伊東順子(いとう・じゅんこ) フリーライター・翻訳業
愛知県豊橋市生まれ。1990年に渡韓。著書に『韓国カルチャー──隣人の素顔と現在』(集英社新書)、『韓国 現地からの報告──セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)など、訳書に『搾取都市、ソウル──韓国最底辺住宅街の人びと』(イ・ヘミ著、筑摩書房)。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
同情と冷めた意見と──困惑する韓国社会
新型コロナによるパンデミック期間中の大半を日本で過ごし、4月、韓国に戻った。厳しかった行動制限の多くが解除され、最後は屋内でのマスク着用義務を残すのみ。
「ついに外でマスクがはずせる!」と喜んだ人もいたと思うのだが、実際のところ多くの人の口元はまだ不織布で覆われている。街中でさっと見渡しても、マスクをしていない率は1割ほど? 3月までいた東京と同じような感じだ。しかも食堂などに入って座ったとたんに、やれやれとそのマスクをはずす人もいる。感染症対策としてはいささか本末転倒な行動だが、そこらへんも日韓はよく似ている。
「さすが隣国……」
両国を知る人々は感心しているが、やはり欧米のように一気にオープンとはならない。ちなみに先日、田舎のバス停でマスクをはずしていたら、お年寄りに注意された。
「外だから、はずしてもいいんじゃないですか?」
「だめだ」
韓国の田舎で年上の人に逆らうなんてできないし、高齢者にとって感染がどれほどの恐怖だったか。それは各種の調査報告などにも、はっきり表れている。
しかし、解放感はある。飲食店や集まりに関する規制などが全て撤廃されて、人々は一気に街に繰り出した。終電後のソウルはタクシーがつかまらず、週末の釜山は国内観光客であふれかえる。2年余りも辛抱してきたのだから、若者たちがはしゃぐ気持ちはよくわかる。ところが喜んだのも束の間、また別の問題で社会にはうんざり感が漂い始めている。
「だってガソリンが2400ウォン(1リットル当たり、約250円)ですよ」
すさまじい物価高とそれを抑えるための金利上昇。そんな、ため息まじりの日々の中に飛びこんで来たのが、BTS(防弾少年団)のニュースだった。