メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

実は公明党と似ている日本維新の会。どういう政党か~参院選で躍進。今後は……

「政党」としての公明党~一学究の徒の政治学研究【10】

岡野裕元 一般財団法人行政管理研究センター研究員

 「論座」では「『政党』としての公明党~一学究の徒の政治学研究」を連載しています。1999年に自民党と連立を組んで以来、民主党政権の期間をのぞいてずっと与党だったこの党はどういう政党なのか、実証的に研究します。10回目は、先の参院選で躍進した日本維新の会について、公明党を参照しつつ論じます。(論座編集部)
◇連載「『政党』としての公明党~一学究の徒の政治学研究」は「こちら」からお読みいただけます。

参院選の投開票を受けた共同会見で質問に答える日本維新の会の松井一郎代表=2022年7月10日、大阪市北区

 2022年参議院が終わった。日本維新の会は12議席(改選前6議席)を獲得。比例区では立憲民主党を上回る躍進ぶりを見せた。

 とはいえ、今回も「大阪府外の壁」は高かったようだ。近畿圏の大阪選挙区(4人区・2人当選)、兵庫選挙区(3人区・1人当選)で強さを発揮したのに対し、近畿外の9選挙区(東京、千葉、埼玉、茨城、愛知、京都、奈良、広島、福岡)では次点(選挙データの参照先は、「参議院議員通常選挙(2022年7月10日・第26回)」『朝日新聞』2022年7月11日閲覧)。首都圏での唯一の成果は、神奈川選挙区(4+1人区・1人当選)で、同県知事だった松沢成文氏が当選したのみだ。

 今回、候補を擁立した7選挙区(埼玉、東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫、福岡)で全員の当選を果たした公明党(13議席獲得)にとっても、近畿圏は選挙地盤の一つであり、それは維新と重なる。2021年衆院選の小選挙区で公明党は9議席を獲得しているが、うち6議席が近畿だ(公明党HP「第49回衆院選 結果分析」2021年11月3日2022年7月7日閲覧)。

 本稿では、既存の報道、著作や先行研究等も用いながら、維新とはどのような政党かを整理し、確認する。そのうえで、次回、次々回は日本維新の会の藤田文武・幹事長(衆議院議員)への取材・インタビューも交えつつ、党組織の実態に迫りたい。維新の歴史については、塩田潮『解剖 日本維新の会 大阪発「新型政党」の軌跡』(平凡社、2021年)が詳しいので、そちらも参照していただきたい。

カリスマが党を創立

 第1回「自民党との連立で「質的役割」を果たした公明党~ライバルは日本維新の会か」でも指摘したが、公明党と日本維新の会は実はよく似ている。「突拍子だ」と思われるかもしれないが、公明党を論じるなかで、各党の政党組織も比較、考察し、改めてそう強く認識させられた。

 共通点のひとつは、カリスマの党創立者(公明党は池田大作氏、維新は橋下徹氏)が存在するということだ。

 橋下徹氏は2015年12月に大阪市長を退いた後も、「政界を去った後も松井や大阪市長の吉村洋文と定期的に連絡を取り合い、その言動は維新に対して依然強い影響力があった」と指摘される(朝日新聞大阪社会部『ポスト橋下の時代 大阪維新はなぜ強いのか』朝日新聞出版、2019年、p.35)。ただ、2022年3月末、橋下氏が代表を務める事務所は、大阪維新と法律顧問の契約期間を終了している(「橋下徹氏、大阪維新の会と法律顧問契約解消」『産経新聞』2022年4月6日2022年7月7日閲覧)。

 維新を理解するには、松井一郎・大阪市長、浅田均・参議院議員の存在も欠かせない。作家の塩田潮氏によると、大阪維新の会の2010年4月の結党メンバーの一人である岩木均氏は、「『維新を作り上げたのは橋下さんの発信力、松井さんの求心力、浅田さんの政策力です』」と評している(塩田潮『解剖 日本維新の会 大阪発「新型政党」の軌跡』平凡社、2021年、p.41)。「浅田、松井、橋下はその後、『維新の三本柱』と呼ばれることになる」(同書、p.41)。とはいえ、松井氏も7月10日に代表辞任を表明した(「維新・松井一郎氏が記者会見で代表辞任を表明、党初の代表選へ」『朝日新聞』2022年7月10日2022年7月11日閲覧)。

 池田大作氏の人物像は、主著である『人間革命』などを読むと見えてくるが、巨大組織を率いるだけの力量もあってカリスマ性があると感じる。筆者は創価学会員ではないが、今回初めて国会図書館で少しだけ読んだ。外部から見た創価学会の研究については、数多くの著者があるので、詳細はそちらに譲る。

 とはいえ、本稿と次稿は、両氏のパーソナリティを分析するものではない。公明党との比較も交えつつ、国政政党・日本維新の会及び地域政党・大阪維新の会(以下、維新と略記する。)の党組織について政治学的に論じることが目的だからである。

「大阪維新の会」発足式で乾杯する橋下知事(中央)=2010年4月19日、大阪市北区

>>>この論考の関連記事

「維新から見た大阪」の状況

 維新が大阪で強い支持を得ている以上、「維新から見た大阪」を確認する必要があるだろう。吉村洋文・松井一郎・上山信一『大阪から日本は変わる 中央集権打破への突破口』(朝日新聞出版、2020年)も参考に整理すると、次のようになるのではないか。

 大阪の住民には、先人たちが築き上げた歴史への誇り(豊臣秀吉の大阪城、江戸時代の「天下の台所」など)と、大正から昭和初期頃に発展した「大大阪」時代のノスタルジーがある。首都圏の人にとって、「大大阪」という言葉はあまり聞き慣れないかもしれないが、大阪が「面積や人口、工業生産額でも日本一となり、かつての『天下の台所』から、『東洋一の商工地』と呼ばれる近代的な産業都市へと変貌を遂げた」時期を指す(「街の力 『大大阪時代』伝える建築」『毎日新聞』2018年11月21日2022年7月2日閲覧)。

 しかし、戦後、大阪は首都圏に遅れをとる。それは、大学の数、人材の集まり具合、成長産業の育成、一人当たりの県民所得、東京への本社移転など、各面で見られる(吉村洋文・松井一郎・上山信一『大阪から日本は変わる 中央集権打破への突破口』朝日新聞出版、2020年、pp.82-83、p.87)。

 東京に対抗するには、総合的な都市戦略が必要であり、許認可レベルの規制緩和だけでなく、財政支出・投資も必要である。大阪市は大阪府の中心で、大阪市民数は府民の約3割を占める。大阪維新の会は、大阪府知事、大阪市長のポストを獲得し、府議会・大阪市議会で多数派を占め、府市の二重行政打破も含めた行政マネジメント(行政管理)に注力している。

 なお、砂原庸介教授(神戸大学法学部)は、大阪を中心とした戦前からの大都市と政治・行政の関係(都市問題も含めて)について、『大阪―大都市は国家を超えるか』(中央公論新社、2012年)で丁寧に扱っている。

地方行政の知見や成果が政策に反映

 地方政治は二元的代表制のため、首長と議会(地方議員)に分けて考察すると、維新への理解が進むだろう。首長は、予算案の調製、地方議会への提出、予算の執行など予算について強い権限がある(財源、税制については別途議論が必要)。強い人事権も有する(実質的に行使できているか否かは別)。首長は、住民からの支持で直接選出される。

 維新は、大阪府・市で首長の強い権限をフル活用し、行政マネジメントを試みた。日本維新の会が訴える政策には、大阪府・市での行政運営で得た知見や成果が随所に反映されている。例えば、2022年参議院選で維新が掲げた六つの重点政策のうち、最初に掲げたのは、「出産無償化×教育無償化。将来世代への投資を徹底。」。地方行政分野と親和性のあるテーマ(社会福祉、教育)であり、現役世代をターゲットにしている(日本維新の会「参議院議員選挙2022 重点政策」2022年7月7日閲覧)。

大阪府庁=大阪市中央区

維新の選挙戦略の要諦

 もっとも二元的代表制である以上、首長ポストだけでなく、議会多数派も獲得する必要がある。中・大選挙区を採用する地方議員選挙においては一般に、「候補者は党の主張より個性を強調しがちだが、維新は個性より、党の公約を前面に出す」点に特徴がある(「『コンビニ戦略』大阪発の躍進」『朝日新聞』2021年11月28日朝刊)。

 善教将大教授(関西学院大学法学部)は、2018年当時、次のように指摘している(善教将大『維新支持の分析 ポピュリズムか、有権者の合理性か』有斐閣、2018年、p.62)。

 中・大選挙区制において政党ラベルを機能させる基本戦略は、複数の候補者を擁立せずに1人に絞るというものである。しかし維新はそのような戦略を採用せず、むしろ積極的にさまざまな選挙区で複数人を候補者として擁立している。通常、このような選挙区では政党ラベルが手がかりとなりにくいことは既述のとおりだが、そこには1つの例外がある。それは同一政党から複数人が擁立されていたとしても、候補者間の差異がわからない場合である。つまり「どちらでもよい」という状況を戦略的につくり出した場合、たとえ同じ政党所属の候補者が複数人、同一選挙区に擁立されていたとしても、政党ラベルは機能する。

 維新の戦略の要はまさにこの点にある。すなわち維新の候補者は、たとえ同一の選挙区に自らの所属政党と同じ候補者が擁立されていたとしても、都構想の実現を前面に押し出し、維新の候補者であることを積極的にアピールする傾向が強いのである。

 また、善教教授は、「維新コンジョイント実験」というものを行い、政党ラベルの因果効果の推定を試みている。「その結果、小選挙区制のような政党対立が生じやすい環境であっても、中選挙区制のような政党対立が生じにくい環境であっても、維新支持者においては維新ラベルが投票選択を左右する重要な要因となっていることが明らかになった」と指摘する(同書、p.221)。

>>>この論考の関連記事

自民党譲りの「徹底した地上戦」や組織戦も

 とはいえ、なぜ党の公約を前面に出しながらも、中・大選挙区を採用する地方議員選挙で強いのか。それは、実際の選挙戦の戦い方も見ると明瞭となる。

 そもそも維新の初期中核メンバーは自民党出身者だ。「橋下徹が提唱した大阪都構想をめぐって自民は2010年に分裂し、とりわけ大阪府議会の自民若手と中堅が維新へ流れていった」(朝日新聞大阪社会部『ポスト橋下の時代 大阪維新はなぜ強いのか』朝日新聞出版、2019年、p.88)。自民党府連で実務を担っていた議員らである。

 吉村洋文・松井一郎・上山信一の3氏の共著では、2011年4月の統一地方選の頃の様子として次の記述がある(吉村洋文・松井一郎・上山信一『大阪から日本は変わる 中央集権打破への突破口』朝日新聞出版、2020年、p.180)。

 好成績の背景には、ふだんから地元を歩くという地道な活動がありました。大阪維新の会のメンバーは、現職議員でも自分の選挙区を歩き回っています。「他党のポスターを貼っていようが、行け、行け」と。みんな住宅地図を持って、留守のところを「ル」と書いて、反応がいいところには丸を付けて、といった具合に、結党以来、ずうっと地域を歩き続けているのです。

 テレビだけ見ていると、大阪維新の会の選挙というと橋下さんが選挙カーの上からワーッと演説して盛り上がる空中戦のイメージが強いかもしれません。しかし、じつは大阪維新の会の真骨頂は徹底して地元を歩くこと。地道な地上戦なのです。

 まずは、こうした自民譲りの「徹底的な地上戦」を行う党内文化を理解する必要がある。朝日新聞記者の蔵前勝久氏も、次のように指摘している(蔵前勝久『自民党の魔力 権力と執念のキメラ』朝日新聞出版、2022年、p.168)。

 維新の出自は、自民党にある。だからこそ、大阪で与党の立場にある維新の議員たちは、自民党の地方議員と同じように、御用聞きのような徹底的な「どぶ板」をこなし、地盤を固めている。知事も市長も押さえることで、与党議員として行政へのパイプも強調できる。維新の地方議員が増えるのは、大阪での与党構造のあり方として必然である。

 そのうえで2019年4月の大阪ダブル・クロス選挙(大阪府知事選、大阪府議選、大阪市長選、大阪市議選)では、より組織的な選挙戦術を展開した。「選挙戦で維新は、前線の所属議員らに幹部名で次々に指示を出していた」(朝日新聞大阪社会部『ポスト橋下の時代 大阪維新はなぜ強いのか』朝日新聞出版、2019年、p.127)。「維新で独自に演説内容を分析した結果を、議員選の候補者らと共有する目的だった」(同書、p.128)。具体的には、次の様子が伝わる(同書、p.128)。

 列挙したのは五つのワード。「二重行政」「民営化」「大阪の成長戦略」「大阪万博誘致」「大阪都構想」――。いずれも維新が重視してきた政策と深く関わるものばかりだ。
 「ストーリーとキーワードを念頭に置き、発信してほしい」

 指南書は、維新幹部から候補者たちの元に連日届いた。「(彼岸の祝日には)多くの府民が集まる寺周辺地域の活動に力を入れて」「ソフトなイメージも発信して」――。そのたびに議員らの街頭での演説内容は修正され、統一感が醸成されていった。

 議員政党の自民党のような「徹底した地上戦」と組織戦を併用。候補者は、公募経由で擁立されるため、党への忠誠心もある。それが維新の選挙なのである。

強力なアジェンダ設定が求められる二つの要因

 なぜ、維新は強気なアジェンダ設定を続けるのか。二つの要因が考えられる。

・・・ログインして読む
(残り:約4907文字/本文:約10427文字)