国分高史(こくぶ・たかし) ジャーナリスト・元朝日新聞編集委員兼論説委員
上智大学文学部を卒業後、1989年に朝日新聞入社。佐賀支局、福岡本部社会部などをへて、政治部員として2002年の日朝首脳会談や2004年の米国大統領選、2005年の郵政解散・総選挙などを取材。2008年から論説委員として政治社説を担当するとともに、編集委員としてコラム「政治断簡」、「多事奏論」を執筆した。2021年からフリージャーナリスト・エディター。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
ウクライナ侵攻のさなかの参院選に、私たちはどう向き合うべきか
7月10日投開票の参院選は、食料品や電気・ガス代の高騰、上がらぬ賃金で生活の先行きに明るさが見えない状況での選挙戦となった。党首たちは経済成長や生活防衛を中心に訴えているが、安倍晋三政権時代に声高に語られた憲法改正は決して後景に退いたわけではない。ロシアのウクライナ侵攻で安全保障への関心が高まる中、投票にあたっては勇ましい議論に惑わされない冷静な判断が求められる。
今回の参院選で、憲法改正に際立って積極的な姿勢を見せているのは日本維新の会だ。6つの重点政策のひとつに「ウクライナ危機を受けた安全保障の強化」を挙げ、「憲法9条に自衛隊を規定し、攻められないための防衛力を抜本強化」と掲げた。維新は安倍政権時代の2016年から「教育の無償化」「統治機構改革」「憲法裁判所の設置」の3項目での改憲を主張してきた。いまは自民党が「改憲4項目」に挙げている「自衛隊明記」と「緊急事態条項の制定」を自党の改憲項目に取り込み、自民を後押しする姿勢を鮮明にしている。
6月21日に日本記者クラブで行われた9党党首討論会。維新の松井一郎代表は岸田文雄首相にこう問いかけた。
「2016年の参院選、安倍首相の時代からこの6年間、(憲法改正の)発議を積極的にやろうという勢力は3分の2そろっているのに、発議がされていない。スケジュールを決めることで、そこに向かって意見がまとまってくる。今回の参院選で3分の2の発議勢力がととのえば、来年の春、統一地方選挙に(憲法改正案をはかる国民投票を)合わせるべきだと思っている」
やる気のある政党だけで改憲原案をまとめて国会から発議し、2023年春の統一地方選に合わせて国民投票を実施すべきだという要求だ。仮にこの通りに進めば、国会内外で議論に費やせる期間は1年もない。
これに岸田首相はどう答えたか。「発議に賛成の勢力が3分の2あるのが必要なのではなくて、発議する中身について一致できる勢力が3分の2集まらないと発議できないのが現実だ。いつまでに中身について一致しろというのは、かなり乱暴な話になってしまう」
さすがに首相として簡単にうんとは言えない「乱暴な話」であり、松井氏をいさめる形になった。ところが、自民党の茂木敏充幹事長は、そうではなかった。茂木氏はその1週間後のテレビ番組で「例えば1年以内、2年以内にやろうということも含めて、主要政党間でスケジュール感を共有することが重要ではないか」と明言。「スピード感がなかったら、いつになっても変らないという状況が続くのは確かだ」とも語り、松井氏と歩調を合わせてみせたのだ。
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