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中国でなぜ「共同富裕」が実現しないのか

縮まらない貧富の格差を「税制」から読み解く

村上太輝夫 朝日新聞オピニオン編集部 解説面編集長

なお深刻な貧富の差

 「共同富裕を着実に推進する歴史的段階に入った」

 中国を率いる習近平・共産党総書記(国家主席)が、重要経済政策を企画する中央財経委員会でこう宣言したのは昨年8月17日のことだ。

演説する習近平国家主席=2021年7月、中国共産党結党100周年の記念大会、新華社
 国じゅうのみなが豊かになるという理念を意味する共同富裕という言葉自体は目新しいものではないが、2020年末に貧困の撲滅を宣言したことを受け、社会主義を掲げる中国として次の段階のキーワードを改めて打ち出したのは自然な流れだったと言える。中国社会における貧富の差はなお深刻だからだ。

 ところが、いざ政策実行となると、どうもうまく進まない。

 共同富裕の実現を阻んでいる要因について、ここでは主に税制から考えてみた。

 中国社会の所得の不平等は、ジニ係数(完全な平等が0。1に近づくほど不平等の度合いが大きくなる)でみれば、政府が公表した2020年の数値が0.468で、近年はこれに近い数値で推移している。主要国より不平等の度合いは大きく、社会が不安定化する警戒水準とされる0.4を超えている。

 また、所得上位20%、下位20%の世帯の平均収入を比べると、習政権下の2013年以降、倍率は10倍を超えたままで、最近は数字が動いているが、改善したとは言い難い(グラフ参照)。中国経済は分配面の不十分さを抱え続けているのである。

貧富の差が縮まらない中国の世帯年収

「不動産税」の導入は延期に

 この現実に対し、習氏が中央財経委で繰り出した政策方針は、不平等是正にいよいよ切り込むかにみえた。

 当時報じられた通り、発表文には「3つの分配」が明記された。

 まず第1次分配は市中の経済活動を通じた分配であり、資本と労働の間の分配や労働者間の分配を言う。第2次分配は、それらを税や社会保障制度を通じて移転することを指す。一般に言う所得再分配である。さらに第3次分配とは、道徳心に基づく自発的な寄付を意味する。

 計画経済を放棄した今、第1次分配にメスを入れることは難しい。日本を含む多くの国では、第2次分配、すなわち税制と社会保障で再分配を図っている。

 ところが、まず焦点が当たったのは第3次分配だった。

小米科技(シャオミ)の5G対応スマートフォン=2019年
 中央財経委の方針を受け、動画投稿アプリTikTokで知られるバイトダンスの創業者やスマホ大手小米科技(シャオミ)の創業者らが相次いで貧困対策や教育支援の寄付を表明した。テンセントやアリババなども社会問題解決支援の投資をすると決めた。これで、ともすれば共産党支配から脱線しがちな民営企業を政権の統制下に置き、庶民に寄り添わせる格好がついた。

「共同富裕」に対する行動計画を策定したアリババ集団の本社=2020年11月、浙江省杭州市
 政権は第2次分配、すなわち税制でも手は打った。不動産税(=日本の固定資産税に相当)の導入である。

 中央財経委の方針が出た2カ月後、全国人民代表大会常務委員会が一部地域で試験的に不動産税を導入すると決定した。家計資産の大半を占める不動産は大都市部で価格高騰が続き、持てる者と持たざる者との差を深刻化させてきただけに、課税は的を射たものと言えた。しかし今年3月になって延期が発表された。抵抗が大きかったこと、不動産市況が低迷していたことなどが理由とみられている。

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