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参議院選挙の争点である「外交安保」の本質を議論しよう

ウクライナ侵略で浮かび上がった日本の抑止力と反撃能力を検証する

田中均 (株)日本総研 国際戦略研究所特別顧問(前理事長)、元外務審議官

 国際関係の大きな変化の下で日本の外交安保をめぐる姿勢が問われている。参議院選挙の争点の一つとされるが、残念ながら本質的な議論が行われているとは思えない。日本が直面している外交安保政策の選択は今後の日本の進路を決めてしまうと考えられるので、選挙戦の勢いに流されることがあってはならない。論点をそらさず議論したいと思う。

核兵器を含めた軍拡の世界の再来

 世界の安全保障体制は本質的に変化した。国際規範に従って国連安保理が決議し、場合によって有志国が多国籍軍を組織して秩序維持を図るといった集団的安全保障の考え方は崩れ去った。安保理常任理事国で核兵器国ロシアの国際規範を無視した侵略行動、並びに、それを誰も止めることが出来なかったことで、集団的安全保障体制は有名無実化した。

 これからの世界は、多国間、二国間の安全保障協定に基づく同盟関係に依存した安保体制となる。安保体制がブロック化していく事に伴い、対立が深刻化すると同時に、中東・アフリカなどでの地域的紛争は頻発していくだろう。

 今後注目しなければならないのは中国の帰趨だ。中国がロシアと連携して反米・反西側路線を追求する場合には冷戦時と同じように「NATO・日米」対「露中」の二つの大きな軍事ブロック間の対決となるのだろう。核兵器を含めた軍拡の世界の再来だ。

拡大NATOの地図

 欧州では急速なスピードでNATOとロシアの軍事的対峙が拡大する。フィンランド、スウェーデンのNATO加入によりNATOとロシアの国境は2倍に拡大し、およそ30万人を超える双方の兵力が核をもって向き合う。

 NATOはこれまで戦略的パートナーとみなしていたロシアを「最大かつ直接の脅威」と位置づけ、中国は「体制上の挑戦」と表現した。直接の脅威に向き合う欧州諸国はこれまで長い間実現してこなかった「GDP比2%」の国防費拡大に向けて舵を切る。

 欧州とアジア双方に顔を持つロシアの脅威の拡大を前に、「欧州とアジアの安全保障は不可分の一体」と考えざるを得ず、日本が防衛費の拡充を図るのは当然の選択だ。ただ、日本と欧州の安全保障の形態は異なり、後述するように慎重な配慮が必要だ。


筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総研 国際戦略研究所特別顧問(前理事長)、元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。 (Twitter@TanakaDiplomat)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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