棺をモチーフにして、そこに百鬼を閉じ込めました。

――日本には百鬼夜行図の伝統がありますが、そこからの発想ですね。

細川 ええ。ロシアの最高指導者に操られた兵士たちが百鬼と化し、ウクライナで執拗に蛮行を重ね、たくさんの市民を殺戮(さつりく)している。チェルノブイリの原発事故の際、原発を石棺で覆ったように、蛮行を働く百鬼とロシアにいる大魔王を石棺に封じ込めたのです。

――プーチン大統領もいるのですね。

細川 絵の上部の中央に首つりになっています。手前の黄土色の部分は小麦畑、上は青い空、つまりウクライナの国旗をイメージしています。ウクライナに再び平和で静かな大地と空が戻ってくるようにという願いを込めています。

金箔にクレヨンで描いた「神よ憐れみ給え-私のミゼレーレ」

――どれくらいで完成したのですか。

細川 侵攻が始まった2月24日の直後に着手して一気に描きました。後で描き足したところもあるので、それを入れると2週間ぐらいで完成したでしょうか。描き終えた後、もう一つ何か制作できないかという話があり、次はルオーの代表作「ミゼレーレ」に基づく「神よ憐れみ給え-私のミゼレーレ」をと考えました。

 ルオーの「ミゼレーレ」は、第一次大戦の勃発を契機に、不正義な社会の醜さや戦争への怒りを描いた連作です。ウクライナの悲劇的な状況を見て感じる想いは、ルオーの「神よ憐れみ給え」という叫びと同じものだとし、その祈りを東方教会の聖画図(イコン)のイメージで描きました。

――金色の下地の上に黒を基調に描かれた不思議な絵です。

細川 イコンをイメージしているので金箔の上に描くことにしました。「百鬼蛮行」は油絵ですが、油絵の具だと乾くまで時間がかかる。ポーラ美術館での展覧会の日時がすでに決まっていて、乾くまで待っていたら時間がないので、クレヨンで描きました。金箔の上にクレヨンで描くのは結構大変で、かなり力を入れないと描けない。でも、結果的に不思議な感じに仕上がりました。

 絵の上部には戦火を浴びるキーウのテレビ塔や街。その前に亡くなった人たちの十字架。手前には生き延びた人々や親子、そんな時でも心をいやし、慰め、心の糧なってくれるクラウンやバレリーナ、音楽家の人たちを描きました。すべての人々の平和の願いが神に届かんことを祈る、「神よ憐れみ給え」というメッセージを込めています。

全国でチャリティー展覧会を

――ポーラミュージアムの「明日への祈り」の開催は早い時期に決まったのですね。

細川 ウクライナ侵攻後すぐにポーラの鈴木郷史社長にお電話をして、「急で申し訳ないですが、美術館はあいていないですか」とお尋ねしたら、「なんとか、あけます」と言っていただけて、6月4日から1週間、あけていただくことになったんです。時間がないので、ちょっと忙しくなりましたが……。

――ポーラミュージアムの展覧会の後も、チャリティーは続けるのですか。

細川 近いうちに東京美術倶楽部で入札会をしていただく予定です。秋には京都の思文閣美術館でも展覧会をします。熊本でもやりたいのですが、調整中です。

――これまで長年、制作されてきた作品を、ウクライナ支援のために出されるわけですね。

細川 そうです。新作の「私のゲルニカ」と「私のミゼレーレ」は全国で披露したいのですぐには売りませんが、その他は絵画でも工芸品でも。益金をウクライナ支援のために使ってもらいたいと考えています。お寺の襖絵を描くためにつくった下絵も、けっこう丁寧に書いているので、落款を押してサインをすれば作品になるんですよ。

拡大襖絵を描く(撮影:齋藤芳弘)

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筆者

吉田貴文

吉田貴文(よしだ・たかふみ) 論座編集部

1962年生まれ。86年、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸、自民党、外務省、防衛庁(現防衛省)、環境庁(現環境省)などを担当。世論調査部、オピニオン編集部などを経て、2018年から20年まで論座編集長。著書に『世論調査と政治ー数字はどこまで信用できるのか』、『平成史への証言ー政治はなぜ劣化したのか』(田中秀征・元経企庁長官インタビュー)、共著に『政治を考えたいあなたへの80問ー3000人世論調査から』など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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