ウクライナ侵攻のさなかの参院選に、私たちはどう向き合うべきか
2022年07月03日
7月10日投開票の参院選は、食料品や電気・ガス代の高騰、上がらぬ賃金で生活の先行きに明るさが見えない状況での選挙戦となった。党首たちは経済成長や生活防衛を中心に訴えているが、安倍晋三政権時代に声高に語られた憲法改正は決して後景に退いたわけではない。ロシアのウクライナ侵攻で安全保障への関心が高まる中、投票にあたっては勇ましい議論に惑わされない冷静な判断が求められる。
今回の参院選で、憲法改正に際立って積極的な姿勢を見せているのは日本維新の会だ。6つの重点政策のひとつに「ウクライナ危機を受けた安全保障の強化」を挙げ、「憲法9条に自衛隊を規定し、攻められないための防衛力を抜本強化」と掲げた。維新は安倍政権時代の2016年から「教育の無償化」「統治機構改革」「憲法裁判所の設置」の3項目での改憲を主張してきた。いまは自民党が「改憲4項目」に挙げている「自衛隊明記」と「緊急事態条項の制定」を自党の改憲項目に取り込み、自民を後押しする姿勢を鮮明にしている。
「2016年の参院選、安倍首相の時代からこの6年間、(憲法改正の)発議を積極的にやろうという勢力は3分の2そろっているのに、発議がされていない。スケジュールを決めることで、そこに向かって意見がまとまってくる。今回の参院選で3分の2の発議勢力がととのえば、来年の春、統一地方選挙に(憲法改正案をはかる国民投票を)合わせるべきだと思っている」
やる気のある政党だけで改憲原案をまとめて国会から発議し、2023年春の統一地方選に合わせて国民投票を実施すべきだという要求だ。仮にこの通りに進めば、国会内外で議論に費やせる期間は1年もない。
さすがに首相として簡単にうんとは言えない「乱暴な話」であり、松井氏をいさめる形になった。ところが、自民党の茂木敏充幹事長は、そうではなかった。茂木氏はその1週間後のテレビ番組で「例えば1年以内、2年以内にやろうということも含めて、主要政党間でスケジュール感を共有することが重要ではないか」と明言。「スピード感がなかったら、いつになっても変らないという状況が続くのは確かだ」とも語り、松井氏と歩調を合わせてみせたのだ。
安倍1強体制のもとで迎えた2016年と19年の参院選では、いわゆる「改憲勢力」が議席数の3分の2を超えるかどうかが注目された。16年は安倍氏の思惑通り3分の2を超えたが、19年はわずかに割り込んだ。それから3年たった今年の参院選では、過去2回とは憲法改正をめぐる政治状況に大きな違いがある。それが端的に表れたのが、選挙前の通常国会での衆院憲法審査会の動きだ。
憲法や関連法制について調査し、憲法改正原案を審議する権限をもつ国会の常設機関が衆参両院の憲法審査会だ。このうち、各党で憲法に詳しい幹部が幹事や委員として出席する衆院憲法審査会が、先の通常国会では昨年までとは様変わりした。
昨年までは、政府の新年度予算案が衆院を通過した後にその国会での最初の会議が開かれるのが通例だった。だが、今年は予算案の衆院通過前の2月10日に早くも第1回の会議を開催。その後も毎週木曜の定例日のほとんどで開かれ、ひとつの会期での開催数はこれまでで最も多い16回を数えた。
先の通常国会でまず議論のテーマになったのは、コロナ禍でその実現の可否が論じられていた「オンライン国会」だ。憲法56条は、国会が議事を開き議決するには、総議員の3分の1以上の「出席」が必要だと規定している。憲法制定当時は想定されていなかったオンラインによる議事への参加が出席にあたるかどうか。憲法学者の見解も分かれていたが、衆院憲法審は3月3日、大規模災害や感染症流行といった非常時には、現行憲法のもとでも出席と認められるとする報告書を賛成多数で可決した。それまでの憲法審での審議ぶりからすれば、拙速との声も出るほど素早い対応だった。
衆院憲法審は、その後もコロナ禍やロシアのウクライナ侵攻を受けた「緊急事態条項」の必要性や9条を軸とした安全保障問題、憲法改正案を承認するかどうかを問う国民投票を実施するにあたっての問題点などについて、各党の委員による自由討議を重ねていった。
過去の参院選の年の開催状況と比べてみよう。2016年の通常国会での衆院憲法審査会の開催は、わずかに1回。幹事交代などの事務手続きをしただけで、実質審議はなかった。19年の通常国会は4回で、国民投票の際のテレビコマーシャル規制について参考人と質疑した1回を除けば、いずれも事務手続きだけで終わっている。
なぜ、今年の憲法審でこれほど活発な審議ができたのだろうか。憲法改正の旗を振っていた安倍氏が首相を退いてから1年あまり
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