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「自民・公明vs民主党系政党」の枠組みに変化? 熱を帯びない参院選で何が……

首相の政治意思が見えぬ自民、維新を注視する公明、野党のビジョンがぼやけた立憲……

御厨貴 松本朋子 曽我豪 小野太郎 鬼原民幸 久保田侑暉 吉田貴文

 言うまでもなく、今週(6月22日)に公示され、7月10日に投開票される参院選は、昨年秋に発足して衆院選に勝利した岸田文雄・自公連立政権が、この1年弱の実績を審判される選挙です。その意義はこれまで同様変わらないどころか、今回は審判の重みは計り知れないほど大きいーーはず。

 この間、ロシアのウクライナ侵攻があり、原材料費と物価の高騰、そして円安が進みました。コロナ禍も消えたわけではありません。こうしたもろもろの課題への現政権の取り組みは十分か。かたや野党には代わり得る代案はあるか。それを吟味し、審判を下せるまたとない機会なのに、与野党の力比べはこれまでのところ、かつてのような熱を帯びてきません。

 意義と現実のこの落差について、朝日新聞の現場の記者と若い研究者、そしてベテラン政治記者と日本の近現代政治史の泰斗に議論していただきました。昨年秋の自民党総裁選挙及び衆院選の前後に行った企画、「政治衆論2021」の続編です。主旨は同じ。通説を疑い現実に学び、政治をただ悲観せず、なるべく光明を見いだすというものです。世代をまたいだクロストークをぜひ! (司会・構成 論座編集部・吉田貴文)

>>>「政治衆論2021」は「こちら」からお読みいただけます。

拡大議論する6人。左上から時計回りに、御厨貴さん、久保田侑暉さん、松本朋子さん、鬼原民幸さん、小野太郎さん、曽我豪さん(Zoomの画面から)

御厨貴(みくりや・たかし) 東京大学名誉教授
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1951年生まれ。東京大学法学部卒業。東京都立大教授、政策研究大学院大学教授、東京大学先端科学技術研究センター教授、放送大学教授、青山学院大特任教授を経て現職。政治史学。著書に『政策の統合と権力』『馬場恒吾の面目』『権力の館を歩く』など。
松本朋子(まつもと・ともこ) 東京理科大講師
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1985年生まれ。東京大学法学部卒業。2016年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。名古屋大学特任講師、ニューヨーク大学客員研究教授を経て18年から現職。専攻は実証政治学・実験政治学・政治行動論・政治史。研究成果を海外学術雑誌に掲載。
曽我豪(そが・たけし) 朝日新聞編集委員(政治担当)
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1962年生まれ。東京大学法学部卒業。朝日新聞社に入り、熊本支局、西部本社社会部を経て89年に政治部。首相官邸、自民党、野党、文部省など担当。週刊朝日編集部、月刊誌「論座」副編集長、政治部長、東大客員教授などを歴任。2014年から現職。
小野太郎(おの・たろう)
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1988年生まれ。2012年、朝日新聞に入り、長崎総局、大阪本社編集センターなどを経て20年に政治部。安倍晋三首相番からスタートし、東京五輪担当大臣や経済安全保障担当大臣、内閣官房副長官を担当。現在は公明党番として参院選などを取材している。
鬼原民幸(きはら・たみゆき)
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1981年生まれ。2005年、朝日新聞に入り、大津総局、広島総局を経て政治部に。その後、特別報道部、国際報道部、経済部にも所属。政治部では民主党、公明党、自民党などを担当し、現在は立憲民主党、国民民主党、支持団体の連合などを取材している。
久保田侑暉(くぼた・ゆうき)
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1991年生まれ。2014年、朝日新聞に入り、京都、福山、広島、大阪経済部を経て20年から大阪社会部行政取材班に。大阪府の吉村洋文知事を中心に大阪維新の会、日本維新の会を担当。20年の大阪都構想をめぐる2度目の住民投票や21年の衆院選を取材した。

――「政治衆論2022」を始めます。今回は6月22日公示、7月10日投開票の参院選を前に、与野党をめぐる状況や参院選で問われるべきことについて、議論したいと思います。政治編集委員の曽我豪さんに口開けの「問題提起」をお願いします。

◇曽我さんの問題提起◇

 参院選は怖い。政治記者として30年以上、日本の政治を見てきた私にとって、それが偽らざる思いです。

 怖さを感じた“原点”は、平成元(1989)年4月1日に政治部に配属されて3カ月後の7月23日に投開票された参院選です。4月にスタートした消費税、前年から政界を揺るがせてきたリクルート事件、それに首相のスキャンダルも重なり、自民党が大敗。社会党が参議院第一党になりました。

 1955年の結党以来、基本的に衆参両院で多数派であり続けた自民党が、両院の一方で過半数を失い、法律がすんなり通らない事態、いわゆる「衆参のねじれ」が参院選を契機に生じた。ひょっとすると、「政権交代」もあるかもしれないと思いました。実際、1993年には細川護熙・非自民連立政権が発足して自民党は下野。55年体制に終止符が打たれました。

 参院選の怖さを再び感じたのは、橋本龍太郎政権下で行われた1998年の参院選です。選挙の2日前まで自民党もメディアも自民党が負けるはずがないと思っていました。ところが、投票日前日の夜中、選挙を担当する自民党職員から電話があり、「釜の底が抜けた。投票率が上がり、その分がすべて野党にいく。選挙情勢調査と違い、自民党が惨敗する」と言う。

 その通り、自民党は大敗を喫し、橋本首相は退陣。衆参の「ねじれ」が再び生じました。参院選では時に予想しない突風が吹く、という怖さを感じました。

 民主党による政権交代前後の二つの参院選にも怖さを覚えました。一つは2007年の第1次安倍晋三政権下の参院選。自民党は2年前の郵政解散・総選挙での大勝が噓だったかのように民主党に惨敗。民主党は、09年の衆院選で政権交代を果たします。もう一つは2010年の菅直人選政権下の参院選。前年の衆院選と対照的に民主党が大敗。これを機に民主党政権は失速し、2012年末に自民党が政権に復帰しました。

 いずれも衆院選に大勝した後の参院選で、有権者に逆バネが働いて与党が大敗。その後の政局に大きな影響を与えました。

 で、今回の参院選は怖い参院選になるのかどうか。一寸先は闇の政治のこと、下手な予想をするつもりはありませんが、一つ言っておきたいのは、参院選が実は様々な形でその後の政治の枠組みの変容を促してきたということです。政権を選択する選挙は衆院選ですが、参院選は政治の体制や権力の結集軸をじわりと変える端緒にしばしばなってきました。

 今回の参院選も、もしかすると四半世紀以上続いてきた、自公の塊と民主党を源流にする勢力が対峙(たいじ)する枠組みを変える契機になるのではないか。個人的にはそんなことを考えています。そのあたりを現場の記者を交えて、とことん議論したいと思います。

拡大曽我豪さん

参院選直前、与野党は今

――世論調査を見ると、参院選は今のところ、与党が優勢のようです。ただ、歴史を振り返ると、参院選にはいろんな怖さがあるという問題指摘でしたが、政党や政治家は現状をどう見ているのでしょうか。与党担当の小野さん、いかがでしょうか。

「安心できない」と岸田首相

小野 基本的には、自民、公明の与党が勝利するだろうという認識です。自民党による「野党分断」工作も効いています。ただ、ここにきて、ウクライナ情勢や円安の影響を受けて物価が高騰、「こんなに値段が上がっている」、「現場の生活はこんなに苦しい」といった報道が目立つようになり、与党幹部は懸念を深めています。

 岸田首相も内閣支持率は高いものの、周囲に「安心できない」と話しているようです。細田議長のセクハラ疑惑を週刊誌が報じた際も、公明党内では「負の連鎖は早い」と警戒感が広がりました。投開票日まで1カ月、何があるか分からないので、とにかく対応を誤らないようにという意識は強いようです。

――鬼原さん、野党はどうですしょうか。

ようやく見つけた物価高という対立軸

鬼原 野党第1党の立憲民主党はこの半年、昨秋の衆院選の惨敗を引きずり続けてきました。敗北の責任をとって枝野幸男代表が辞任、泉健太新代表に交代しましたが、新たな執行部は「批判ばかりの政党」と言われないようするあまり、かえって自分たちの立ち位置を見失ったように思います。旧執行部に共感していた人と反発していた人たちとの対立も続き、泉執行部は党内のハンドリングがうまくできないまま、今に至っています。

 コロナやウクライナ侵攻などで生じた問題に対する世論の批判が、必ずしも政権に向かないことに加え、岸田文雄政権が前政権と比べてリベラル色が強いこともあり、政権との対立軸がなかなかつくれないなか、ここにきてようやく見つけた対立軸が物価高です。アベノミクスや安倍流の強権的な政治を引き継ぐ岸田さんは好ましくないと言う論法を最近は強調していますが、有権者にどこまで響くかは分かりません。

――問題提起のなかで、参院選が自公の塊と民主党を源流にする勢力が対峙する枠組みを変える契機にならないかという指摘がありましたが、そこで焦点となるのが、野党第1党を狙う日本維新の会です。大阪で維新を担当する久保田記者は現状をどう見ますか。

衆院選の勢いはどれほど続いているか?

久保田 維新は昨秋の衆院選で公示前の4倍近くの41議席を獲得しましたが、その1年前、大阪市を廃止して特別区を設置するという「大阪都構想」が住民投票で僅差で否決され、維新はどこに向かうのかという状況でした。しかし、大阪府内の首長選では着実に勝利し、支持を失うことなく衆院選で勝利を収めたという経緯があります。

 衆院選では、大阪府内で候補を立てた小選挙区で全勝、お隣の兵庫県でも比例復活で全員当選を果たしましたが、その勢いがどれほど続いているか。関西中心だった比例票を他の地域でどれだけ増やせるか、重点選挙区の京都府や東京都で議席を獲得できるかが、維新の目下の関心事です。