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ウクライナ侵攻とプーチンの複雑な頭の中~“若造”マクロンは仲介役たり得るか

冷戦後の新たな国際秩序構築の不在も侵攻の遠因? 20世紀のままのプーチンの世界観

山口 昌子 在仏ジャーナリスト

冷戦終焉は民主主義陣営の勝利ではない

 フランスのロシア問題の第一人者で歴史家のエレーヌ・カレール=ダンコースが、フランスの民放テレビ『TV5』で興味ある発言をしている。

 彼女はプーチンが大統領に就任(2000年5月)した直後、クレムリンでプーチンと会談している。「モスクワのフランス大使館を通して正式の要請があった」という。フランスの権威あるアカデミー・フランセーズの終生書記長でもある彼女に礼を尽くしたわけだ。

 カレール=ダンコースは1929年、パリ生まれ。父親は独系グルジア人(現ジョージア)、母親はロシア人だ。元KGBのプーチンが、こうしたロシアとの強い繋がりに加
え、『崩壊したソ連帝国』『レーニンとは何だったのか』など、冷戦時代から多数の優れた著作を発表している彼女に興味を持ったのは当然だ。

 プーチンの第一印象について彼女は、「権力の座に就いた直後で西欧世界を発見したばかりだったので、西欧世界を前に気後れした様子だった。しかし、正常なロシア・西欧関係を樹立できると考えていたはずだ」と指摘する。

 カレール=ダンコースは、ロシアの現状を理解するためには、「共産主義終焉、冷戦終焉に関し、再考する必要がある」ともいう。そして、「ソ連崩壊は奇跡が起きたからでも、西欧が勝利したからでもない。ソ連自身がシステムを崩壊させたからだ。忘れてならないのは、だから、彼らは西欧に債務を負わせたとの感情を持っていることだ。(ソ連崩壊は)ゴルバチョフとエリツィンが成し遂げたことだ」と断言する。つまり、冷戦の終焉は、一般的に考えられているように、米国を先頭とする民主主義陣営の勝利を意味しない、というのだ。

「ウクライナ戦争」のプーチンの目的

 また、対ロ経済制裁に関しては、「ロシア国民は制裁によって物質的に苦しむことは覚悟しているが、問題はその点ではない。精神的な面だ。彼らの国が再度、孤立に陥るという考えだ。単にのけ者にされたという考えだけではなく、村八分のようなシステムによって、国際的にのけ者にされたという考えだ」と解説した。

 さらに、「忘れてならないのは、ゴルバチョフがドイツの東西再統一を基本的に承諾した時、彼は米国とドイツにNATOがロシアの国境に進出しないことを要請したことだ」とも指摘した。ただし、この時はウクライナなどのNATO加盟問題に関しては話題に上らなかったという。ソ連にとってはウクライナのNATO加盟などはありえないが自明の理だったからだ。

 ゆえにプーチンの「ウクライナ戦争」の目的は、「欧州における安全保障のシステム設置の獲得だ。つまりロシアにおける安全保障に関する概念の保障だ」という。

拡大Tomasz Makowski/shutterstock.com

国際的な新秩序の構築されなかった冷戦後

 カレール=ダンコースの発言で目を引いたのは、「欧州の歴史で初めて、冷戦という大戦争の後に、共同の組織による均衡のとれた出口を構築しなかったことも、ウクライナ戦争と無関係ではない」というものだ。

 確かに、これまで欧州では、戦争や悲劇的な大事件の終結時には国際的な条約が結ばれたり、会議が開催されたりしてきた。

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筆者

山口 昌子

山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在仏ジャーナリスト

元新聞社パリ支局長。1994年度のボーン上田記念国際記者賞受賞。著書に『大統領府から読むフランス300年史』『パリの福澤諭吉』『ココ・シャネルの真実』『ドゴールのいるフランス』『フランス人の不思議な頭の中』『原発大国フランスからの警告』『フランス流テロとの戦い方』など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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