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BTSに何が? 苦しさの吐露に込められた同じ若者たちへの思い

同情と冷めた意見と──困惑する韓国社会

伊東順子 フリーライター・翻訳業

BTSと株価の暴落

 BTSのメンバーが自らの進路について発表したのは6月14日の夜、デビュー9周年を記念した映像コンテンツ「真・防弾会食」を通してだった。グループのメンバーたちが涙ながらに吐露した様々な思い。世界中のファンの間で衝撃が走り、ツイッターなどのSNSも大騒ぎとなった。「これからはグループよりも、個人の活動を中心にしていく」という内容だったのが、一部メディアが「活動休止」という見出しをつけたことで、混乱はさらに大きくなった。

Kathy Hutchinsshutterstock拡大Kathy Hutchins/Shutterstock.com

 翌15日の早朝から、BTSの所属事務所であるHYBE(ハイブ)の株が大暴落。これが韓国社会を刺激した。ちなみに韓国人は日本人と比べると、株や不動産など投資への関心がはるかに高く、特にパンデミック下で20代30代の株式投資が一気に増えた。それでなくても米国発の世界的株価暴落でショックを受けた直後であり、芸能界などに関心のない人たちも朝から騒然となってしまったのだ。

 「いったい何があったのか?」

 ハイブの社長が動揺する社員宛に長文のメールを送ったという話まで流れてきて、さらに騒然。とにかく「解散」とか「休止」ではないことははっきりしているのだが、ネット上では様々な憶測も広がっている。そこで私もくだんのユーチューブ動画を見たのだが、なんというのだろう。正直、とても感慨深いものがあった。この若者たちは本当に頑張ってきて、でも今はどこに向かえばいいのかわからなくなったと言っている。

 「コロナという言い訳」という言葉が印象的だった。それを理由に問題を先送りしてきたのだという。世界中が停止してしまったパンデミック下、たまたま彼らはそのタイミングで世界的なスターダムに躍り出たのだが、皮肉なことに「そこからは自分が自分ではなかった気がする」とリーダーは言っていた。

 それはおそらく彼らだけの問題ではなく、この時代に皆が共有する感覚だろう。この2年半、「コロナのせいで」「コロナだから」と諦めてきたこと、スルーしてきたこと。その直前にしようと思っていたことは何だったのか。個人の問題だけでなく、社会がどのように変化しようとしていたのか。デビューしたばかりの少年の頃から、社会に対して常に尖った警告を発してきた彼らが鈍感でいられるはずがない。

 韓国KBSのメインニュースも、BTSのニュースを大きく取り上げていた。キャスターは少し沈痛な面持ちで、彼らの発表を報告した。

 「昨夜、彼らはグループでの活動を少し止めると宣言しました。少年たちが青年に成長した9年という時間の間、全世界の音楽ファンに愛されたが、それだけに心の負担も大きかったと打ち明けました」

 続いて、メンバーの声。

 RM「『Dynamite(ダイナマイト)』まではグループが自分の手の上にあった感じだったのに、その後に『Butter(バター)』と『Permission to Dance(パーミッション・トゥー・ダンス)』とかをやりながら、もう自分たちがどんなグループなのか、よく分からなくなってしまった……今、方向性を失ってしまって、今は止まって、自分で何か考えてから、もう一度戻ってきたいのだけど……」

 SUGA(シュガ)「いちばん一番難しいのが歌詞を書くこと。出てこない。言うことがないんだ、本当に。自分が感じて、自分が話したいことを言わなきゃいけないのに、無理やり絞り出している感じ。ずっと」

 JUNG KOOK(ジョングク)「それぞれが個人的な時間をもつことで、たくさんの良い時間を過ごして、色々な経験もたくさん積んで、もう一段階成長して皆さんの前に戻ってくる」

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筆者

伊東順子

伊東順子(いとう・じゅんこ) フリーライター・翻訳業

愛知県豊橋市生まれ。1990年に渡韓。著書に『韓国 現地からの報告――セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)、『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書y)、『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)等。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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