新型コロナPCR検査をめぐり「非常識」が横行した日本~上昌広氏に聞く
コロナ対策徹底批判【第五部】~上昌広・医療ガバナンス研究所理事長インタビュー⑱
佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長
検査で「擬陽性」はあり得ない
だから通常、PCR検査では間違って陽性になるという事態はないわけです。遺伝子配列が偶然一致するということはありえませんから。適切に検査の条件をセットできれば擬陽性は出ません。遺伝子工学をきちんと習った人はみんな知っています。
ところが、当初「専門家」と称する人たちや厚労省の医系技官は、擬陽性が出る確率は1%と言っていた。まったくわかっていない証拠なんです。これを聞いて、多くのお医者さんが「おかしい」と思わなかったことも日本の問題だと私は思います。
中国の「ゼロコロナ」の考え方が問題になることがありますが、中国は1千万人単位でPCR検査をやっていました。1%の擬陽性が出るなら、10万人の擬陽性が出るわけですよ。「1%の擬陽性」というのはいかにもおかしいと分かるじゃないですか。
――たしかにそうですね。
上 これは偶然なんですが、私は1990年代にウイルスやカビの遺伝子診断で学位をもらいました。このあたりのことは20代で勉強したんです。その時に読んだものや指導者からは、PCR検査は適切にセットされれば、絶対に擬陽性は出ないと徹底的に習った。適切にセットされれば、という条件はありますよ。だから、コロナウイルスが日本に入ってきた2020年1月のころはまだわからなかったんです。体内や環境中に偶然コロナダッシュがいる可能性がありますからね。
だけど、その年の2月、3月になれば、そのようなことは起こらないことがわかってきた。そこで、そんな議論が出てきたこと自体がおかしい。
――ということは、コロナウイルスのPCR検査における擬陽性というのは、1%どころか極めて0%に近いと。
上 ほぼゼロです。
――PCR検査というのは実に正確なんですね。
上 そうです。ところが、厚労省の医系技官は途中から「人為的ミス」などということを言い出した。たしかに「人為的ミス」はあります。だけど、それを言い出したらPCR検査だけの問題ではない。ガン検診だってそういうことはある。検体を取り間違えるとか。これはPCR検査に限らず一般的な話です。

PCR検査用の機械が8台並ぶ仙台市のクリニック。結果は約1時間で出る=2020年5月4日、仙台市若林区荒井の七郷クリニック
機械化が一番進み極めて簡単
――なんとかPCR検査を広げないように画策したわけですね。
上 そうですね。PCR検査は極めて簡単な検査で、機械化が一番進んでいる検査なんです。ただ、下手な人間がやるとサンプルを調整する時に汚染させてしまう。これは慣れている商業ラボでも起こるんですが、保健所では感染者の検体が非感染者の検体にまぎれこんでしまう、いわゆる「コンタミ」(コンタミネーション=汚染、混入)がいっぱい出たことが明らかになっています。保健所長たちが自ら告発しているんです。なのに、押谷(仁・東北大学大学院教授)さんや岡部(信彦・川崎市健康安全研究所所長)さんなんかは、保健所が入るからPCR検査の品質が高いと言っていました。
それは違うんです。私たち臨床医は、大学病院でやるPCR検査より商業ラボでやる方が品質が高いと考えています。商業ラボは商売ですから一日のうちにものすごい数の検体を検査します。大学病院はせいぜい一日100件くらいです。
保健所も商業ラボの膨大な数には全然かないません。それなのに岡部さんは、保健所の方がクオリティが高い、しかもPCR検査は擬陽性が出ると言っていた。それで、岡部さんをはじめとする政府の「専門家」は遺伝子工学をまったく知らないな、とわかったんですね。遺伝子工学の常識からまったく逸脱しています。
――政府に寄り集まっている「専門家」と称する人たちは、そういう遺伝子工学の基本のことも知らないでいろいろと言っていたわけですね。
上 そうですよ。
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