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非難にめげず突き進む日本のジャンヌ・ダルクたち~盗聴法の審議で知った野党のつとめ

「女性のための政治スクール」30年の歩みから考えるジェンダーと政治【7】

円より子 元参議院議員、女性のための政治スクール校長

 元参院議員の円より子さんが1993年に「女性のための政治スクール」を立ち上げてから来春で30年。多くのスクール生が国会議員や地方議員になり、“男の社会”の政治や社会を変えようと全国で奮闘してきました。平成から令和にいたる間、女性などの多様な視点は政治にどれだけ反映されるようになったのか。スクールを主宰する円さんが、自らの政治人生、スクール生の活動などをもとに考える「論座」の連載「ジェンダーと政治~円より子と女性のための政治スクールの30年」。今回はその第7話です。(論座編集部)
※「連載・ジェンダーと政治~円より子と女性のための政治スクールの30年」の記事は「ここ」からお読みいただけます。

 前回「内なるエネルギーを爆発させた女性たち~セクハラにめげずに政治を変える」では、盗聴法とセクハラ問題を取り上げたが、今回も盗聴法についてから始める。民主主義の基となる表現や報道の自由を危うくする、極めて重要な問題だからだ。

盗聴法の審議に明け暮れた1999年の夏

 1999年の夏は熱かった。毎日毎日、盗聴法(正式名は「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」)に明け暮れた。

 テロに関わるような人物を特定して捕らえ、テロを未然に防ぐには、傍受が必要だという。それだけを聞くと、反対することではないじゃないかと思う人もいるだろう。ただ、ことはそれほど単純ではない。

 日本海側のある町にイスラムの人が長く住んでいて地域に溶け込んでいた。その人がテロにかかわっていたと疑われ、付き合っていた日本人たちが1カ月以上、携帯電話や家の固定電話が傍受されたケースがあった。疑いは晴れ、その傍受は終わった。

 しかし、ちょっと待ってほしい。傍受された人たちは傍受されていたことを知らされず、家族や恋人、職場の仲間、友人との会話を1カ月以上全部聞かれていたことになる。傍受? これは盗聴じゃないか。

 こんな気味の悪いことが、自分が知らない間に警察、公権力によって行われてはかなわない。テロを取り締まることも大事だが、市民のプライバシーはどうなる。これは反対しなければ。

 ところが、衆議院では強行採決されて、あっという間に、参議院に法案が来て、法務委員会の野党筆頭理事だった私は、その廃案に向け、日々闘うことになったわけだ。

拡大盗聴法を審議する参議院の法務委員会には与野党議員が詰めかけ騒然としていた。マイクを前に話しているのは筆者

国民には見えない国会の裏方仕事

 国会議員って何してるの?ちゃんと働いているの?とよく聞かれる。

 年に4回、郵送で1万人の人に出していた「円より子ニュース」に、典型的な1日を表にして載せたことがある。1日に50〜60人の人に会って話を聞くのはざらだし、国会内だけで、1万歩は軽く歩くし、毎日朝8時から会議だというと、みんな驚く。

 NHKで放送される予算委員会で質問などすると、ああ、やってるなとわかってもらえるが、放送されない委員会のほうがずっと多い。盗聴法成立を阻止するためにひたすら理事懇談会や野党理事懇を開き、国対委員長と打ち合わせ、市民との反対集会をひらくなどの裏方の活動は、国民に見えない。今なら、SNSで発信もされようが、当時はそういう便利なものはなかった。

 そして、どんなに頭を使い、身体がへとへとになるまで頑張っても、多数の与党には勝てず、延長国会の最終盤まで長引かせたところで、結局のところ盗聴法は成立してしまったのだから、わかっていたことだったとしても、私の疲労度は大きかった。国会が閉会した後、1週間くらいぼうっと寝てばかりいた。

効果のある反対を誠心誠意やるのが野党

 そんな私のもとに、警察庁刑事局長が訪ねて来られた。盗聴法をなんとか早く成立させたかった側の人だ。その人がわざわざ、退任の挨拶に来られたのだ。

 「あの夜、私は本会議場の傍聴席で、一部始終を聞いていたんです。長い公務員生活の中で、国会対策の仕事もずいぶんしてきましたが、あの日の円先生の演説ほど感銘を受けたものはありませんでした。
 私たちはあの法律を使う立場ですが、70日以上もの長い日々を頑張られ、また、あんなに人の心をうつ演説をされたことで、私たち警察は心して、慎重にこの法律を使わざるを得なくなりました。このことを申し上げたくて、退任の挨拶にかこつけて、伺わせていただきました」

 刑事局長のこの言葉に、野党議員冥利に尽きると思った。この法案審議前に、自民党の林芳正さん(現外務大臣)らと共に、児童買春児童ポルノ禁止法を議員立法で成立させたことも嬉しかったが、そうか、あれだけ盗聴法に反対したことは無駄ではなかったのか、少しは歯止めになるのかと、落ち込んでいた気持ちが和らいだ。

 円さんは野次を飛ばせば飛ばすほど元気になって、何時間演説するかわからないと言って、官邸で本会議の中継を見ていて、撃ち方やめ、つまり野次は飛ばすなと、鴻池祥肇国対委員長に指示した青木幹雄官房長官や村上正邦自民党参議院会長らは「敵ながらあっぱれ」と言い、我が民主党の北沢俊美国対委員長(後に防衛大臣)は「あれは女じゃないな」と彼なりの褒め言葉を送ってくれたが、歯止めになると言ってくれた刑事局長の言葉は、もっとも深く心にしみた。

 そうでなければ、野党の議員などやってられない。ただの反対ではない、効果のある反対を誠心誠意、国民を代表してやるのが野党なのだ。

 そう言えばこんなこともあった。与党になっていた自由党の平野貞夫さん、小沢一郎さんの懐刀と言われた人だが、彼もまた、法務委員会の理事で私の隣に座り、常に早く採決をと言う側で、ある日、円さん、こんなに国民が待っている法案をあなたはいつまで反対するんだ、と部屋の外まで聞こえる大声を放ち、テーブルを叩いて立ち上がったことがある。

 私は静かな声で答えた。平野先生、私、まだ耳はいいのでそんな大声、お出しにならなくても聞こえます。それに、先生はどこのお国の方ですか。アメリカでいらっしゃいますか。私の愛する国、日本の国民はこの盗聴法の廃案を心待ちにしております、と。

 国会議員は政策ができ、それを実現させることがもちろん大きな仕事だが、野党としては反対の国民の声をしっかりと反映させることも必要で、そのためには喧嘩もうまくなければならない。

拡大参議院本会議で演説する円より子。円へのセクハラ発言に対し、野党の女性議員の多くが立ち上がって抗議した

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筆者

円より子

円より子(まどか・よりこ) 元参議院議員、女性のための政治スクール校長

ジャパンタイムズ編集局勤務後、フリージャ―ナリスト、評論家として著書40冊、テレビ・講演で活躍後、1992年日本新党結党に参加。党則にクオータ制採用。「女性のための政治スクール」設立。現在までに100人近い議員を誕生させている。1993年から2010年まで参議院議員。民主党副代表、財政金融委員長等を歴任。盗聴法強行採決時には史上初3時間のフィリバスターを本会議場で行なった。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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