北欧2国の加盟による新時代の幕開け
2022年07月06日
6月28~30日にスペインのマドリードで開催されたNATO(北大西洋条約機構)首脳会議は、ロシア、中国の覇権主義に対抗する姿勢を明確にし、今後の国際秩序の形成に画期的な展望をひらいた。
まず注目されるのは、NATOへの新規加盟を申請していた北欧のフィンランドとスウェーデンに対して、今まで難色を示していたトルコが28日、条件付きで両国の加盟を了承したことだ。正式加盟には今後、各加盟国による議定書の批准が求められるものの、両国が31、32カ国目の加盟国になることはほぼ確実になった。
冷戦期から長い間、「平和主義」「中立主義」の旗を掲げてきた北欧の2カ国が今回、あえてNATO加盟に転換したのは、自国の領土と主権をロシアの覇権主義から守るために他ならない。両国の加盟が実現すれば、NATOはその防衛的な性格を格段に強めることになる。
かつて、西側諸国がつくるNATOと東側諸国によるワルシャワ条約機構は互いに「覇を競う」関係にあったが、東西冷戦が終結して以降、NATOはロシア、あるいは専制主義の「覇を抑止する」方向に進んでいる。そうした方向性が、今回の中立主義国の加盟によってさらに鮮明になった形だ。
NATOは、ロシアのウクライナ侵攻によって生まれ変わったとも言える。1980年代末から1990年代初頭にかけてソ連が崩壊、東欧諸国が体制を転換していくなか、21世紀になってNATOの役割は曖昧(あいまい)になっていた。それに乗じてロシアは着々と覇権主義を強め、2014年にはウクライナの領土とみなされていたクリミアを併合する。
しかし、覇権主義がついにウクライナ侵攻を招くに至り、ヨーロッパはかつてない士気と結束力を持って、防衛のために立ち上がったのである。
NATOは今回の首脳会議で、今後10年間の行動指針を示す「戦略概念」を12年ぶりに改訂した。冷戦が終結して以降、「戦略的パートナー」と持ち上げていたロシアを一転、「パートナーとは見なせない」と突き放し、「最大かつ直接的な脅威」と位置づけた(6月30日朝日新聞)。
中国はロシアに圧力をかけうる存在だが、その中国に対しても、返す刀でロシアと戦略的な関係を深めて法の支配に基づく国際秩序を揺るがそうとしていると断じ、海外航行の自由の確保も含めて、中国に立ち向かう決意を示している(6月30日朝日新聞)。
われわれもそうだが、中国とロシアを排除しているのではない。現在の覇権主義的な指導体制が変われば、NATOをはじめ国際世論はこぞって仲間として歓迎する用意がある。
NATOの首脳会議に先立ち、6月26日から3日間、ドイツ南部のエルマウで主要7カ国首脳会議(G7)が開かれた。文字どおり、NATO首脳会議の“序幕”の役割をはたしたが、ここではロシアに対して7カ国が強硬姿勢をとることが確認されるとともに、中国に対する不信感や牽制姿勢も強く打ち出された。
G7の首脳声明では、中国に対し、ウクライナから軍を撤退するよう、ロシアに圧力をかけることを求めている(6月29日朝日新聞)。さらに、南シナ海などでの中国の拡張的な海洋権益の主張には法的な根拠がないと強調。香港における人権や自由の尊重を求めるとともに、「台湾海峡の平和と安定の重要性」についても、昨年のG7サミットに続いて改めて言及している。
こうした一連の流れに対して、中国は反省の色もなく威嚇的、高圧的な発言を繰り返し、国際世論からのいっそうの反発を招いている。
こうしたなか、わが国の岸田文雄首相は、G7にくわえNATO首脳会議にも日本の首相として初めて出席し、日本が欧米に同調する姿勢を鮮明にした。
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