山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在仏ジャーナリスト
元新聞社パリ支局長。1994年度のボーン上田記念国際記者賞受賞。著書に『大統領府から読むフランス300年史』『パリの福澤諭吉』『ココ・シャネルの真実』『ドゴールのいるフランス』『フランス人の不思議な頭の中』『原発大国フランスからの警告』『フランス流テロとの戦い方』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
元首相の悲劇は日本に何をもたらすのか
安倍晋三元首相が銃撃されて死亡したニュースは、私が住むフランスでも衝撃とともに大々的に報道された。国民の関心も高い。米国と異なり、銃撃事件がほぼ皆無の「平和な国・ニッポン」で起きたという意外性に加え、この事件が7月14日の革命記念日の直前に発生したということも、関心の背景にはあるようだ。
というのも、ちょうど20年前の革命記念日、パリで当時のシラク大統領への狙撃未遂事件が発生している。大統領を狙ったライフルの銃弾は外れ、狙撃犯の青年はその場で取り抑えられた。この二つの銃撃事件を見て、日仏両国民の狙撃への反応ぶりや要人警護の違いについて、あらためて考えさせられた。
筆者が安倍元首相の銃撃事件を知ったのは、週刊誌「L’Obs」が8時16分(パリ時間、時差7時間、日本時間の15時16分)に流した電子版でだった。
事件が発生したのは日本時間の11時30分ごろ、パリ時間では未明の4時30分。仏各紙の朝刊はすでに締切後だったので、8日発行の朝刊には「安倍狙撃」は報道されていないが、各紙、各誌は電子版で報じ、国営テレビ「フランス2」をはじめニュース専門局などが2番、3番手で報じた。
国営通信「AFP」やNHKなどの情報をまとめたもので、犯人は海上自衛隊に3年間所属していたらしい山上徹也容疑者(41)で家宅捜査も行われたなどと詳細に報じ、関心の高さを伺わせた。
マクロン大統領も「安倍元首相死去」が報じられた直後の11時30分ごろ、「安倍晋三元首相が犠牲となった唾棄すべき犯罪に多大な衝撃を受けた。偉大な首相だった。安倍氏の家族と近親者に心から哀悼の意を捧げる。フランスは日本人と共にある」とツイッターで哀悼の意を表明した。
夕刊紙『ルモンド』は8日発行の一面でカラー写真入りで報じた。この日の1面トップは、新任のボルヌ首相が施政方針演説で発表した、購買力アップのための「200億ユーロの政府支援金」のニュース。2番手はジョンソン英首相の辞任表明だ。
安倍元首相のニュースは3番手で、「日本・安倍晋三元首相が狙撃の標的」の見出しとともに事件のあらましを報道。安倍氏が倒れている銃撃現場のカラー写真(AP)付きだ。
さらに中面でほぼ全ページを使い、「東京発」のクレジットでフィリップ・メスメール記者が詳細な解説を送稿している。狙撃の状況や参院選前などの背景に加え、銃による暴力事件がほとんど皆無のこの国での、「国民の動揺の激しさ」にも言及している。
締め切りがが安倍氏が亡くなるまえだったので、見出しは「日本・安倍晋三『強度の重体』」だ。大型カラー写真は、緊急医療ヘリが奈良県橿原市の病院の屋上に着陸し、安倍氏が医療団に囲まれて病院内に運ばれているところだ(共同)。