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参議院選挙の争点である「外交安保」の本質を議論しよう

ウクライナ侵略で浮かび上がった日本の抑止力と反撃能力を検証する

田中均 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

「ウクライナ」は明日の東アジアか

 岸田首相は、NATO首脳会議で中国を念頭にウクライナで起こったことは明日の東アジアで起きるかもしれない、と述べた。現状変更の一方的な軍事行動を中国が東アジア地域で引き起こす蓋然性が高い、という警告なのだろう。尖閣諸島、台湾、南シナ海での中国の攻撃的行動を見れば、当然持たなければならない危惧だろう。

拡大NATO首脳会議に出席する岸田文雄首相(中央手前)=2022年6月29日、スペイン・マドリード

 ロシアにはウクライナ戦争を継続していく能力はあり、中国には台湾を軍事的に統一することを試みる能力はある。問題は意図だ。プーチン大統領は「大ロシア」達成の意図をもって周到に行動し、2008年のジョージア(グルジア)戦争、2014年のクリミア併合、そしてウクライナ侵略に至った。ウクライナ及びNATOの抵抗を過小評価していた面はあったのだろうが、ロシアの軍事力、核能力、エネルギー大国としての力をもってすれば事態を乗り切れると踏んだのだろう。

 中国の飛躍的な経済的台頭と急速な軍事力強化から見れば、中国は台湾を蹂躙できる能力を持った国だ。そして中国は時間がかかっても共産党政権の下で台湾を統一するという明確な意図を有しているのだろう。平和的、軍事的を問わず、である。しかし、最も重要な問題は「いつ?」であり、少なくとも現在および近い将来において中国が軍事的に行動する意図を有しているとは考えられない。

拡大2022年5月24日に中国国防省が公開した写真。中国軍東部戦区が最近行った演習の一コマと説明している=中国国防省のホームページから

 即ち、今日は中国の軍事的行動に対する抑止力が効いているのである。対中抑止力は台湾、米国、そして日本の抑止力の総和なのだろう。台湾関係法の下で米国は台湾への武器輸出を続けており、その「曖昧戦略」は台湾の独立を自制させ、中国の軍事侵攻を抑制するという意味で効果的に機能してきた。

 日米安保体制も「周辺事態法」や「安保新法制」の下で、台湾有事における日本の支援をより明確化してきた。さらにロシアに対する厳しい経済制裁は、経済成長に高いプライオリティをおく習近平政権への警鐘となった。習近平体制が国内的に揺さぶられ権力闘争に向かっていく場合はともかく、予見できる将来、台湾に行動を仕掛ける蓋然性は低い。

 したがって、「ウクライナは明日の東アジア」というのは警告という意味は持っても、現実のシナリオとして考えられるわけではない。ウクライナ問題はロシアの侵略を止めることが出来なかった外交の失敗であるが、東アジアにはまだまだ有事を防止する外交が稼働する余地が十分ある。

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筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。2021年3月よりTwitter開始、毎日リアルタイムで発信中。(@TanakaDiplomat)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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