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山口二郎・神津里季生対談~野党は参院選にどう臨むべきか、争点は何か

朝日カルチャーセンター千葉教室「緊急〝討論〟」から

松下秀雄 朝日新聞山口総局長・前「論座」編集長

 参院選が6月22日に公示されます。野党はどう臨むべきなのか。立憲民主党と国民民主党の足並みの乱れや、自民党との接近もとりざたされる労働界の動きの実態、労組と政治のあるべき関係は。選挙の争点は何か……。山口二郎・法政大学教授と神津里季生・前連合会長が語り合いました。
 (朝日カルチャーセンター千葉教室が5月29日に開催した「緊急〝討論〟『野党共闘の行方~連合に問う』」をもとに修正・再構成したものです。「論座」では6月20日以降に公開する参院選関連の記事を、選挙が終わるまでの間、どなたにでも無料でお読みいただけるようにいたします)

(論座編集部)

山口二郎・法政大学教授
山口二郎
(やまぐち・じろう)

法政大学法学部教授(政治学)
1958年生まれ。東京大学法学部卒。北海道大学法学部教授を経て、法政大学法学部教授(政治学)。主な著書に『大蔵官僚支配の終焉』『政治改革』『ブレア時代のイギリス』『政権交代とは何だったのか』『若者のための政治マニュアル』など。
神津里季生・前連合会長
神津里季生
(こうづ・りきお)

日本労働組合総連合会(連合)・前会長
1956年生まれ。東京大学教養学部卒。新日本製鐵労働組合連合会会長、日本基幹産業労働組合連合会中央執行委員長、連合事務局長などを経て2015年10月から21年10月まで連合会長。著書に『神津式 労働問題のレッスン』。

朝日カルチャーセンター千葉教室が5月29日に開催した「緊急〝討論〟『野党共闘の行方~連合に問う』」の様子。ZOOMの画面から

2つの党に分かれ、「特色」を出す不幸

 山口)野党の現状をどうご覧になっていますか。

 神津)連合の立場からいうと、立憲民主党と国民民主党にはしっかり力を合わせてもらわないと話にならないというのが率直なところです。いまの芳野友子会長も一貫して、2つの党が力をあわせてくれと言い続けています。

 2年前に、私も含めた3者で話し、2つの党が合流をするという話になった。でも、国民民主党の玉木雄一郎代表が、合流は是とするけれど私はいかないとおっしゃって、新しい立憲民主党と新しい国民民主党ができました。

党の合流をめぐり国会内で会談した立憲民主党の枝野幸男代表(右)と国民民主党の玉木雄一郎代表=2020年1月10日
 2つにわかれていると、特色をださなければならないというのが常につきまとう。国民民主党は2022年度当初予算案に賛成しました。その判断自体をこのタイミングで云々することは控えますが、両党の間の溝が深まったことだけは歴然としています。非常に不幸な状態にあるといわざるをえません。

 山口)まったく同感です。考え方が近くても、別の政党になると組織の論理が優先し、違うことをいいたがるし、批判がめだつようになる。情けない思いをしています。

 神津)もともとは同じ民主党だった2つの党がたたきあっている印象があれば、有権者は引いてしまう。力をあわせてほしいですね。

「原発」という難題をどうするか

 山口)ひとつの難問として原発政策をめぐる立場の違いがあります。でも、エネルギー転換はしなければならないし、脱炭素社会の実現は非常に重要な課題だけれども、長期的に考えて原発依存から脱却することでまとまることはできる。私は「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」で野党の共通政策をつくるときも、みんなが賛成できる政策で折り合いをつけたつもりなんですけれどね。

 神津)不毛な対立はもうやめるべきです。原子力エネルギーに依存したままでいるのは国内世論も含めて難しい。一方で一挙に全部やめることはできない。連合としては、原子力エネルギーからは将来的に脱却していく。だけど、現時点で安全が確認された原子力発電所は再稼働すべきだといっています。

 一方で、新しい立憲民主党の綱領に「原発ゼロ」という表現が入った。綱領の作成はトップシークレットというか、幹部同士でやっていて、ふたをあけるとそうなっていた。ぼくは枝野幸男代表に、「原発ゼロ」という文言をみだりに振りかざすということではないとメッセージを出してくれと求め、出してくれた。だけど、最後まで議員のみなさんの合流への忌避感は消えなかった。

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労組は自民に近づこうとしているのか

自民党の会合に出席後、記者団の取材に応じる連合の芳野友子会長=2022年4月18日、自民党本部

 山口)国民民主党が与党志向を強めていることと、たとえば芳野会長が自民党の会合に呼ばれて講演したという話をくっつけて、労働組合の一部が自民党に近づこうとしているという疑念を招きます。

 神津)芳野会長と麻生太郎・自民党副総裁が会食したことがメディアにとりあげられたけど、私も麻生さんを含めて自民党幹部と会食したことは、当方の申し出も含めて何度もある。私がやってきたことと、芳野会長がやっていることにさほど変わりはありません。

 山口)マスコミからは、連合会長は野党協力に否定的だとさんざんいわれ、衆院選に明らかにマイナスでした。トヨタ労組出身のベテラン議員、古本伸一郎さんが突然、衆院選への立候補を見送った。そして今年の通常国会では国民が予算に賛成した。野党陣営の混迷は、労働界の側にも原因があるんじゃないか、民間産別の反対で立憲民主党への結集が不十分に終わって以来、一貫した筋があるんじゃないかとみえるのですが、うがちすぎでしょうか。

 神津)うがちすぎだと思います(笑)。古本氏が出馬をとりやめたのには私も仰天しましたが、出身元の事情としかいいようがない。芳野会長が基本的にこれまでの路線を踏襲していることは間違いありません。だけど、メディアの捉え方はいま先生がおっしゃったような感じになっています。いったん政治部が「こうだ」と言ったら、それと違うコメントをしても、なかなかメディアに採り上げられないんですよ。かなり誤解されている。

 自民党に接近はしていないんです。自民党が近寄ってきているだけ。向こうがすり寄ってきているなというのは、ほんとうにそう思っています。

衆院選では「閣外協力」問題が勢いをそいだ

市民連合との共通政策に合意し、握手する(前列左から)SEALDsの諏訪原健さん、社民・又市征治幹事長、民進・岡田克也代表、共産・志位和夫委員長、生活・小沢一郎代表、安保関連法に反対するママの会の西郷南海子さん=2016年6月7日、東京・永田町

 山口)私は2016年に市民連合を立ち上げ、1人区、小選挙区の野党協力を媒介してきました。神津さんは旧民主党系の立憲民主と国民民主を束ね、私は立憲と共産の間にコミュニケーションの回路をつくる分業をしてきたと思う。

 連合の中にもいろんな議論があったけれど、神津さんはわりとリアルに割り切って、選挙協力は政党の問題だからと切り分けてくれてやりやすかった。昨年4月の衆参補欠選挙まではうまく進んだと思います。

 神津)連合は共産党と歴史的な経過があるから、ダイレクトに力をあわせるような関係ではない。かといって選挙において非常に問題がある政権与党に漁夫の利を与える愚を犯すことはいかがか。漁夫の利を与えないということにおいて、山口先生と考え方は一致していたということだと思います。

 山口)昨年10月の衆院選では立憲が議席を減らしました。どうご覧になっていますか。

 神津)枝野代表と志位和夫委員長が会談し、立憲民主党が政権をとった場合、共産党は市民連合と合意した政策を実現する範囲で限定的な閣外からの協力をするということになった。文言を子細に点検すれば間違ったことはぎりぎりのところでいっておられないが、新聞の見出しとしては縮めて「閣外協力」となってしまう。おそらく枝野代表が意図したことと、有権者が受けた印象にかなりのギャップができてしまった。

 山口)そこは私も残念でした。共産党を批判するつもりはまったくないけれど、政権にかかわる、支えるというときに、自衛隊などいくつかの基本的な課題について、党の見解と政権の論理とをどう整合させるのか、私からみれば十分に詰まってない。そのへんが昨年の衆院選で露呈したことが、最終段階で勢いをそがれた原因のひとつだと思います。

泉代表が結集の動きをつくってくれないと

臨時党大会の最後にガンバロー三唱をする立憲民主党の泉健太新代表(左から2人目)、枝野幸男前代表(左から3人目)、西村智奈美氏(左端)、逢坂誠二氏(右から2人目)、小川淳也氏(右端)=2021年11月30日、東京都港区

 山口)衆院選では立憲が議席を減らし、枝野さんが代表をやめたあとも混迷、低迷は続いています。現状や、泉健太代表のリーダーシップをどうご覧になっていますか。

 神津)泉代表も福祉をはじめ一所懸命やってこられたし、力のある人だと思います。出だしはこなれていないところがあったけれど、ここにきて少し泉色を打ち出すようになっているのかなとみています。政策をわかりやすく伝え、露出度を高めて世に打って出る。そこを強めてほしいと思います。

 山口)5月9日に、市民連合主催で野党の幹事長・書記局長を集めたシンポジウムを開いて参院選の重要政策について議論し、今回は4つ(平和国家路線の堅持と発展、暮らしと命を守るための政策の拡充、気候変動対策の強化とエネルギー転換の推進、平等と人権保障の徹底)にテーマを絞って自民党と差異化していく。1人区で野党がなるべく多く協力していくという基本的な合意ができました。ただそのあとあまり進展がみられなかった。泉さんがもっと積極的に他の野党に呼びかけ、力を結集する動きをつくってくれないと。

 6年前は32の1人区全部で一本化できて、そのうち11で野党系が勝利しましたが、今回はなかなか難しい状況です。

その場しのぎの政策ではなく、セーフティーネットを

日米首脳会談で握手する岸田文雄首相(右)とバイデン米大統領。首相は防衛費の「相当な増額」を表明した=2022年5月23日、東京・元赤坂の迎賓館、代表撮影
 山口)ウクライナの衝撃の中で戦う選挙で、憲法改正や防衛政策見直しの話がある。経済的な行き詰まりも明らかになっている。しかも参院選のあとは最大3年間国政選挙がない。ほんとうに重要な選挙です。神津さんからみて、野党が訴えるべき争点は。

 神津)2年前の政党合流議論と並行して、「命とくらしを守るニューノーマル」という考え方を、当時の立憲民主党、国民民主党の代表と一緒に議論してまとめたんです。

 コロナ禍で日本のセーフティーネットの脆弱性が露わになった。政策対応もやれ給付だ貸し付けだと、その場しのぎなんですよね。

 例の10万円給付もないよりはあったほうがいいでしょう。だけどお金が必要ではない人にも配ることになる。それだけのお金があるなら、教育や医療や雇用の保障に使ってセーフティーネットを張り、包摂的な社会を実現すべきだという共通理解をもったんです。

 いま求められていることはなんなのか、大きい構想を世に問うていく。そういう意味で力をあわせ、両代表がしっかり手を握り合う絵柄をみせるべきではないでしょうか。

 山口)コロナは日本の社会経済のひずみや矛盾をあぶり出しました。たとえば、支援の政策がなかなか個人に届かない。パートやアルバイトをしている人はシフトを減らされて事実上失業に近いところに落ち込んでいるのに、救済する政策の枠組みがない。従来の社会保障からこぼれ落ちる

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