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選挙は「私の争点」に政治を振り向かせる絶好のチャンス

「みんなの未来を選ぶためのチェックリスト」から考えたこと

松下秀雄 朝日新聞山口総局長・前「論座」編集長

 「争点」って、なんだろう。

 選挙のとき、政党や候補が「ライバルとはここが違う」と強く訴える対立軸のこと? それとも、この社会に暮らす一人ひとりが抱える課題のこと?

 参院選公示の2日前、6月20日に開かれた記者会見に参加して、そんな疑問がわいてきた。若い世代をふくむ市民有志が各党に質問をぶつけ、その結果をまとめた「みんなの未来を選ぶためのチェックリスト」の発表の場だ。

 何日かぼんやりと考え、たどり着いたのは、こういうことである。

 問題の根は、そのふたつがずれていることにあるんだな。選挙期間中のいまこそ、そのずれを埋める絶好の機会なんじゃないか。ずれを埋めて初めて「民主主義」が手に入るんじゃないか……。

初挑戦の衆院選で100万PV超、今回は8党がすべて回答

「みんなの未来を選ぶためのチェックリスト」の発表記者会見で説明するメンバーたち=2022年6月20日、東京・永田町

 「チェックリスト」をつくったのは、コロナ禍のもと文化施設を守る活動や、ジェンダー、気候変動、入管問題など様々な課題に向き合ってきた市民有志。「食と農業」「教育」から「安全保障」「災害」まで20の分野で43の質問を話し合ってまとめ、各党から得た回答をウェブサイトやSNSで公開している。

 質問の特徴のひとつは、候補の街頭演説や報道では大きく採り上げられることが少ないテーマもふくめて、自分たち自身が大切だと思うことを聞いていることだ。だから、作成にあたったメンバーの問題意識が色濃くにじんでいるし、けっこう専門的な質問もある。

「『はどめ規定』を撤廃し、人権尊重と科学的根拠に基づく包括的性教育を推進しますか?」に対する回答。「詳細」をクリックすると補足説明が表示される=「みんなの未来を選ぶためのチェックリスト」のウェブサイトから
 たとえば、「(性交や妊娠の経過について教えないなどという)『はどめ規定』を撤廃し、人権尊重と科学的根拠に基づく包括的性教育を推進しますか?」という質問もそのひとつだろう。

 この問いには立憲民主、共産、社民、維新、れいわが○、自民が×をつけ、公明と国民民主が○×をつけなかった。補足説明をみると、×をつけた自民は「不適切な性教育やジェンダーフリー教育などは行わせません」などと唱え、○の維新は「『はどめ規定』撤廃が適切かどうかは検討を要するが、性教育については今よりも踏み込んだ対応が必要である」と説明していて、○×だけでは伝わらないニュアンスがわかるようになっている。

 初めて「チェックリスト」をつくったのは昨年10月の衆院選のとき。初の試みであったにもかかわらず、ウェブサイトのページビューが100万を超え、SNSでも広く拡散された。その実績があったからだろうか。今回は昨年の衆院選では回答しなかった政党もふくめ、質問を送った主要8党がすべて回答した。

 一人ひとりの切実な課題や問題意識が広く共有され、選挙のゆくえを左右する時代が、もうそこまで来ているのかもしれない。

 そんな印象をもつ。

ないんじゃなくて、見えていないだけ。「見える化」する

 私は記者会見で、こんなことを尋ねてみた。

 選挙のときにはメディアも各党の政策を比較します。自分たちで質問を練り、各党に聞く意味は?

 発起人のひとりで「政治アイドル」の町田彩夏さんは「『争点がないですよね』というのに対する対抗ですね」と答えた。メディア関係者から「今回の選挙は争点がないですよね。全然盛り上がらない」と言われた経験があるからだ。

 たぶん、そのメディア関係者は、政党がライバルとの違いを鮮明にアピールできていないといいたかったんじゃないだろうか。一方、町田さんのいう争点は、一人ひとりの課題を指しているようにみえる。こんなふうにいっていた。

 「こんなにも目の前にたくさん、埋もれているかもしれないけれど課題がある。ないんじゃなくて、見えていないだけですよと伝えたいし、それを『見える化』することが私たちの意義かなと思います」

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「経済や外交が優先、ジェンダーは後回し」なのか?

 町田さんはジェンダー平等に強い関心をもつ。ところが、初めて「チェックリスト」にとりくんだ昨年の衆院選のあと、SNS上で「ジェンダーは後回しだ。経済や外交のほうが優先順位が高い」といった言葉が飛び交うのをみたという。

 これも、問題が「見えていない」一例だろう。ジェンダーは人の生き方、社会のあり方を規定していて、経済とも切り離せない。でも、その重さがなかなか伝わらない。

 私自身、ジェンダーの問題が「見えていない」ひとりだ。だから、本で読んだことをなぞるくらいしかできないが、ジェンダーとは「男性はこうあるべきだ」「女性はこうするものだ」といった、社会的・文化的にかたちづくられた性差を指す。それは「規範」や「常識」になっているだけに、その問題点に気づきにくい。

 たとえば、夫が稼ぎ、妻は家族の世話をするのがかつての「常識」だった。妻が働いても、その収入は「家計の足し」。そんなふうに思っていれば、女性が低賃金で不安定な働き方をしていても問題だと理解されにくい。「非正規雇用」の問題点がしきりに叫ばれるようになったのは、そうした働き方が男性に広がってからだ。

 それは深刻な結果をもたらしている。シングルマザーや、夫に先立たれた高齢の女性のように、男性の稼ぎに頼れない数多くの女性が貧困に陥っている。

「介護士や保育士の給与」「最低賃金」にもジェンダーが

 「チェックリスト」のジェンダー平等の項目では、選択的夫婦別姓導入と、各党の候補に占める女性の割合の数値目標を公表することを義務化するかという2問を聞いている。

 けれど、いま述べたような文脈で読めば、ほかの項目にもジェンダーにかかわる質問が並んでいることに気づく。

 たとえば「介護士や保育士の給与のさらなる引き上げを含めた待遇改善を行いますか?」という質問だ。

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