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ウクライナ支援よりインフレ対策でいいのか

西側諸国での「ウクライナ早期停戦論」の台頭に寄せて

花田吉隆 元防衛大学校教授

 西側主要国の政権基盤に軋(きし)みが生じている。根底に、高まるインフレに対する国民の不満がある。国民は目が国内に向き、ウクライナ戦争よりインフレを何とかしろと言い始めた。

 しかし、ウクライナ戦争は持久戦であり国民の忍耐がカギだ。西側も苦しいが、ロシアの国民も苦しい。どちらが先に音を上げるかの勝負であり、西側国民が先に参ったとはいくまい。そういう中、日本の岸田政権のみが奇妙な安定を見せる。世界は、「東高西低」の様相だ。

リーダーへの信頼揺らぐ英・仏・米・独

 6月6日、英国の保守党がボリス・ジョンソン首相に対する信任投票を実施した。ジョンソン首相は、国民に対し厳しいコロナ制限を課し他世帯との交流を認めなかったにも拘らず、自らは他の保守党議員らと共に首相官邸等でパーティーに興じていた。この件では既に80名以上が警察の捜査対象となり、4月には罰金の支払いも命じられている。その後、5月25日の政府最終報告書では、中枢の指導者は責任を負う必要があるとも指摘された。

イギリスのボリス・ジョンソン首相/shutterstock.com

 また、これに先立つ5月5日の統一地方選挙は、保守党の大きな敗北となった。保守党内の不満は頂点に達し信任投票実施にもつれ込むこととなった。結果は、信任211票対不信任148票で不信任案否決となったものの、下院の4割を超す保守党議員が不信任票を投じた意味は重い。今後、ジョンソン政権がどれだけ求心力を維持していけるか不透明だ。

 フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、4月24日の大統領選挙決選投票で対抗馬のマリーヌ・ルペン氏を59%対41%で破り見事再選を果たしたものの、前回選挙に比べルペン氏が躍進、その差は前回の半分近くにまで縮まった。

 通常、大統領選挙で勝利すれば、その後の国民議会選挙(下院、577議席)は有利な結果となるはずだが、6月12日実施の第1回投票は、マクロン大統領の与党連合と対する左派連合が得票率で拮抗、19日の決選投票次第では与党連合が過半数を獲得できるかどうか不透明になってきた。マクロン大統領は、第一期目で下院の過半数を獲得、法人税引き下げや国防費増額等を実現したが、今回過半数割れともなれば、今後の政権運営に暗雲が漂いかねない。

米連邦議会議事堂で演説するバイデン米大統領=AP

 米国のジョー・バイデン大統領は、依然、支持率が低迷したままで政権浮揚の兆しが見えない。これでは、11月の中間選挙で民主党が勝利することは難しそうだ。ドイツ、オラフ・ショルツ首相の社会民主党(SPD)も支持率が下がる一方で、今や連立相手の緑の党にも抜かれ3位転落もあり得ると噂される。一体、西側陣営はどうしたのか。

各国に共通するインフレの昂進

 英国は「パーティーゲート」、ドイツはウクライナ対応の不手際と、各国それぞれ個別事情を抱えるが、共通するのがインフレの昂進(こうしん)だ。米国の消費者物価指数は+8.6%、ユーロ圏も+8.1%と5月はいずれも高い値で推移する。

shutterstock.com

 元々、コロナからの回復過程で供給制約が生じていたのに加え、ウクライナによる原料・食料価格の高騰が加わった。家計の負担増は著しく、不満が各所で噴出する。特に低所得層は、賃金上昇が物価上昇に追いつかず賃金が実質減となり生活が直撃される。政権幹部は、国民の悲鳴を無視するわけにいかない。

 こういう中、西側主要国の中で岸田政権のみが奇妙な安定を保つ。支持率6割前後と高い水準を維持し、このままいけば参議院選挙も無事切り抜けそうだ。

 年明けの頃、オミクロン株が猛威を振るい、岸田内閣の今後はオミクロン株次第と見る向きもあった。それから半年が経過、政権は難なくこの問題をクリアした。成功の要因は、オミクロン株の弱毒性だ。新規感染者は増えたものの、重症化する率は低く、従って医療機関の負担も思ったほどでなかった。仮に、オミクロン株がデルタ株のような強毒性ウイルスであれば、医療逼迫が生じ政権の屋台骨は大きく揺らいでいたに違いない。

G7首脳会合での岸田文雄首相(中央)=2022年3月24日、ブリュッセル

 引き続いて日本を襲ったロシアによるウクライナ侵攻の衝撃も、岸田首相は無難に乗り超えた。西側諸国との連帯を固め結束を維持した。5月に来訪したバイデン大統領との日米首脳会談も、拡大抑止力と同盟強化を確認し万全だった。オミクロンもウクライナも大きな失点がない。その意味で、岸田政権が何かプラスのことをしたというより、マイナスがなかったというべきかもしれない。

 ところで、日本も

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