花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
難題を抱える欧州に強いリーダーシップは不要なのか
欧州の中核に位置するドイツが安定してこそ欧州は困難な問題に対処していける。ドイツの政権基盤が不安定では、今の欧州はインフレやウクライナ問題に対処していけない。問題は、オラフ・ショルツ首相の不人気が短期的な不手際のためというより、中長期的な社会民主党(SPD)の不人気に根差しているのではないかということだ。そうだとすれば問題は思った以上に根深い。
ドイツのショルツ首相が振るわない。5月8日と15日、ドイツ北部のシュレスビッヒ・ホルシュタイン州と北西部のノルトラインウェストファーレン州の二つの選挙でショルツ首相のSPDが立て続けに敗北を喫した。たかが地方選挙と侮るなかれ、この2州はいずれもドイツで重要な州だ。中でもノルトラインウェストファーレン州は、ジュッセルドルフやケルン等、ドイツの産業、金融の中心を擁するドイツ最重要の州であり、この州の動向は、ドイツ全体の動きを反映する。
メディアは、高まるインフレへの不満もさることながら、ショルツ首相のウクライナ政策における煮え切らなさに不人気の原因があると伝える。しかし、ショルツ首相と言えば、2月24日のロシアのウクライナ侵攻を受け、果敢にドイツ外交を180度転換させウクライナ支援の姿勢を鮮明にした。そのショルツ首相が「煮え切らない」とは解せない。
確かに、ショルツ首相の決断はドイツ外交の歴史的転換といっていいほどだった。何せドイツは、第2次世界大戦の反省から、NATOが防衛費の対GDP比2%の支出を決めてもこれを履行しようとせず、また、紛争地への武器供与はしないとして対ウクライナ武器供与を頑なに拒否、代わりに軍用ヘルメット5千個を送った。
それを2月24日の侵攻を受け、ショルツ首相が一気に転換、防衛費を2%以上に引き上げるとし、ウクライナへの武器供与に積極的に応じるとした。つまり、それまでのドイツの安全保障政策を一気に転換したのだ。このショルツ首相の決断は、ドイツ国内で圧倒的な支持を得た。そのショルツ首相が、何故煮え切らないと非難されるのか。