メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

物価高騰に対応するには消費税の引き下げしかない!~階猛・落合貴之対談

野党4党が消費税率引き下げを盛り込んだ法案を国会に提出。なぜ今、消費税減税なのか

落合貴之 立憲民主党衆院議員

 深刻さを増す物価高騰への対策として、立憲民主党、共産党、れいわ新選組、社民党の野党4党が10日、10%の消費税率を当分の間、5%に引き下げることなどを盛り込んだ法案を、共同で衆議院に提出しました。

 そこで、国会議員が政治課題とその解決策について論じるシリーズ「国会議員、課題解決に挑む~立憲民主党編」の落合貴之衆院議員による緊急連続対談「いま必要な経済政策は?」では、今回、階猛衆院議員と消費税減税について対談しました。

 財政再建を重視する立場から消費税減税に懐疑的だった階さんは今、物価高への有効な対策は時限的な消費税減税しかないと言い切ります。なぜ、そうなのか? アベノミクスが抱える問題も含めて、落合さんととことん議論していただきました。コメント欄にもぜひ、ご意見をお寄せください。(論座編集部)

(構成 論座編集部・吉田貴文)

対談を終えて。階猛さん(右)と落合貴之さん=衆議院議員会館

階猛(しな・たけし) 立憲民主党政務調査会長代行、衆院議員
1966年生まれ。盛岡一高野球部、東大野球部で投手。東大法学部卒。勤務先の長銀が経営破たん後、企業内弁護士として活動。2007年衆議院補選で民主党から立候補して初当選。民主党政権で総務大臣政務官、民進党政調会長、国民民主党憲法調査会長などを歴任。当選6回。岩手1区

落合 「論座」の連続対談「いま必要な経済政策は」の第3回は、深刻の度を増してきた物価高の問題について、階猛さんとともに考えます。僕は毎日、スーパーで買い物をしていますが、このところ様々なモノの値段が上がっているのを肌身で感じるようになっています。

 そうですね。スーパーで買う食料品だけでなく、電気代もかなり上がっています。これからますます上がりますよ。

階猛さん=衆議院議員会館

落合 物価が上がるのに、賃金は上向かない。立憲民主党はこうした現状を「岸田インフレ」と名付けて、政権を批判してきました。7月の参院選でも「物価高」を争点に掲げます。

 そんななか立憲民主党は10日、消費税減税法案を衆議院に提出しました。消費税減税は「岸田インフレ」に対して最も有効であり、かつ今はこれしかない政策だと、考えています。なぜ、そうなのか。少し長くなりますが、説明したいと思います。

物価上昇の現状

落合 まず物価の現状を見てみます。4月の消費者物価(生鮮食品を除く)は前年同月比で2.1%増と、3月の0.8%増から一気に上昇しました。日本銀行が目標にしてきた2%増を越えた形です。また国内企業物価は前年同月比10%の上昇で、比較可能な1981年以降最大の伸び率。統計が開始された1960年以降の最高を記録しています。消費者も苦しいですが、中小企業も厳しい状況に追い込まれています。

 物価上昇には大きく二つのタイプがあります。ひとつは、経済が好調で、皆がどんどんモノを買うために価格が上がるタイプ。需要に供給が追いつかずに生じる物価高です。もうひとつは、需要は増えていないのに、モノをつくるコストが上がって、価格が上がるというもの。いわゆるコストプッシュ型の物価高です。

 今回の物価高は後者です。コロナ禍で世界的にサプライチェーンが毀損したところに、ロシアのウクライナ侵攻が重なり、原材料やエネルギー、食料品が逼迫、価格が上がりました。くわえて、円安が急速に進み、輸入価格を押し上げました。まさしく「悪い物価上昇」の典型です。

>>>この記事の関連記事はこちら

物価上昇以上の賃金増を実現できなかったアベノミクス

落合 アベノミクスの最大の弱点は物価の上昇以上の賃金上昇を実現できなかったことです。結果として、人びとの購買力は上がらず、景気の好循環が生まれなかった。国民の実質的な所得は下がり、個人消費は減り、貯蓄ゼロの世帯が増えてしまいました。

 年金生活者の状況も深刻です。かつては物価が上昇すると年金も上がりましたが、今は物価と現役世代の賃金が上がらないと年金額は上がらないシステムです。その結果、物価は上がったが賃金は下がったこの春は、年金支給額が減ってしまいました。

 とすれば、物価上昇を抑制するか、賃金を上げることが必要になります。一般的に、物価上昇を抑制したい時は、中央銀行が金利を上げます。需要を抑制し、物価を下げるわけです。現にアメリカはインフレ抑制のために金利を上げている。ただ、ここで留意するべきは、アメリカはコロナ禍でも5.7%成長をしていたので、利上げの余地があったという点です。

落合貴之さん=衆議院議員会館

経済が悪いなか物価上昇を抑制するために

落合 これに対し日本は、コロナ前の2019年の消費税増税で景気が減速したところにコロナに見舞われ、経済が悪いままです。とても金利を上げられる状況にありません。では、どうするか。立憲民主党で議論した結果、出した結論が消費税減税でした。

 価格には消費税分が含まれているので、消費税を5%下げたら、物価も5%近く下がるはずです。当然、購買力も高まります。また、消費税は売り上げにかかるので、税率が下がると事業者の資金繰りも劇的に改善します。

 消費税減税についてはこれまでも賛否両論がありましたが、今のタイミングだったら、いい面が悪い面より多いのではないかと思います。階さんも以前は消費税減税に懐疑的でしたが、今は容認していると認識しているのですが……

岸田首相は「悪い物価上昇」を認めないが……

 私はもともと財政健全化を重視する立場で、消費税の減税には懐疑的でした。しかし事ここに至っては、消費税減税しかないと思っています。どうして、そう思うに至ったのか。

 現在の物価上昇が、需要が供給を上回るために起きる「良い物価上昇」でないことは、落合さんが指摘された通りです。資源高や円安の結果、物価が上がる「悪い物価上昇」に他なりません。ただ予算委員会で質問しても、岸田文雄首相はそれを認めず、「日本は諸外国と比べて比較的、消費者物価は低く抑えられている」と言います。

 でも、それは大きな間違いです。消費者物価、企業物価、輸入物価の三つの物価の動きを見ると、輸入物価は45%も上がっているのに対し、消費者物価は2.1%しか上がっていません。これは企業が、原材料などの上昇分を小売価格、販売価格になるべく転嫁しないようにして、価格の上昇を抑えているからです。

 その分、企業の儲けは減ります。儲けが減ると、従業員の賃金は上げられないどころか下がる。消費者物価が低く抑えられている背後で、ますます給料は減り、需要が落ち込んで、経済が悪化する悪循環が生じています。

日銀が陥ったジレンマ

 また、日銀の黒田東彦総裁は金融緩和を続ける構えですが、こちらも隘路(あいろ)に入っています。

 日銀は今、短期金利はマイナス、10年の金利は0.25%を上限にそれ以上は上がらない「指値オペ」をおこなっています。海外の金利が金融引き締めで上昇するなか、日本との金利差が拡大し、円が売られて円安が進んでいますが、円安になると、ただでさえ高い輸入物価がさらに高くなる。先ほど述べた輸入物価の45%増のうち三分の一の15%は円安の影響。つまり、日銀の金融緩和が物価高をかさ上げしているのです。

 とはいえ、需要が弱い現状で金利を上げると、需要がさらに下がり、企業の業績悪化、ひいては給料の減少を招く。現在は、金融緩和も金融引き締めもいずれも経済に望ましくない影響を与えるというジレンマに陥っています。

対談する階猛さん(右)と落合貴之さん=衆院議員会館

最後に行き着いた消費税減税

 このように考えた末、最後に行き着いたのが消費税減税でした。中小企業にすれば、販売価格に転化できないのは、消費税があるから。消費税が下がれば、その分価格が下がるので、価格への転嫁もしやすい。さらに、消費税を実質的に払っている中小企業の負担を減らすこともできます。

 中小企業がある程度、利益を確保できれば、それが従業員の賃金に回る。それによって消費が伸びれば、経済も好転するだろう。販売価格が上がるけれど、消費税減税の分で相殺されてるので、値上げに伴う影響も減ると思います。

中小企業には消費税減税が有効

落合 僕は財政規律より経済成長を優先するべきだという考え方なので、消費税減税にはもともと抵抗がなかったわけですが、真逆の立場だった階さんも、今の時点ではこれしかないだろういうことで一致したのが消費税減税です。逆に言うと、消費税減税ぐらいしか打つ手がない。

・・・ログインして読む
(残り:約2734文字/本文:約6301文字)