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政治家・安倍晋三の突然の死に思う~政治における「貴族性」とは何か

民主主義を担うために必要な政治家の「資質」「覚悟」とは

櫻田淳 東洋学園大学教授

拡大銃撃事件から1週間がたった現場に掲げられていた安倍晋三元首相の写真=2022年7月15日、奈良市

 安倍晋三(元内閣総理大臣)の暗殺は日本内外に衝撃を及ぼした。安倍が日本の憲政史上、最長の執政を手掛けた宰相であり、各国から寄せられた弔意に示されるように国際政治の場裡で稀有(けう)な存在感を発揮した外政家であった故にこそ、彼の落命の衝撃は、大きなものになっている。1963年11月、ジョン・F・ケネディの暗殺の報に接した往時の米国国民の心理も、このようなものであったかと想像する。

 日本国内では「民主主義体制に対する挑戦」といった言辞に拠って、これを非難する反応が横溢(おういつ)していた。参院選の最中に「暴力」による介入が行われたのであるから、確かに「民主主義体制に対する挑戦」である。

 ただ、この「民主主義体制に対する挑戦」という反応それ自体は、誰も異論を差し挟まない半ば定型的なものであり、そうした定型的な反応に世が終始している事実にこそ、日本における民主主義体制の「腐食」の相が表れるのではないか。

政治家とは命懸けの仕事

 「政治家とは、文字通りの命懸けの仕事である」。安倍暗殺の報に接したおり、筆者が真っ先に抱いたのは、こうした感慨であった。若き日に永田町インサイダーであった筆者にとっては、政治家という仕事が諸々の危難の事態を頭の片隅に置いておかなければ務まらないものであるとは、当然の諒解(りょうかい)であった。

 事実、民主主義体制下であっても、米国におけるエイブラハム・リンカーンやジョン・F・ケネディ、さらにはロナルド・レーガンの事例にまつまでもなく、政治家が遭難する例は後を絶たない。日本では、大正デモクラシーを経た昭和初期においても、犬養毅、浜口雄幸、高橋是清といった政治家が危難に遭った。戦後においても、岸信介や浅沼稲次郎といった政治家が遭難している。

 これは、民衆の期待や願望だけではなく、怨恨、嫉妬、あるいは誤解や憤激といった「負の感情」をも受け止めざるを得ない政治家の宿命なのではないか。それ故にこそ、筆者は「政治家という仕事を軽侮してはいけない」と声を大にして語ることにしよう。こういう遭難の危険にさえも向き合う覚悟を持った人々だけが、政治家という職責を担い得る。「生半可な気分で永田町を目指そうとするな」というわけである。

誰でも選挙に出る「権利」はあるが……

 付け加えれば、筆者が大学での講義中、選挙で「選んではいけない」政治家の基準を説く際に指摘しているのが、政治家が時に自衛隊に防衛出動命令を出し、時に死刑執行命令書に署名する「酷薄な職業」であるということである。そうした「酷薄さ」に向き合う覚悟を持たない人々もまた、「永田町」に足を踏み入れようとしてはならない。

 それ故にこそ、「『パンとサーカス』の提供に熱心な政治家」、「国民の『感情』に便乗する政治家」、 「根拠のない『夢想』を振りまく政治家」、「『綺麗事』に終始する政治家」の四つは、「選んではいけない」政治家の基準になるのである。

 実際には、先の参議院議員選挙でも、「命懸けにして酷薄な仕事」を手掛ける「資質」や「覚悟」を微塵(みじん)も感じさせない候補が少なからずいたように見受けられ、政治に向き合う「真摯(しんし)さ」に疑問すら投げ掛けている。選挙戦中、「候補者の当選ではなく政党助成金の獲得」を企図していることを公言していたNHK党の姿勢は、そうした「真摯さ」の欠落を典型的に表していたといえよう。

 誰にでも選挙に出る「権利」があるというのが、民主主義体制の建前である。けれども、政治に携わる「資質」や「覚悟」が誰にでも備わっているわけではないというのも現実なのである。「民主主義の擁護」を誰でも口にする時世ではあるけれども、そうした民主主義を担う政治家の「資質」や「覚悟」を問い質す言説は、意外に多くない。

 前に書いたように、安倍暗殺という事態を受けて、「民主主義体制に対する挑戦」という定型的な言葉が流布する自体に、民主主義体制の「腐食」を観た筆者の意図は、ここにある。

拡大国会議事堂。手前は衆議院本館=2022年6月24日、東京都千代田区

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筆者

櫻田淳

櫻田淳(さくらだ・じゅん) 東洋学園大学教授

1965年宮城県生まれ。北海道大法学部卒、東京大大学院法学政治学研究科修士課程修了。衆議院議員政策担当秘書などを経て現職。専門は国際政治学、安全保障。1996年第1回読売論壇新人賞・最優秀賞受賞。2001年第1回正論新風賞受賞。著書に『国家への意志』(中公叢書)、『「常識」としての保守主義』(新潮新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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