コロナ対策徹底批判【第五部】~上昌広・医療ガバナンス研究所理事長インタビュー⑱
2022年07月15日
新型コロナウイルスの感染が再び拡大している。これまで2年半の間に6回の「波」を経験しながら、コロナ患者の受け入れの態勢がいまだ不十分であるなど、課題は積み残されたままだ。この国は一体、どうなっているのか。
思えば、2020年3月末から4月初めにかけてコロナウイルスに感染した私は、発熱に苦しみながら11日間PCR検査を受けられず、自宅の部屋で寝て過ごした。何回か保健所に電話をかけ検査を強く懇請したが、最後は「いくら言っても無駄ですよ」という返事しか返ってこなかった。その経緯については当時、「論座」に詳しく書いた。
この頃、私と同じようにPCR検査を受けられず、自宅で横になったまま病状を悪化させていく人々が相次いだ。タレントの岡江久美子さんは同じころ、検査の前に容体を悪化させて亡くなった。
コロナウイルスが日本に入ってきた2020年、保健所はなぜかPCR検査を抑制しまくった。その動機や背景は何だったのか。臨床医でありながら世界の医療最前線を取材し続ける医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏に聞くと、驚くべき真実が浮かび上がった――。上氏へのインタビューによるコロナ対策徹底批判【第五部】では、保健所と医系技官の問題を中心に話を聞いていく。
――保健所と言えば、コロナウイルスが日本に入ってきた最初の年、PCR検査をなかなか受けさせてくれないことが大きな問題になりました。そこでまず、検査そのものについておうかがいします。「感染症対策の基本は検査と治療・隔離」と上さんから何度もうかがったのですが、その点から言ってPCR検査はコロナ対策上もっとも重要なものですね。
上昌広 その通りです。臨床医学は診断が基本です。診断して治療する、診断して隔離する。これが基本です。もちろんグレーゾーンの問題など診断できないものもありますが、コロナウイルスに関しては明確な診断ができる。健常人にコロナウイルスは存在しないので、体内から検出されれば感染してるって言えるんです。
普通、培養検査をして「陽性」となれば感染と判断するのですが、ウイルスというのは培養が極めて難しい。そこでPCR検査をやって、コロナのように健常者の体内や環境中にいない病原体の場合は、一部でも遺伝子配列があれば感染しているとみなすわけです。
PCR検査は英語のPolymerase Chain Reactionの頭文字を取ったもの。日本語ではポリメラーゼ連鎖反応という。DNAポリメラーゼという酵素の働きを利用してコロナ遺伝子を数十億倍に増やしてウイルスを検出する。具体的には、コロナウイルスが存在する鼻や咽喉、唾液から検体を採取し、専用の薬品と混ぜ合わせてPCR検査機にかけ、加熱と冷却を繰り返してウイルス遺伝子を増幅させていく。増幅させた遺伝子配列を見て、コロナウイルスが存在するかどうかチェックする。
上 基本的なことを言えば、コロナウイルスは環境中には存在しないし、人間の体内にもコロナに似たウイルスはいない。だから、検体の中にそれがいればコロナに感染していると定義できます。
コロナウイルスが環境中にいるかいないか、あるいは体内に似たものがいるかいないかという問題は、「条件検討」と呼ばれます。そして、この条件検討の作業をきっちりやれば、「PCR検査陽性イコール感染」になるわけです。
だから通常、PCR検査では間違って陽性になるという事態はないわけです。遺伝子配列が偶然一致するということはありえませんから。適切に検査の条件をセットできれば擬陽性は出ません。遺伝子工学をきちんと習った人はみんな知っています。
ところが、当初「専門家」と称する人たちや厚労省の医系技官は、擬陽性が出る確率は1%と言っていた。まったくわかっていない証拠なんです。これを聞いて、多くのお医者さんが「おかしい」と思わなかったことも日本の問題だと私は思います。
中国の「ゼロコロナ」の考え方が問題になることがありますが、中国は1千万人単位でPCR検査をやっていました。1%の擬陽性が出るなら、10万人の擬陽性が出るわけですよ。「1%の擬陽性」というのはいかにもおかしいと分かるじゃないですか。
――たしかにそうですね。
上 これは偶然なんですが、私は1990年代にウイルスやカビの遺伝子診断で学位をもらいました。このあたりのことは20代で勉強したんです。その時に読んだものや指導者からは、PCR検査は適切にセットされれば、絶対に擬陽性は出ないと徹底的に習った。適切にセットされれば、という条件はありますよ。だから、コロナウイルスが日本に入ってきた2020年1月のころはまだわからなかったんです。体内や環境中に偶然コロナダッシュがいる可能性がありますからね。
だけど、その年の2月、3月になれば、そのようなことは起こらないことがわかってきた。そこで、そんな議論が出てきたこと自体がおかしい。
――ということは、コロナウイルスのPCR検査における擬陽性というのは、1%どころか極めて0%に近いと。
上 ほぼゼロです。
――PCR検査というのは実に正確なんですね。
上 そうです。ところが、厚労省の医系技官は途中から「人為的ミス」などということを言い出した。たしかに「人為的ミス」はあります。だけど、それを言い出したらPCR検査だけの問題ではない。ガン検診だってそういうことはある。検体を取り間違えるとか。これはPCR検査に限らず一般的な話です。
――なんとかPCR検査を広げないように画策したわけですね。
上 そうですね。PCR検査は極めて簡単な検査で、機械化が一番進んでいる検査なんです。ただ、下手な人間がやるとサンプルを調整する時に汚染させてしまう。これは慣れている商業ラボでも起こるんですが、保健所では感染者の検体が非感染者の検体にまぎれこんでしまう、いわゆる「コンタミ」(コンタミネーション=汚染、混入)がいっぱい出たことが明らかになっています。保健所長たちが自ら告発しているんです。なのに、押谷(仁・東北大学大学院教授)さんや岡部(信彦・川崎市健康安全研究所所長)さんなんかは、保健所が入るからPCR検査の品質が高いと言っていました。
それは違うんです。私たち臨床医は、大学病院でやるPCR検査より商業ラボでやる方が品質が高いと考えています。商業ラボは商売ですから一日のうちにものすごい数の検体を検査します。大学病院はせいぜい一日100件くらいです。
保健所も商業ラボの膨大な数には全然かないません。それなのに岡部さんは、保健所の方がクオリティが高い、しかもPCR検査は擬陽性が出ると言っていた。それで、岡部さんをはじめとする政府の「専門家」は遺伝子工学をまったく知らないな、とわかったんですね。遺伝子工学の常識からまったく逸脱しています。
――政府に寄り集まっている「専門家」と称する人たちは、そういう遺伝子工学の基本のことも知らないでいろいろと言っていたわけですね。
上 そうですよ。
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